番組開始
アメリカズ・ゴット・ヒーロー収録当日。
この日、俺達はカルフォルニア州にあるバサテナ市民講堂にやってきた。
バサテナ市民講堂はカルフォルニアで最も有名な歴史的建造物で、テレビ番組や映画で非常に人気のロケ地でもある。
講堂内は広大で、華やかな装飾には格調が漂っていた。2階にはバルコニー席も設けられ、総座席数は3000にも上るというから、その規模の大きさに『流石はアメリカ』だと言いたくなる。
講堂内はすでに番組の準備が整っていて、ステージにはアメリカズ・ゴット・ヒーローの看板と4人の審査員の合否マーク、それからアメリカの星条旗を彷彿とさせる大きな星のマークが大きく飾られていた。
『X』のような形をした白い合否マークは、ステージの真正面に用意された長細い机のような4人席にも設置されていた。あそこが審査員席なのは言うまでもない。
俺とソイはそんな会場内に感嘆しながら、控室に移動してヒーロー衣装に着替えた。
「ねぇゼン。今日のパフォーマンスタイムに何をするか、決まったの?」
「まぁ、一応な。変身の術を使おうと思ってる」
「いいね。ライオンとかゴリラに変身すれば、見栄えもいいし強そうって思ってもらえるよ、きっと」
変身するのはゴリラでもライオンでもないが、そこはあえて伝えなかった。
「だけど、僕としては折角のチームだから、二人でするようなパフォーマンスをしてみたかったなぁ。それで、前に悩んでいたことは解決したの?」
「あぁ。俺達のチャンスのために犯罪を見逃すことも、実践ステージで戦うヴィランがいなくなることもない、画期的な方法を思いついた。それを今日のパフォーマンスタイムで見せるから、楽しみにしてくれ」
「え? どんなことをするか、教えてくれないの?」
「それは……」
正直、言いづらい。
これは一種の賭けだ。
成功すれば一番目立つことができる反面、失敗すればパフォーマンスタイムで強制終了する可能性もある。
そんなギャンブルにソイを付き合わせるのは申し訳ないが、言ったら止められそうな気がして言葉を濁した。
俺の態度を見て察したソイは、呆れたように小さくため息をついた。
「わかった。言いたくないんだったら、止めはしないよ。ゼンを信じる。その代わり」
「その代わり?」
「もし失敗したら、タイムリープした後は真っ当なパフォーマンスに変更してやり直してね」
「…わかった」
個人的な出来事をやり直すのはポリシーに反するが、このパフォーマンスにはソイの人生もかかっている。
…まぁ、とりあえずは作戦が上手くいくことを祈ろう。やり直すかどうかは、失敗した時に考えるか。
控室でパフォーマンスの準備をしていると、会場から大きな歓声が聞こえてきた。
どうやら番組が始まったようだ。
俺は会場の様子を、控室にあるモニターでチェックした。
司会者は始めに、審査員席に座っている人物を順番に紹介していた。
一人目の人物は、株式会社ヨンウンのキム・テヤン社長だ。
キム社長は、きちんと仕立てられたスーツに高級腕時計、傷一つない革靴を身につけた、中肉中背の中年男性だ。その整った身だしなみから、誰もが一目で彼が社長であることを察するだろう。
株式会社ヨンウンは、韓国に本社のある世界有数のヒーロー会社だ。近年ではアメリカでも事業を拡大し、その規模は現地の大手ヒーロー会社にも引けを取らない。
これほどの企業をキム社長は一代で築き上げたというのだから、その手腕には頭が下がる思いだ。
二人目の人物は、トゥインクル・スターダスト事務所の社長、パーフェクトジュエルだ。
パーフェクトジュエルはその名の通り、肌も髪も目も、全てが宝石のように輝いている女性だ。彼女自身もアメリカのトップヒーローで、今も第一線で活躍している。
トゥインクル・スターダスト事務所はニューヨーグなどの主要都市を中心に活動する、アメリカで一番人気のヒーロー会社だ。ヒーロー志望のアメリカ人は、誰もがトゥインクル・スターダストに入るのを夢見るらしい。その倍率はなんと2000倍。ヒーロー認定証を持っていても2000人に1人しか入ることができないのだから驚きである。
ちなみに、シンガールが所属しているのもこの事務所だ。それだけで、彼女がいかに優れたヒーローであるかがわかるだろう。
三人目の人物は、パラゴン・ガーディアンズ事務所のイマーニ・ダミタ・ウィンフリーだ。
ウィンフリー社長は、小柄で朗らかな笑顔がよく似合う少女だ。…いや、『年齢操作』の異能を持っているから、実年齢は『少女』と呼べる歳ではないのかもしれない。
パラゴン・ガーディアンズ事務所は実力重視のヒーロー事務所だ。『世界で最も強いヒーローランキング』のトップ10は全員この事務所のヒーローだった。それだけ強いヒーローばかりが所属する理由は、デストロイトやメンブィスといった凶悪犯罪が多い都市を中心に活動しているからだろう。ウィンフリー社長がヒーロー研修後のドラフト会議で、ドラフト1位のアイスペインターを熱烈に勧誘していたのは記憶に新しい。
四人目の人物は、株式会社ネクサスのエリック・マティアス・フォーゲル社長だ。
フォーゲル社長は…アレはどう見ても反社だ。プロレスラーのように鍛えられたムキムキボディに、人を殺しそうなくらい鋭い目。ヒーロー会社の社長よりマフィアのボスと言われた方が納得する風貌だな。
株式会社ネクサスは世界で一番歴史のあるヒーロー会社だ。アメリカ各地に支社があり、多くのヒーローがここに所属している。俺がアメリカに来て一番初めに就活したのは、ここの事務所だ。あの時、ヒーロー試験のことを教えてくれた面接官には感謝しかない。
審査員四人の説明が終わると、いよいよパフォーマンスタイムが始まった。俺達の出番は、幸か不幸か一番最後だ。俺達は控室のモニターで、他のヒーロー達がどんなパフォーマンスをしているのか視聴しながら出番を待った。
「我が名はマントマン! 敵の攻撃はこのマントでひらりと躱す!」
「お目目パッチリ! パチパチガールちゃん登場! あなたのハートをパチパチにしてあげる♪」
見た目も異能も悪くないヒーローは、軽々とパフォーマンスタイムをクリアしていく。俺達も彼らの後に続きたいものだ。
「我は脇毛王! 究極の脇毛奥義を貴殿達にもお見せしよう!」
ブーッ!!
「颯爽と現れる漆黒ボディ! コックローチマン、参・上!」
ブブーッ!!
中には残念なヒーローもいたが、彼らはパフォーマンス早々にブザーを鳴らされて失格となっていた。
会場内に響くブザーの音は心臓に悪い。
…それにしても彼ら、あんなパフォーマンスでよく予選を通過できたな。
そんな感じで次々と他のヒーロー達のパフォーマンスが終わっていき、とうとう控室には俺とソイだけが残された。
「それでは、最後のヒーローを紹介しましょう! シンガール推薦の新人ヒーロー・シャドウズのお二人です!」
会場内に司会者の声が響き渡った。
── いよいよ、俺達の出番だ!




