様子がおかしい
今日の夜……いや、日付が変わったから、昨日の夜か。
昨日の夜11時55分に、大地震が起こるハズだった。
今回、俺は地震対策を何一つ行っていない。
だから当然、時間になれば地震が来ると信じて疑わなかった。
それなのに何故、地震が起こらないんだ?
確実に言えるのは、今回の俺の行動が直接犯人に影響を与えた、ということくらいだろう。
俺がソイの部屋で遊んでいる間も、分身達はいつもと同じ動きをしていた。
だから分身による影響はないと考えていいだろう。
今回、行動を大きく変えたのは、本体の俺だけだ。
ということは、地震発生の1時間前に死に戻りしたから、そこから今現在に至るまでの本体の行動にヒントがある。
俺は死に戻りしてすぐに、ソイの部屋に向かった。
夜中だったこともあってか、ソイの部屋に着くまでの間、誰ともすれ違っていない。
つまり、今回の俺が直接関わったのは、ソイとシンガールだけだ。
まさか、二人の中に犯人がいるのか?
そうであって欲しくないと願うも、俺の直感がそうだと告げている。
……いや、シンガールは最初に地震が起こった時、ずっと一緒に電話していた。
ということは、まさか…?
「ソイが、犯人なのか?」
今思えば災害が起こった時、ソイと一緒にいた記憶がない。
それに地震も、火災も、津波も、台風も…。
全てソイの異能で実現できそうな災害だ。
「僕が犯人? 何の話?」
唐突な俺の発言に、すぐ側にいたソイはただ首を傾げた。
本気でわからない、という顔だった。
今から災害を起こそうと考えている奴が、こんな無垢な表情をするとは考えにくい。
……いや、今回はまだ災害は起こっていないが。
こうなったら直接、災害時のソイの行動を確かめるか。
「なぁ、ソイ。もし、仮にだけど…」
「仮に?」
「仮に、ソイが何らかの事件の犯人になった場合、過去に戻ってソイの行動を監視したり、記憶を覗いても大丈夫か?」
「僕が犯人に? 変なことを聞くなぁ」
ソイは心当たりがないのか、俺の質問を不審がるというよりかは、質問の意図がわからず戸惑っている様子だった。
「僕が進んで犯罪をすることはないと思うけど?」
「万が一の話だ。俺だって、ソイが好き好んで犯罪をするヤツじゃないって信じている」
それに現時点ではソイは容疑者に過ぎない。
俺が直接関わったのがソイというだけで、ソイの行動を変えたことで真犯人の行動が変わった可能性……つまり、ソイが間接的に事件に関わっているだけの可能性だって十分ある。
できれば仲間を監視するようなことはしたくないが、他に解決方法が見つからない以上は仕方がない。
だからこそ『本人の許可を得た』という免罪符が欲しい。
「そう? まぁ、未来の出来事は誰にもわからない……って、ゼンは例外か。もし僕が何かをやらかしたんだったら、直近の行動を監視するくらいならいいよ。だけど、できれば記憶を覗かれるのは嫌だなぁ。恥ずかしいし。どうしてもって場合なら、仕方ないけどさ」
「そうか、ありがとうな。もしソイが犯罪者になってしまうことがあれば、なるべく記憶は覗かないように気をつける」
一応、本人の了承は得られたし、過去に戻って確認するか。
俺は昨日の11時まで時間を戻すと、透明化してソイの部屋に入り、彼の行動を監視することにした。
この時間のソイは本人の言う通り、寝る準備をしていた。
ソイは念入りに歯を磨いた後、コップ1杯の水を飲み、アイマスクをしてベッドに入る。
そして午後11時20分には、完全に眠りについた。
その間、誰かから電話がかかってきたり、スマホをいじったりすることはなかった。
特に怪しい動きはない。
それどころか、完全に寝ついたから、ここから何かをするなんてあり得ない。
俺の勘違いか?
ソイが犯人じゃなさそうで安堵する反面、彼に対する罪悪感と、未だ姿を現さない真犯人への警戒心が、俺の中で交錯した。
ソイが寝ついて数分経つが、当たり前のように何も起きない。
ソイの部屋は静寂そのものだ。
強いて言えば、彼の小さな寝息くらいしか聞こえてこない。
このままソイを監視するだけ無駄か?
諦めかけた、その時。
ソイは突然、アイマスクを取り外して上半身を起こした。
もう起きたのか?!
俺はソイの動きを警戒して、様子を見る。
ソイの様子は、明らかにおかしい。
いつも温和な雰囲気で優しい顔をする彼が、今は氷のように冷たく、無表情だ。
しばらくそのままベッドで呆然としていると、突然、思い立ったようにキッチンへした。
そしてキッチンにあった包丁を手に取る。
すると、刃先を喉元に突きつけた。
早まるな!
…と止めそうになったが、そこはグッと堪えて様子を見守る。
するとソイも、喉に刺す直前で手を下ろし、包丁を元の場所にしまうと再びベッドへと移動した。
…まさかソイ、自殺を考えているのか?
今までそんな素振りは見たことがなかった。
というより、今のソイはまるで別人のようだ。
別人のようなソイ、といえば、あの時もそうだ。
俺は以前、地震30分前にソイに電話をかけた時のことを思い出した。
俺の頼みを躊躇うことなく『断る』と言い放った、冷たい声。
今の時間的にも、あの時の断ったソイと今のソイは同じと考えていいだろう。
ソイはベッドで大の字になって寝転ぶ。
すると、なぜか静かに涙を流し始めた。
涙は耳の方へと流れていき、枕を湿らす。
…今のソイは、思い詰めているような感じがするな。
時刻は11時54分。
あと1分で地震が起こるというタイミングで、再びソイに動きがあった。
「……みんな、殺せばいいのか!」
ソイは小さな声でそう呟くと、再び立ち上がった。
「待て、ソイ!」
何をしようとしているか察した俺は、透明化を解除してソイの前に現れた。
動機はまだわからないが、今から地震を起こそうとしていたのは明白だ。
「えっ?! あなた、どうしてここに…?」
突然現れた俺に、ソイは目を大きく開いて呆然とする。
「今、何をしようとした?」
「……あなたには、関係ないわ」
俺の質問に、ソイはバツが悪そうに顔を逸らした。
話してみて改めて思ったが、やはりいつものソイとは違う。もしかして、本当に別人なのか?
鑑定の異能を使えば、本人かどうか分かるかもしれない。
試しにソイの異能をチェックしてみた。
【ソイの異能】
①火炎
②水流
③大地
④疾風
⑤植物
⑥金属
⑦超加速
⑧寄生
⑨強化
なんだ。以前と同じじゃないか。
と思いかけたが、よく見たら異能が増えている。
『寄生』と『強化』は以前は持っていなかった。
どんな異能なのか、鑑定の異能で詳しく分析する。
『強化』はその名の通り、異能の効果を強化する異能のようだな。
問題は『寄生』の方だ。
この異能は、他人の身体に寄生して、相手の肉体どころか異能すらも自由にコントロールできるようになる異能だ。
ということは十中八九、誰かが『寄生』の異能でソイに乗り移っているのだろう。
そして『強化』の異能とソイの異能を同時に使うことで、大災害を起こしているに違いない。
災害を起こしていた犯人は、ソイに寄生していた人物だったんだ。
どおりで、ソイが災害を止める活動に関わっている時は、災害が起こらないワケだ。
「なぁソイ。いや、ソイの中の人。今はアンタが寄生してソイを操っているんだろ? で、今から地震を起こそうとしている。……違うか?」
「どうしてそれを…?」
中の人物は、俺の推理を肯定するかのような疑問を口に出す。
ソイは操られていただけだと分かって安堵する反面、彼が操られていることに戸惑と焦る気持ちが湧き上がった。
「良かったら、どこの誰だか教えてくれないか」
俺は『洗脳』の異能を使いながら尋ねる。
できればソイの記憶を覗くことなく、情報を探りたい。
だけど中の人物はかなり警戒しているからか、洗脳されることなく、無言を貫いた。
「それじゃあ、なんで地震なんか起こそうとしているか、だけでも教えてくれよ?」
「だから、あなたには関係ないって言ったでしょ!」
ソイは金属の異能で手裏剣を複数作り出すと、それを素早く俺に投げた。
俺は再び透明化し、手裏剣を避ける。
その間にソイは窓から外へ出て、超加速の異能で町を駆け回った。
「待て!」
俺はソイの後を追いかけた。




