表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
追放されたトップヒーロー、海外進出する〜俺がいなくなったら劇的に治安が悪化するけど日本の皆さん大丈夫?〜  作者: サトウミ


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

21/37

追跡

部屋から出たソイは、ボートランドを駆け回りながら町を破壊する。


ある場所では、まるでキャンプファイヤーをするかのように建物を真っ赤に燃やした。

またある場所では、3匹の子豚に出てくる狼のように、一瞬で建物を吹き飛ばした。


地割れして建物が崩れ落ちているところもあった。

無数の鉄パイプのようなもので無秩序に串刺しにされている建物もあった。


ほんの数分前まで静寂だったボートランドは、今や阿鼻叫喚な地獄絵図と化した。

ところどころで逃げ惑う人々を見かけたが、彼らの悲鳴は、次々と崩れる建物の音にかき消された。


俺は透明化したままハヤブサに変身し、真っ直ぐにソイを追いかける。

だがソイは『超加速』の異能を使っている上に、『風』の異能で追い風を作ったり、異能を『強化』したりしているせいで、なかなか追いつけない。


その間にも、町は着実に破壊されていく。

この町で生き残っている人は、最早少数派だろう。

プロのヒーローですら、ほとんど生き残っていない。

こんな中で頼りになるヒーローは、彼女だけだ。


「もしもし、大丈夫か?」

俺は分身を使い、シンガールに電話した。


「フーマ!? 大丈夫だったの? それより町が…! どうして? 一体、何が起きてるの?」

彼女は声を荒げて、質問ばかりを投げかける。


「説明は後だ! とにかく、今すぐソイを捕まえてくれ!」

「えっ? サスケを?」

「ソイが町中で災害を起こしているんだ!」


それだけ伝えると、俺は強引に電話を切った。

そして分身達を使い、生き残っている人々を助けつつも、ソイが近づいて来たら進路を塞いで捕まえようと構えていた。

だけどソイの超加速は厄介だ。町中の分身を使っても、速すぎて捕まえるどころか通せんぼすらできない。


「これ以上は、もうやめてくれ!」

ダメ元で分身全員で洗脳の異能を使い、説得を試みる。

しかし、洗脳どころか分身の声すら、高速で走り回るソイに届くことはなかった。


俺の力だけで止めるのは無理だ。

ソイを止める方法を考えていると、シンガールが崩れた建物から出てくるところが見えた。

丁度いい。彼女と合流しよう。


「大丈夫だったか、シンガール?」

俺は彼女のそばに近づくと、人間の姿に戻って透明化を解除した。


「フーマ! ねぇ、どういうことか説明してよ! キミ、何か知っているんでしょ!? なんでサスケが町を滅茶苦茶にしているの?」


「簡潔に言うと、ソイはヴィランの異能で操られている。動機は分からない。だから捕まえて聞き出したいんだ」


「サスケがヴィランに? 相手は、どんな異能を使っているの?」


「『寄生』と『強化』だ。相手はソイに寄生して肉体を乗っ取っている。その上で『強化』したソイの異能を使って町を破壊しているんだ」


シンガールは息を呑む。

だけど彼女はプロのヒーローだ。

状況を把握すると、途端にヒーローらしい、凛とした表情になった。


「それで? サスケはどこにいるか分かる?」

「今はボートランドオーグスパークにいる。ただ、アイツは超加速の異能で逃げている。普通に追いかけても、追いつけない」


「だったら待ち伏せしましょう。サスケが逃げる方向を誘導するの」

「それはさっきからやっているが、無理だった。俺に一つ、作戦がある。その作戦にはシンガールの力が必要なんだが、頼めるか?」


「勿論よ。それで、作戦って?」

「実は、替え歌を歌ってもらいたいんだ」


俺はシンガールがいつも歌う曲の歌詞を少し変えて、彼女に歌ってもらうことにした。

これなら彼女も心を込めて歌えるはずだ。


彼女は俺の歌詞を聞くと、息を大きく吸って深呼吸をする。

そして大きく息を吐くかのように、力強く歌い始めた。


「サスケは、いつも。

私の、隣。

サスケは、ずっと。

──私と、一緒!」


彼女の歌は、荒廃したボートランドに響き渡る。

すると俺の予想通り、シンガールの歌はすぐにその効果を発揮した。


ソイは彼女に引き寄せられるかのように、一直線に俺達のもとへと来る。

俺達を見て反対方向へ逃げようとしていたが、頭の向きは変えられても身体の向きまでは変えられないようだ。


ソイは抵抗虚しく、シンガールの半径1メール以内にまで近づく。そこで俺はゴリラに変身し、抵抗されないようにソイを拘束した。


「やめて! 放して!」

ゴリラの腕力に敵うはずもなく、俺の腕の中で身体を捻るようにもがくも、逃げられない。

それならばと、火の異能で俺を燃やそうとしてきたが、無効化の異能を持つ俺には通用しなかった。


「駄目だ。これ以上アンタに町を破壊させない」

これ以上、犯人にもソイにも罪を重ねて欲しくない。

ソイはそれでも抵抗し続け、今度は超加速させた右足を勢いよく頭の上まであげ、そのまま俺の顔面を蹴る。その動きを予想できなかった俺は、頭の透明化が間に合わず、もろに攻撃が当たって拘束する手が緩んだ。


「そんなことをしても無駄よ!」

俺の拘束から抜け出して逃げようとしたソイだったが、シンガールの歌のせいで俺達の側から離れられない。抵抗するソイを見たシンガールは、即興で替え歌を作って歌い出した。


「サスケは、ずっと。

私の、そばで。

抵抗もせず。

──大人しく、する!」


その歌の効果はすぐに表れ、あれだけ暴れていたソイが、まるで鎮静剤を打ったかのように大人しくなった。

今なら冷静な話し合いができるだろうか?


「なぁ、アンタ。なんで、町を滅茶苦茶にしたんだ。良かったら教えてくれ」

洗脳の異能を使いながら尋ねると、ソイ…いや、ソイを操っていた人物は、俺達を睨みながら話し始めた。


「……みんな死ねば、もう終われると思った」

「終われるって、何がだ?」

「誰かに寄生する人生が」

あれだけソイの身体を利用して暴れていたのに、寄生するのが嫌だったのか?


「寄生するのが嫌なら、今すぐサスケの寄生をやめればいいじゃない?」

「それができたら! とっくの昔にやってる!」


シンガールはどうやら犯人の()()を踏んでしまったようだ。犯人は声を荒げて、怒りを露わにした。


「ずっとずっとずっと、寄生するのをやめたかった! 自分の人生を生きたかった! でも、どうすれば異能を解除できるか、私にも分からないの! もう、こんな異能、嫌っ…。お母さん…お父さん……」


目から溢れた涙が、頬をつたって、雨の雫のように地面に落ちた。と同時に、犯人は力が抜けたかのように、膝を地面につけて座り込んだ。


動機はなんとなく分かった。

恐らく犯人は『異能制御不全症候群』なのだろう。

思春期を境に異能をコントロールできなくなる、原因不明の症状。

きっと犯人は、そのせいで『寄生』の異能が解除できず、ずっと誰かに寄生したまま生き続けたのだ。


その苦労は想像を絶するものに違いない。

誰かの身体に寄生しないと生きられない人生なんて、考えただけでも悍ましい。


『寄生』の異能がコントロールできない。

ということは、勝手に誰かに寄生するだけでなく、異能が勝手に寄生先をも変えてしまっていたのだろう。

犯人はソイの身体を使って自殺しようとしていたが、諦めていた。

あくまで推測だが、死のうとしても異能が勝手に次の寄生先を見つけて移行するから、普通に自殺しても無駄だと思ったのかもしれない。


だから災害を起こして拡大自殺を図ったのだろう。

次の寄生先が見つからなければ、新しい身体へ移行することなく自殺できるからな。


ソイに災害が起こることを伝えた時は、決まって災害が起こらなかった。

それは『何もしなくてもそのまま死ねる』と思ったから、災害を起こさなかった…のかもしれない。


「…それは、辛い人生だったな」

励ましの言葉が思いつかず、それしか言えなかった。

犯人はまるで子供のように咽び泣いている。

だけど犯人はソイに寄生しているから、子供のように泣いているのはソイだ。

普段のソイでは絶対に見られない、シュールな光景だ。


「ところで、アンタ。もし寄生しなくて済めば、災害を起こさないよな?」

「はぁ? 当たり前じゃない! 私だって、こんなこと、したくなかった。普通に生きたかった。もう、こんな身体はイヤ!」


ということは、犯人の異能制御不全症候群をどうにかすることができれば、解決できるってわけだな。


「シンガール、お願いがあるんだけれど、いいか?」

「何かしら?」


「犯人が寄生の異能を解除できるような……そんな歌を、歌ってくれ」

「えぇ、勿論よ。実は、私も同じことを考えていたの。今のサスケを見ていたら、何か思い浮かびそう。ちょっと待ってて」


彼女が歌を作るところを見るのは、何周ぶりだろう。

地震の時も、火災の時も、津波の時も、彼女はいつだって試行錯誤しながら真剣に作っていた。


災害を止める歌は町のみんなを救うための歌だったが、今回の歌は犯人を救うための歌だろう。

そう考えると、自分のためだけの歌を作ってもらえる犯人が贅沢に思えた。


やがてシンガールが歌を完成させると、一曲丸々通して歌い始めた。


シンガールが歌い始めた歌は、いつもの力強い歌とは正反対だった。まるで幼い子どもを優しく抱きしめるかのような、繊細な歌だ。聞いているだけで心が洗われる。


歌ってしばらく経つと、彼女の歌の効果が出始めた。

ソイの背中から、まるで蛹から蝶へと羽化するように、犯人と思われる人物の頭がゆっくり出てきた。


これは引っ張った方がいいのか?

いや、下手に引っ張ったせいで出てこなくなったら大変だ。しばらく様子を見よう。

などと考えているうちに、犯人の身体は首から肩、胴体…と順番に出てくる。

その光景は、出産で赤子が産まれてくる場面を彷彿とさせた。


「…ん…ぁ……」

やがて犯人は足の先まで全て出てきたところで、長い眠りから目覚めるかのように、ゆっくりと目を開く。


ソイから出てきた犯人は、赤毛と緑色の瞳を持つ20歳前後の女性だった。長年寄生し続けていた影響か、彼女は不健康に痩せていた。

彼女は上体を起こすと、自分の身体を見回しながら、確かめるように顔や腕、胸などを掴む。


「…嘘?」

彼女は立ち上がると近くに落ちていた鏡の破片を拾い、自分の顔を確認する。鏡に映った姿を見た彼女は、笑顔なのか泣き顔なのか分からないくらい歪な表情を浮かべた。


「無事にソイの身体から抜け出せていそうか?」

彼女は俯くように頭を縦に振ると、小さく掠れた声で『ありがとう』と言った。


「これでもう、暴れたりしないよな?」

「しない。けど……」

彼女は荒れ果てたボートランドを眺めて、言葉を失う。その瞳は今のこの町のように、どんよりと曇っていた。


「町は、もう…」

彼女はそれ以上、何も言わなかった。


「アンタにこれ以上、暴れるつもりがないんだったら良かった」

「良くないに決まってるでしょ!? 私が今更やめたところで、町はもう元に戻らないじゃない! こんなことをする前に戻れていたら…。もう、何もかも、手遅れよ」


「そんなことはない」

これ以上は暴れない、ということは『寄生の異能の暴走』以外の犯行の動機はないということだ。つまり、それさえ対処できれば簡単に犯罪を防げる。


「これから、やり直しせばいい」

「やり直せるわけ、ないじゃない! 私のせいで町は滅茶苦茶だし、たくさんの人が死んだ。どんな理由があったって、死刑は確実よ! それにあなたのお友達だって、私が操っていたとはいえ、人を殺した罪から逃れられないわ。一生ね!」


「だったら、()()()()()()にすればいいさ」

「『無かったこと』って、そんなの無理よ! ふざけているの?」


「いいや。俺は大真面目だ」

普通なら無かったことにできないことでも、俺ならできる。


「今から俺はみんなを救いに行く。この町も、ソイも。もちろん、アンタもだ」

「私を、救う…?」

俺の言葉に、彼女は目を丸くした。


「だから最後に、アンタの名前だけ聞いてもいいか?」

「…フィオナ・マーフィー」

「フィオナか。いい名前じゃないか」


それだけを確認すると、俺はシンガールの記憶をコピーした。

そして地震が起こったあの日に戻った。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ