研修先、決定。
アメリカヒーロー協会・本部。
会議室にて。
「今年の新人は豊作ですね。しかも例年と比較して優秀なヒーローが多い」
私達役員は、先日まとめた新人ヒーローの資料をもとに、新人ヒーローの研修先とバディとなるヒーローを決める打ち合わせをしていた。
「アイスペインターにエレキスイッチ、パワフルボーイ…。才能あるヒーローが多すぎて配置に困りますね」
「特に、シャドウズの二人はどうしますか? この二人、ただでさえ実技試験の結果が優秀すぎるのにチームなんか組まれたら、他の新人ヒーローの出る幕がないじゃないですか」
「えっ、そうなんですか? ちょっと二人の資料を見せてください」
「はい、コレです」
「どれどれ…。じ、実技試験満点?! こんなの、モーメン・トイ以来の快挙じゃないですか!」
「そのモーメン・トイ相手に圧勝したそうですよ。しかも本気のモーメン・トイ相手に」
「有り得ない。一体、どんな異能を使えばモーメン・トイに勝てるというのですか。…って、あれ? この資料、どういうことですか? 風間善さんの異能の欄に『推定』と書かれているのですが?」
「なんでも、彼曰く『異能無効化の異能を持っているため、鑑定の異能で確認することはできない』らしいです。手品やマグレで本気のモーメン・トイに圧勝することは不可能ですし、彼が異能と思われる現象を発現しているのを目撃している人は大勢います。ですから、少なからず異能があることは確かです」
「異能が不明確な上に、実技試験満点ですか…。彼は一体、何者なんですか?」
「日本人らしいですし、もしかしたら日本でプロヒーローをやっていたのかも知れませんね。それと個人的には、シャドウズのもう一人のヒーローも気になります」
「えっと、ソ・イチャンさんですか。異能は火炎に水流に疾風に…え、コレ本当ですか? 異能が7つあるだなんて、トップヒーローでもなかなかいませんよ? しかも異能は、単体でも強力なものばかりですし。こんなに強い異能をいくつも持っているなら、すぐにトップヒーローの仲間入りをしそうですね。…あ、だけど実技試験の総得点は92点ですか。まだまだ成長途中って感じですね」
「何を言っているのですか。その資料、よく読んでください」
「え? …デーモンマン戦が44点で、モンキーガイ戦が48点?! モーメン・トイ戦が0点…。そういうことですか」
「相手が本気のモーメン・トイでなければ、130点は確実に超えていたでしょうね」
「ということは今年の130点超えは、アイスペインターにエレキスイッチ、パワフルボーイ、それからシャドウズの二人の、合計5人ですか。例年なら130点超えは2人いたら多い方ですが、5人もいるとなると多すぎて逆に困りますね。ちなみに本気のモーメン・トイと戦ったヒーローは、他にいますか?」
「いいえ。シャドウズの二人だけです」
「では130点超えは実質5人で確定ですね。研修先はニューパンプキン州とメーン州、バーモンド州の3箇所なので、どう分けても5人全員をバラけさせるのは不可能です」
「うち二人はチームなので、実質4組ですが」
「だとしても一組あぶれます」
「どうにかなりませんかね。130点超えのヒーローには、研修で確実にヒーローポイントを稼いでキャリアを積んで欲しいのですが…。これじゃあ将来有望なヒーロー二人が競合して、互いのチャンスを潰してしまいます」
「優秀なヒーローがヒーローポイントを稼げずに研修後のドラフト会議で指名されなかったり、ヒーロー会社に就職できなかったりしたら、目も当てられないですね」
「優秀なヒーロー4組に対して、研修先は3箇所。…どうにかなりませんかね?」
「彼らの内の誰かの研修を、1年遅らせますか?」
「一人だけ研修を遅らせるなんて不自然ですよ。それをするならば他にも数名、何かしら理由をつけて研修を遅らせなければ、差別もしくは贔屓だと思われます。第一、来年も豊作だった場合、どうすればいいのですか? 問題を先送りにしているだけではありませんか」
「でしたら、逆に研修先を増やすのはどうでしょうか?」
「簡単に言いますが、3箇所以外で研修先に相応しい場所はありますか?」
「3箇所と同じくらい治安が良くて、安全に研修が行えそうな場所は…う〜ん、思いつきませんね」
「そういえば、ミツカン州のデストロイトは最近、治安が良いらしいですよ。噂じゃ、日本やアイスランドと同じくらい平和だとか」
「あっ、それ私も聞いたことがあります。デストロイトのヒーロー会社で働いている友人に聞いたのですが、半年くらい前から急激に犯罪件数が減ったそうです。おかげで仕事がなくなりそうだと嘆いていました」
「まさか。あのデストロイトですよ? ミツカン州の中でも特に治安の悪いデストロイトが、急に日本並に治安が良くなるなんて有り得ないですよ」
「ですがWolletHubの今年の調査によると、治安のいい都市ランキングでデストロイトがメーン州のボートランドを抜いて上位にランクインしているそうです」
「にわかには信じがたいですが、WolletHubの調査結果であれば疑う余地がありませんね」
「ならデストロイトを追加で研修先にしますか?」
「たった半年、治安が良いというだけで研修先に選ぶのは早計では? もし研修中に治安が元に戻ったら、殉職する新人ヒーローが大勢出てしまいます」
「でしたら、今年はデストロイトを研修先にするかのお試し期間にするのはどうでしょうか? 現在デストロイトに住む新人ヒーロー数名の研修先をここにして、特に問題がなければ本格的にデストロイトを第四の研修先にするのです」
「それはアリですね。デストロイトの治安が元通りになってもフォローできるように、デストロイトの新人ヒーローはベテラン二人をつけてトリオで活躍してもらいましょう」
「ちょっと待ってください。そもそも研修先を増やす案が出たのは、先程話題に出た5人のヒーローを分散させるためでしたよね? 『デストロイトの新人ヒーローは現地に住んでいる人の中から選ぶ』という話ですが、彼らの中にデストロイトに住んでいる人はいるのですか? いなければ本末転倒では?」
「確かにそうですね。ちょっと確認してみます。……あっ、いました! アイスペインターとシャドウズの風間善さんです」
「その二人だったら、アイスペインターをデストロイトにしましょうか。二人組のヒーローに二人のベテランヒーローをつけたら大所帯ですし」
「では決まりですね! あぁ良かった。これで優秀なヒーロー達が埋もれる心配がなくなりましたね」
「しかも、これでデストロイトでの研修がうまくいけば、新しい研修先が増えるので一石二鳥です」
「デストロイトでの研修が成功するといいですね」
……一年後。
私達は、この時の判断を後悔することになるとは、思いもしなかった。
デストロイトは、ある日を境に治安が元通りになった。
まるでデストロイトを守っていた特別な力が、突然どこかへ消えてしまったかのように。
なぜ突然、治安が元に戻ったのか?
その原因が私達にあったのだと気づくのは、もっと先の話だった。




