研修初日
「今日から研修、かぁ…」
アメリカ北東部にある、メーン州・ボートランド。
そこが、俺とソイの研修先だ。
ボートランドは港町で、赤煉瓦が並ぶ海沿いの町並みは美しく、心が癒される。
この町はロブスターが有名だそうで、新鮮なシーフードとクラフトビールは絶品だ。
それだけでもこの町が研修先で良かったと思える。
俺とソイは、ボートランドにある寮の食堂で、外の景色を眺めながら一緒に朝食を取っていた。
「僕達のバディになるヒーローは、一体誰だろうね?」
「ヒーローの本場・アメリカで活躍してるくらいだからな。相当な凄腕が来るのは間違いないな。俺はアメリカのヒーローに詳しくないから、どんなヒーローが来るかは想像できないけど、ソイはこっちのヒーローには詳しいのか?」
「僕もゼンと似たようなものだよ。強いて言えば、僕達はヒーロー試験上位組だから、バディには中堅ヒーローが付くんじゃないかな?」
中堅ヒーロー、か。
試験で戦ったヒーロー達も、新人のバディになっているのだろうか?
「ところでゼン。前に言っていた『未然に犯罪を防ぐ活動』だけど、いつから始めるの? 研修が始まってから?」
「あぁ、それなら実は、アメリカに来てからずっと個人で活動を続けていたんだ。ってか、今も続けている」
今の寮に引っ越す前まではデストロイトを中心に犯罪防止活動を続けていた。
だけど研修でボートランドに引っ越してからは、ボートランドを中心に犯罪防止に努めている。
ボートランドは元々犯罪件数が少ないから、デストロイトよりも広い範囲で街を守れる。
とはいえ、俺一人だけだと遠く離れたデストロイトまでは守りきれない。
日本を出る時も後ろ髪を引かれる思いだったが、デストロイトは犯罪件数が多いから余計に心配ではある。
…いや、余計なお世話か。
『俺がいないとデストロイトが大変なことになる』という考えは傲慢もいいところだ。
アメリカのヒーローは優秀じゃないか。
ヒーロー試験があるくらいなんだから。
俺一人がいなくなったところで、誰も困りはしない。
俺はもっと、アメリカのヒーロー達の能力を信じるべきだ。
日本を出る時だって、散々ヒーロー仲間
に『俺達を信用しろ』と言われたじゃないか。
…そういう自分の能力を過大評価した態度が無意識に出ていたから、日本で人気が出なかったのかもしれないな。
「今も活動を続けてる…って、どういうこと? もしかして分身を出してパトロールでもしているの?」
「まぁ、今はそんなところだ。ソイには研修の流れがわかってから手伝ってもらうつもりだ」
「そうなんだ。手伝って欲しくなったらいつでも言ってね」
ありがたい言葉だ。
俺達は朝食を終えると、更衣室でヒーローの衣装に着替えて研修の説明会場へと向かった。
◆◆◆
「皆さん、お久しぶりです。研修担当のジェームズ・ムーアです」
説明会場に着いてから数分後。
ジェームズさんが壇上に立って研修の説明を始めた。
「まずは今日からの研修で必要となる道具について説明します。予め皆さんの席に用意していた道具を確認してください」
俺達は机に置いてあった道具を、改めて確認する。
用意されていたのは小型のカメラと、豪華な装飾が施されたネームプレートだった。
ネームプレートには俺のヒーローネームとチーム名が書かれていた。
「皆さんには今日からヒーローとして活動する際、仮ヒーロー証と研修生追跡カメラを常時身につけていただきます。この二つは異能で作られた特殊な道具で、たとえヴィランの異能攻撃を受けても簡単には壊れません。
では、それぞれの道具について説明しますね。
まずは仮ヒーロー証についてですが、これは皆さんがヒーローとして活躍した際に、自動的にヒーローポイントをつけてくれる道具でございます。
仮ヒーロー証をつけずにヒーロー活動をすると、その間はヒーローポイントが加算されませんのでご注意ください。
次に研修生追跡カメラですが、このカメラは皆さんがヒーローとして活躍している時に撮影し、その様子をテレビ中継します。沢山活躍すればテレビに出る機会が多くなり、そこからファンが増えるかもしれませんね。
この二つの道具は、研修中、絶対に無くさないでください」
へぇ。便利な道具だな。
日本じゃ、ヴィランを見つけたヒーローが通報して、それを受けた各局がヒーローのもとへ駆けつけて撮影していたな。
一人一人に専用のカメラがついてくるなんて、流石はアメリカだ。
「それから事前に話していたとおり、今日から皆さんには現役ヒーローとバディを組んで活躍していただきます。それでは、皆さんのバディとなるヒーローをお呼びしますね」
すると会場の中に、ぞろぞろと現役ヒーロー達が入ってきた。
見るからに大御所そうなヒーローや、小中学生くらいにしか見えないヒーロー、鳥のような姿のヒーローや、アイドルのように煌びやかなヒーローなど、様々だ。
そんな中、一人のヒーローが俺とソイの隣の席へと移動してきた。
その人は大きな目と唇が特徴的で、褐色の肌と長くて綺麗な黒髪が魅力的な女性のヒーローだった。
彼女は、私服で来たのかと思うほどにヒーロー衣装が普通だ。
カジュアルでお洒落な服を着ている彼女は、スタイルの良さも相まって、まるでモデルのようだった。
「こんにちは! キミたちがシャドウズで合ってる?」
「はい。僕達がシャドウズです。僕がサスケで…」
「俺がフーマです」
サスケとフーマは、チーム名とは別の、俺達個人のヒーローネームだ。
ソイは『忍者で思いつくのはこの名前しかない』という安直な理由でヒーローネームをサスケにした。
まぁ、『苗字が風間だから』という理由でヒーローネームをフーマにした俺が、人のことを安直だなんて言う筋合いはないが。
「サスケとフーマね! 私はシンガール。今日からキミたちのバディよ。よろしくね!」
「「よろしくお願いします!」」
俺達は笑顔でシンガールと握手をした。
彼女の異能を確認する。
異能は4つか。
一般人であれば多い方だが、アメリカのヒーローにしては少ない方だな。
シンガールという名前から察するに、主に使う異能は『歌』の異能だろう。
『気持ちを込めて歌うと、歌の内容が現実になる』という能力は使い方によっては万能だな。
「今日から二人は、私が教える研修ルートを毎日巡回して、街の平和を守ってもらうよ。私は基本的に二人のフォローしかしないから、ヴィランを見つけたり戦ったりは、キミたちが判断してやってみてね」
「「わかりました!」」
その後、シンガールに研修ルートを教えてもらいながら巡回し、研修初日は無事に終わった。
──研修の流れは分かったし、明日からはソイにあの活動を手伝ってもらうか。




