チームの方針、決定
提出期限があと3日にまで迫った、ある日。
俺はソイと一緒に、前に打ち合わせをしたカフェで再びチームの方針を考えていた。
「魔法使いと使い魔という設定はどう? 僕が魔法使いで、ゼンが使い魔でさ。僕が魔法使いだったら火や水を出しても不思議じゃないし、ゼンが使い魔だったら変身の異能をフル活用できる」
「それだと、チームというよりソイ単体のヒーローだと勘違いされそうだな。それに俺は基本的に人間の姿でヒーロー活動をしたい。動物モチーフならまだしも、動物のヒーローだと人間と会話し辛いし。ヒーローインタビューで動物の鳴き声しか喋れないのは嫌だ」
「そっか…」
「『全知全能の神』という設定のチームはどうだ? 俺の異能は情報収集に長けているから『全知の神』で、ソイの異能は自然系が多いから『全能の神』っていう設定にしてさ。神様設定だったら、二人の異能のイメージに合いそうじゃないか?」
「神様キャラを扱うのは危険じゃないかな? 下手なことをしたら今ある宗教の信者さん達に怒られそうかも。前にアイムアッラーっていうヒーローが炎上して殺されかけたニュースを見たことがあるよ」
「確かに、アメリカの人は日本人みたいに宗教観ユルユルじゃないからな。炎上したら注目度は上がるだろうけど、そんな方法で目立つのは二度とゴメンだ」
互いに案は考えてきていたものの、どれも今ひとつだ。
提出期限はあと3日。
今日で考えがまとまらなかった場合、お互い個人でヒーローになる道を考えた方がいいかもしれない。
そんな考えが頭をよぎった時、突然、無数の弾丸のようなものが音もなく、まるで横殴りの雨かのように俺達を貫いた。
コレはまずい。
俺は弾丸を心臓に喰らったものの、完全回復の異能のお陰で死は免れ、3秒も経たないうちに元の無傷な身体に戻った。
それより他の人達は無事か?
弾丸を喰らうと同時に、俺は近くにいたソイに完全回復の異能を使う。
ソイは頭に弾丸を喰らっていたが、俺が早めに異能を使ったお陰で死なずに済んだ。
俺は複数、透明化させた分身を出して周囲にいた人達の元へと駆け寄り、ソイ同様完全回復の異能を使う。
幸い、致命傷を受けた人達は皆、俺の近くにいたため即死は免れた。
一瞬の出来事で状況をまだ把握できていないが、これだけは分かる。
カフェにヴィランが現れた。
「ソイ、ヴィランだ!」
「わかった! ありがとう、ゼン」
俺達は体制を整えると、透明化した分身を使ってカフェの客達に状況を説明し、俺達の元へ集まるよう誘導する。
そして客達が一箇所に集まったところで、ソイは金属の異能を使って、周りに防弾盾を作り出しだ。
弾丸のような攻撃の正体は、一体何だ?
透明化した俺は、カフェ中を探索してヴィランの正体を突き止めようとする。
だけどカフェ中を弾丸が飛び交うだけで、それを操っている人間の姿が見えない。
異能化無効を持つ俺にも有効な攻撃、ということは、あの弾丸は間接的に異能が使われている、ということだ。
だとすればデーモンマンの尻尾のように、弾丸自体が犯人の肉体の一部である可能性が考えられる。
「ソイ、あの弾丸を捕まえることって、できるか?」
「わかった。やってみる」
ソイは防弾盾の前に、土と水の異能を融合させて作った泥の壁を作り出す。
すると、さっきまで防弾盾を貫通する勢いで当たっては跳ね返っていた弾丸は、泥に埋もれて動きが鈍くなった。
俺は泥の中から弾丸を取り出し、鑑定を試みる。
と同時に、弾丸は俺の心臓目掛けて飛んできた。
俺は致命傷を喰らったものの、その一瞬で無事に鑑定できた。
弾丸は俺の読み通り、ヴィランの肉体の一部だった。
ヴィランの異能は『肉体分裂』と『硬化』、そして『超加速』か。
あの弾丸の正体は、細かく分裂した上で硬化して超加速で移動させていた、肉体の一部だったわけだ。
「ソイ。このまま泥の壁で弾丸をキャッチして集めてくれ」
「了解!」
ソイはカフェ中に泥の壁を出し、飛び回る肉片を回収する。
すると、さっきまで四方八方にハエのように飛び回っていた肉片は、徐々にその数を減らしていった。
だがしばらく経つと、泥でキャッチした肉片の一部は泥の中から出てきて、また飛び回る。
「一旦、泥の壁を鉄で覆って弾丸が出てこれないように閉じ込めてくれないか?」
「わかった」
ソイは今作っている泥の壁を鉄で覆うと、残りの肉片もキャッチするために再び泥の壁を出す。
そして、その泥の壁も鉄で覆う。
…というのを数回繰り返して、飛び回る肉片を全て泥の壁の中へと閉じ込めた。
ヴィランの動きを封じ、カフェの安全を確認できたところで、俺達は駆けつけた警察にヴィランを引き渡した。
「ありがとうございます!」
「お二人がいなかったら、今頃、死んでいました」
「二人のようなヒーローがアメリカにいるなんて、本当に心強いよ」
カフェに居合わせた客達は、口々に俺とソイへ感謝を伝える。
その中には小学校低学年くらいの少年もいて、少年は俺達二人の活躍に目を輝かせていた。
「二人ともスッゲー! ねぇねぇ、二人ってもしかして忍者?!」
「ははは、僕達は忍者じゃなくてヒーローだよ」
「えぇ〜! つまんない! 二人とも日本人じゃないの?」
「一応、俺は日本人だけどな」
「だったら忍者でしょ? 日本人はみんな忍者で、世を偲ぶ仮の姿で生きているって、聞いたことがあるよ!」
かなりの偏見だな。
どこで得た知識だ?
少年の言葉に苦笑いしていると、少年の母親が彼の言葉をフォローした。
「この子、大の忍者好きなんです。さっきもお二人が戦っている時に『木の葉隠れの術だ』とか『土遁の術だ』と、はしゃいでいましたから。もし良ければ、適当に話を合わせてくださいませんか?」
…ん?
木の葉隠れの術に、土遁の術?
親子の会話を聞いて、俺の中に、まるで雷が落ちたかのような衝撃が走った。
「なぁ、ソイ!」
俺は興奮してソイに目を向ける。
するとソイも同じことを考えていたのか、目を大きく見開いて頷いた。
「ほら坊や。火遁の術だよ」
ソイは少年の前に手を出すと、小さな火の玉を作った。
その火の玉を見た少年は『スゲェ!』と大はしゃぎした。
「そして、これが水遁の術」
「変化の術に、分身の術だ」
俺達は忍者の技に見立てて、少年の前で次々と異能を繰り出す。
「スゲェ! やっぱり忍者だ! 本物だ!」
「ははは。拙者達は今、世を偲ぶ仮の姿でござる。拙者達が忍者であることは内密にしてくだされ」
そう言うと少年は満面の笑みを浮かべて、忍者ごっこをしながら帰っていった。
「…なぁソイ。チームの方針が見えたな」
「うん。さっきの少年には感謝しないとね」
「今日から俺達は、忍者のヒーローだ!」
忍者であれば、俺の異能もソイの異能も存分に使える。
ソイの場合は、土遁の術に火遁の術、水遁の術を異能で繰り出すことができる。
それに金属の異能で手裏剣を繰り出すこともできるし、超加速の異能は俊敏な忍者のイメージに合う。
俺の場合は、木の葉隠れの術に変化の術、分身の術が使える。
俺の異能は情報収集に長けた異能が多いから、諜報活動をする忍者と相性がいい。
隠密行動をする忍者は『正体を隠してヒーロー活動をしたい』という俺達二人の希望とも合う。
これほどまでに、俺達に合った題材はあるだろうか?
「決まりだね!」
その後、俺達は『忍者のヒーロー』という方針でチーム名とヒーロー名を考えた。
すると、あれほど悩んでいたのが嘘のように、チーム名もヒーロー名もあっさり決まった。
今日から俺達は、チーム『シャドウズ』だ!




