3話-12
「あと少しで山頂だ。もうひと踏ん張り頑張ってくれ! 山頂に着いたものから休憩、昼食をとってくれ。
いいか、他の登山客の邪魔にならない場所を探して、集団で昼食を取る事。昼食を終え次第、先生が声をかけるまで自由行動だ。
前野、よろしく頼む」
西園寺先輩は前野先輩に予備のトランシーバーを渡して、そのまま進んでもらう。自分はその場に残り、やがて最後尾を歩いている私たちに合流した。
「世良、結構離されたな」
「この子たちのペースに合わせているからね、しょうがない。どうせ先輩も承知の上で歩くペースを落としたんでしょ」
世良さんと共に二人の新入部員が歩いている。一人はヒルに噛まれた子で、痛みを耐えながら頑張って登っている。休憩地点でそのまま待機するかと世良さんに訊かれたが、山頂まで歩くとはっきり答えた。ヒルに噛まれた時も取り乱したりせず、しっかりした子だ。
もう一人は少し酸欠気味らしい。昨日余り良い睡眠がとれず、睡眠不足と高所で酸素が薄い事で気分が悪くなり、世良先輩が付き添ってペースを落として歩いていた。
休憩を多くとり、その度に西園寺先輩は皆の体調と、先の登山道の確認をしている。世良先輩も、班員全員に声をかけ、脚をもませたり靴を脱がせたりする事で怪我の防止に備えている。
二人が班長として休まず行動を続けるからこそ、安全な登山になっている。だが、下山する時の余力も考慮した上で登山をしないと、陽が落ちて大変危険になる。山小屋だって事前に予約をしなければ泊まれないのだ。
安全な道を、さらに安全に登る為に、彼女たちはやれる事に全力を出す。私たちも班員たちもその事を理解しているので、きちんと自分の足で、自分のペースで登ろうと思う。体調が悪い時はゆっくり歩いて構わないのだ。
「違いない。お前たち、重ければ荷物を貸せ。それだけで大分違うぞ」
「部長、私たちの荷物は陸上部の人たちが待ってくれてます」
「羽月さん、春日野さん、ありがとう。迷惑かけてごめんね」
西園寺先輩がこちらを見る。私たちのリュックの中に、彼女たちの荷物が入っている。と云っても、飲み物とお弁当だが。
登山時に飲み物は一人二リットル程度必要とされている。そこで、二リットルサイズのペットボトルではなく、五百ミリのサイズのを四、五本持っていき、空になったら順次潰して持ち歩くのがベストだそうだ。リュックの総重量で飲み物の割合が高くなるので、こまめにペットボトルを潰すことで容量の確保と軽量化を同時に行う事ができる。
「迷惑だなんて。これ位全然平気」
「そうですよ。あと少しで山頂です。着いたらしっかり休んで、美味しいご飯を食べましょう!」
私もチョコも伊達に陸上で鍛えていない。外周だけでなく、そのまま周辺の散策も兼ねたランニングをしているので、アスファルト、土、傾斜やぬかるみなど、地面の状態を数えると枚挙に暇がない。でこぼこ道や曲がりくねった道なら任せて欲しいし、荷物を持つ事で負荷がかかる位がちょうど良い。
「そうか。ありがとう、二人とも」
((わ、笑ったぁぁぁぁ〜!!))
フッと笑う西園寺先輩は、その低い声に相反してめちゃくちゃあどけなく、見るもののハートを打ち抜く程の攻撃力を持っていた。
私、チョコ、世良先輩、班員の二人は、もれなく全員打ち抜かれて撃沈。違う意味で足が上がらなくなった私たちを見て、西園寺先輩が、きょとんとする。
「どうした? あと少しで山頂だ。いくぞ。ついてこい!」
「「一生ついていきますっ!!!」」
「?」
首を傾げ再び登り始める西園寺先輩の後ろで、世良先輩が私たちに、こっそり秘密を明かす様に囁く。
「先輩のときおり見せるあの笑顔見たさに、私たちは登山してるんだよ」




