2話-17
教室に見知らぬ人たちがやってきた。
「本日こちらで同好会の活動をさせていただきます『漫画研究会』です。許可証はこちらに貼りつけておきますのでご確認下さい」そういって、黒板に磁石で紙を貼っていた。
「どうやら、今日はうちの教室に白羽の矢が立ったみたいですね」
「私たちも帰った方がよさそうね」
私たちが席から立ち上がると、先程話していた代表の人が、それを制してきた。「お気になさらず、私たちは、ただ漫画の話をしてるだけですので。さぁ、皆さん、はじめましょう」
帰るタイミングを見失った私たちは、再び席に着いて勉強に取りかかった。もうすぐ試験があるのだが、この高校では試験中の部活禁止はあれど、試験前はとくに制限がないらしい。漫研への許可がおりたのもその為だろう。なので、陸上部は自主的に勉学に励んでいるのだ。
チョコと机をくっつけて対面で勉強をしている。私がギリギリで合格した事は既にチョコに話しているので、チョコは自身の勉強兼私の教師役をしている。分からないところで質問をすると、答えがすぐ返ってくる。スムーズに勉強が進んでまるで自分が頭が良くなったかのように錯覚する。余程教え方が上手いのであろう。
だが、性分なのだろう、私は次第に勉強に飽きてきた。目の前のチョコは、何やら赤いフレームの眼鏡をかけて熱心に問題を解いている。ふと目が合うと「どうしましたか?」ときいてきた。「いや、何も」「そうですか」再び問題に集中するチョコだが、眼鏡に対してツッコミをいれた方がいいのかな?
漫研の面々は先程の漫画の話を終えて、今度はアニメの話に移った。耳をそばだてていたが、会長──さっきの代表者が会長だった──の話し方がとても上手く、ついつい引き込まれてしまう。まるで上質の落語を聴いているようだ。
「それで、次は〇〇の話だが」会長がそのアニメのタイトルを云った途端、反射的に私は答えてしまった。
「それよく聴いてます!」
一瞬教室がシーンと静まりかえり、チョコの呆れた声が聞こえた。
「真央さ〜ん」
「ごめん、つい」私は手を合わせて謝った。続いて漫研にも。だが、意外にも彼らは話を深掘りした。
「よく聴いているとは?」
「私陸上部なんです。朝ランニングしてる時、音楽を聴いたり落語を聴いたり、英語のラジオを聴く人がいますけど、私の場合はアニメなんです」
「アニメは映像がなくても成り立つからな」会長が首を縦に振って同意する。
「そうなんです。特に日常系のアニメって、効果音のタイミングやセリフの呼吸がばっちりで、音だけでやりとりしている映像が頭の中に浮かぶっていうか、音だけでも楽しいっていうか」
「その楽しみ方は玄人っぽいな。アニメは絵が動いてナンボのものだが、最近の技術の進歩は目覚ましいからな。絵がなくても成立する」
「会長、それはアニメと云えるのですか?」
「そうですよ、それじゃドラマCDじゃ」
「ならドラマCDもアニメなんだろうな。アニメを観た後に原作漫画を読むと声がついたり、原作小説を読んで映像が思い浮かぶのは、想像力を、アニメの絵が補完しているに他ならない。それに、映像がなくても楽しめるアニメに、映像がついたら……最高だしなっ!」
「そうなんですっ! 普段映像つきのアニメを観ているからこそ、映像なしでも映像が出てくるっていうか」
「お前とはうまい酒が飲めそうだな」
「ですね」
私と会長はガシッとお互いの手を握り合った。ここに新たな友情が生まれたのだ。
「新しい扉を開かせてくれた礼に、我が漫研に代々伝わる漫画を読ませてやろう。とくと見るが良い」そういうと会長は、古い金属の箱を机の上に置いた。箱には鍵がかかっている。
「鍵はないので、これで開ける」二本の金属の棒を取り出し、カチャカチャすること十秒──、カチリと音がして、会長は金属の棒を引き抜いた。箱の蓋を両手でゆっくり開ける。
「「おおっ」」
いつの間にかこちらにきたチョコと共に、私は感嘆の声をあげた。中には古ぼけた数冊の本が入っていた。タイトルは……
「十二克戦記」
もろパクリだった。




