2話-16
やがてマスターが休憩から帰ってきて、千作さんが帰り際に二、三言葉を交わしていた。夜のピークタイムになり、喫茶店ながら来る人来る人軽食軽食軽食のオンパレードだ。マスターの作る料理は美味しい。特に人気なのは「マスターのマスタードサンド」と、「鉄板焼きオムそば」の二種類だ。
「マスターのマスタードサンド」はその名の通り、マスタードを効かせたホットサンドだ。パンに分厚めに切ったハムに癖のあるチーズを乗せ、オリジナルマスタードソースをかける。それをホットサンドメーカーでサンドし、両面がキツネ色になったら完成だ。サクッとしたパンの食感と、ソースとチーズが絡んだ火傷しそうな位熱々のハムが口いっぱいに広がり、一瞬後にマスタードが弾ける。シンプルだがボリュームもあり、これだけで満足できる。
もう一つの「鉄板焼きオムそば」は、鉄板焼きの要領で作られた少し太めの焼きそばをオムレツの様に卵で包んである。日替わりでサイドメニューがつき、手作りハンバーグ、一枚を半分に切った大きさの鳥モモの唐揚げ、大きいソーセージが一本等、ホットサンドよりもボリュームがある。こちらも人気が高い。
回転数を上げるために私を雇って、マスターと伊吹さんの二人で勢いよく作っていく。よく働く二人に置いていかれないように、私も接客お運びレジバッシングと目まぐるしく働く。ランチと夜の時間帯は、マスターが直々にいれるコーヒーの他に、ポットに入ったままのサービスコーヒーも用意してあるので、私が注いでそのまま提供するだけだ。平日は常連さんが多いが、休日は夫婦恋人家族連れ学生と、あらゆる客層がやってくる。共通してるのは、食べた後皆幸せそうな顔をしてるって事だ。
最後の一人が帰って、窓のブラインドを降ろす。個人店なので、閉店時間はばらつきがある。
「一華ちゃん、お疲れ様」マスターがいつものニコニコ笑顔で私を労ってくれる。
「これ、いつもの分。悪いね、現物支給で」そういって、ホットサンドをいくつかくれる。作ってくれてたみたいだ。
「わぁ、ありがとうございます。三華と多華士が喜びます」
「すまないね。本当は契約は八時までなのに、いつも無理して残ってもらっちゃって」
「えへへ、無理なんかしてませんよ。それに、こうしてマスターのホットサンドをいただけますから、お釣りがくるくらいですよ」
「もう片付けはいいから、コーヒーでも飲んでいってよ。伊吹、伊吹も付き合ってあげなさい」
マスターがコーヒーを二人分いれてくれる。豆の良い香りが鼻を抜けていって、口に含むと苦味と酸味が一体になって、爽やかな余韻を残していった。「美味しい。美味しいです、マスター」
あんなにコーヒーを入れるのが上手なのにマスターは照れ臭そうにしてて、伊吹先輩は悔しがる表情をしていた。「これがあの同じ豆かよ……」
「なぁ舞咲、今度のお前たちの対戦って『雪どかし競争』だよな?」
「いえ、雪どかしではなくて、『雪溶かし競争』だったはずですよ」
「……なら『雪どかし競争』で間違いないな。舞咲、それに俺を一枚かませてくれないか?」




