その2 【魔術"なる"術】
あれから数年余りが過ぎ、私もすっかりクソガキの仲間入りした。
かつては全くもって理解できなかったあの本も今では何が書いてあるのか大体分かるようになった。子供の成長は早いとはよく言ったものだ。
そして、この世界についても大まかに理解しつつあった。
まず長らく謎だった立地に関してだが、リンデットと私が暮らすこの森は、ラートゥーム大陸という巨大大陸の端に位置するエオニオン地方に存在しているようだ。
エオニオン地方自体は人の往来が多い栄えた地方らしいのだが、この森の存在がどうも厄介で、人は滅多に寄り付かないと言う。リンデット曰く、なんでもこの森は不可侵の森と呼ばれ恐れられているとのこと。
その理由はこの森の歴史に根付いているらしく詳しく聞こうとしたらはぐらかされた。知られたくないことでもあるのだろうか。
また、リンデットは厳密にはエルフではないらしい。
この世界には普通の人間を含めた、人族と総称される人型種族が数多く存在していて、彼女はその一種のセンペラル族なのだという。
センペラル族の特徴としては、長い耳と人間の寿命をはるかに上回る長寿が挙げられる。現に彼女はここ数世紀、この森から出たことはないと言っていた。しかし、とんでもない引きこもりだ。
しかし、未だに私がこの世界に来た原因に関わる情報は掴めていない。どうも、この家の書物はもっぱら魔術に関わるものが多く、その他はどこぞの人物が書いた書生本が数本程度あるくらいだ。
そこから察するに、どうやらこの世界は中世そこそこの西洋の情勢に通ずる部分がある。
本に度々、王国だの、貴族だの。そういう文言が飛び出してくるのは、そういう理由があるからだろう。ただ、それらも実際に目で見て確かめた訳ではないので推測の域は出ていない。
何にせよ、情報が少なすぎる。
この閉鎖的な森の中では、出来ることは限られる。
しかし、一体何故、私はこの世界に来たのか。
何か得体のしれない現象によって引き起こされた災害か、それとも誰かの意思か。
いずれにせよ。それを見極めるためにも、まずはこの世界について知らなくてはならない。
その一環として、最近は、リンデットから異世界の知識への教えを乞うことを日課としている。
まずは、彼女からこの世界のことをもっと知らねば話にならない。
話は数か月前に遡る。とある日の昼下がり、庭先で物珍しい虫を観察していたところ、
「おい」
と、ぶっきらぼうに私を呼ぶ声が聞こえた。
振り返るとリンデットが玄関からこちらに手招きをしている。
「なんだ」
こちらもぶっきらぼうに返事をする。
本来はもっと丁寧な言葉遣いをすべきなのだろうが、リンデットの口調を真似ていると自然とこれが身についてしまった。もっとも、彼女の方は別に気にしていないようだ。
「お前も今年で八つになる。そろそろ魔術について教えてやろうと思ってな」
「魔術?」
あの言葉だ。もっと小さかった頃に一度だけ見た謎の超常的な現象。それを指す言葉だ。
まだこの世界の知識が浅く何という意味か分からなかったが、今は分かる。あの時もリンデットは間違いなく、『魔術』と言っていた。
あの忌々しい不可思議な現象、なるほど魔術というのか。
術というからにはさぞ素晴らしい体系があるのだろうな。
「お前が赤ん坊の頃に一度だけ見せてやったものだ。まあ、そんなこと覚えてないだろうが。とにかく来い」
そう言うと、リンデットはそそくさと庭の中央へ歩みを進め、私もその後をついて行く。
「この辺りでいいか」
何かに目星をつけたように周囲を見渡すと、リンデットはその辺の茂みからひょいっと木の枝を拾い上げ地面に大きく図を描き始めた。
拍子抜けだ。魔術とやらを見せてくれるのか期待したが、始まるのは小難しい講義らしい。まあ、詳しく説明してくれるというならそれに越したことはない。
「まず最初に、魔術というものを理解しなくてはならない。お前は魔術の魔の字も知らんから、丁寧に説明してやる。よく聞け」
「はいよ」
「魔術というのは、言うなれば異なる領域から引き出したエネルギーを分解し、それを定められた式に基づいて再構築する行為だ」
うん。全く分からんぞ。丁寧とは、いったい何のことなのだろうか。
異なる領域? 引き出したエネルギーを分解? 定められた式に基づいて再構築? 一体何を言っているのかさっぱりだが、彼女の描いた雑な図を見るにその謎のエネルギーの分解と生成が鍵になるようではある。
「例えば、手から火を出したり、水を生み出したり、風を吹かせたり、人の能力を大きく超えた現象を引き起こすことが出来る。……まあ、実際に見た方が早いか」
今ひとつ要領を掴めていない私を察して、リンデットはおもむろに空いている手を少し離れた木に向けた。
最初からそうしてくれ。
「まずは詠唱。これが魔術において非常に重要だ。よく聞け、ガルウィンの名において命ずる――地を焦がす紅蓮よ、集いて鋭き刃を成せ」
どこか聞き覚えがある仰々しい台詞。
それに「ガルウィンの名において命ずる」という一節、あの時も同じような文言を言っていたような。
言葉が紡がれるにつれて、周囲の温度が高まる。朗らかな春の日差しが、急に真夏の灼熱に変わったかのようだ。そして、火の粉を舞い散らせながら、ゆっくりとリンデットの掌に熱が籠っていく。
やがて、小さかった火の粉が収束して、鋭く細まり、その切っ先が木へと向けられる。そうして現れたのは大きな炎の刃だった。
私は思わずその光景に見入った。
どうにも目が離せなかった。
にやりとリンデットの口元が笑った気がした。
「炎刃」
――瞬間、光が視界を占有する。
その余りの眩しさに顔を腕で覆う。
少し遅れて、衝撃と熱が体中を伝う。
熱い。ちょっとやかんに触れたとかそういう感じの熱さではない。ジリジリと体を照り付けるような熱さだ。
衝撃に体がぐらつく。何とか踏みとどまって、その光の先を凝視する。
リンデットの掌から放たれたそれは、一瞬ともいえる速度で、目標の木に衝突した。遅れて幹に赤熱した一本線が走る。そして、けたたましい音を伴って再び閃光が走る。
爆発。
激しい破裂が熱波を伴わせながら、けたたましい爆音とともに粉塵を舞わせる。その様子は差し詰めダイナマイトを連想させた。
そうして後に残ったそれは、無残にも四散し、焼けこげ、跡形もない。もはや木というよりはただの飛び散った炭に近かった。
舞い散る灰を手で払いのけながらリンデットは私に歩み寄る。
「とまあ、今のが実践だ。どうだ」
どうだもくそもへったくれだ。
全く理解できない。
いいや無茶苦茶だ。あんな現象。
前回見た風のそれとは次元が違う。あれはなんかちょっと便利な裏技みたいな感じだったが、今回の炎刃はもっと強力で、もっと恐ろしい。
あれが人に当たると考えると、ひとたまりもない。間違いなく消し炭だ。明確に殺傷能力がある。こんなものが存在してしまっていいのだろうか。
いやそもそも、それにどうやって、そんなものを掌から発生させたというのか。
悍ましい。そんな術が存在すること自体が悍ましい。銃とか刃物とかそういう次元の話ではない。ただ、文言を唱えただけで何もないところから発動できたように見えたぞ。
そんなバカげたことがまかり通るのか。この世界では……。
ごくりと、唾を飲む。
気になる。いや、すごく気になる。
仮に、魔術という不可思議な現象が、明確な理論と体系を以て成立しているとするならば、それを知ることでこの世界の未知にも踏み込むことが出来るかもしれない。
いやそれよりも、単純に私の知的好奇心が燻ぶられているのか。
その一見、空想のような術に確立された方法があるというなら。
私はそれを知らずして、この世界を知ることは出来ない。
そうだ。認めよう。この忌々しい魔術のすべてを、私は知りたいのだ。
「さっぱり分からん。もっと詳しく説明してくれ」
「まあ、そうだろうな。さっきの詠唱の解説をするか」
と言うと、リンデットはまた木の枝をひょいひょいと動かして地面に図を描きながら説明を始めた。
食い入るように聞いたところ、ざっくり整理するとこういうことだ。
彼女曰く魔術というのは『過程を無視して結果を得るようなもの』だとのことだ。
例えば、火をつける魔術があるとする。通常、火をつけるためには木と木をこすり合わせて熱を生み出したり、火打石を打ち付けて火の粉を生み出す必要がある。その過程の動作を省略し、火をつけるという結果だけを引き出す行為が魔術だ。
この過程を省略するために必要なのが、魔術式らしい。先ほどリンデットが行っていた詠唱『地を焦がす紅蓮よ、集いて鋭き刃を成せ。』とやらは、発話を以てそれを具体化しているとのこと。
この詠唱がかなり重要らしく、ここを粗末にすると正確に狙った効果を得られないらしい。というのも、魔術はイメージが重要で正確に何をしたいのかを具体化しないと望んだ結果は得られないとのことだ。
この具体化に必要なのが源流と呼ばれる存在だ。
なんでも魔術を使用するには、源流という力の源にアクセスする必要があるらしい。
人は生まれながらに自分に対応した源流との繋がりを持っているが、各々の規模には個人差があり、そもそも人間の多くが持つ源流のサイズでは、魔術を正確に発動させるには不十分とのことだ。
ちなみにセンペラル族は平均的に人間の数倍の源流を持っているとのことだ。なんだその無茶な設定。ますますセンペラル族に生まれ変われなかったことを後悔する。
だがまあ、魔術式の正確さには相応の源流を必要とするらしく、正確に具体化すればするほど、その分処理に源流を消費してしまう。
では、どうやってイメージを正確に具現化するほどの源流を得ているのかというと、どうも源流というのは継承可能らしい。個人では小さい源流も次の世代に受け継がせ代々研鑽を重ねることで大きくなり、十分な魔術を発生させるに至っているという訳だ。リンデットはそれを『源流の根』と言っていた。
ゲームで言う所のMPみたいなものと思っていたがそういう訳でもないらしく、源流というのは人間に宿るものではないらしい。さっきの別の領域というのはこれを指しているとのこと。
まあ、ともかく謎だった『ガルウィンの名において命ずる――』という一節はこのことを指しているのに間違いない。
リンデットもこの一節が抜けると『源流の根』にはアクセスできないと言っていたし。おそらくはガルウィン家の『源流の根』ということなのだろう。
「ということは、この源流ってのが巨大なら何でもできるってことか」
「そう簡単な話でもない。魔術において重視されるのはむしろ魔術式の方だ。どれほど膨大な源流を持っていようと、式が粗ければ魔術は失敗する」
「失敗ってどんな」
「具体的に言うと体から爆発する」
恐ろしすぎるだろ。
「まあ、源流をどこまで割いているかにもよるが。それほど強大な源流ともなれば、そうなるのが必定だろう。魔術の黎明期は、まだ魔術式が確立していなかったため、そういう事故も少なくなかったらしいが、今は定式化されているものがある。そこから逸れない限りは爆死することはない」
なるほど。整理すると、魔術を使うには、源流と魔術式、つまりはイメージを具体化させる詠唱が重要になるとのことだ。
ん? とすると、はたして私は魔術を使えるのだろうか。
そもそも詠唱は覚えれば済むにしても、私に魔術を使いこなすほど十分な源流はあるのか。というか、『源流の根』とやらにはアクセスできるんだろうか。仮に何らかの手順が必要になるなら、私の記憶上、何か重要なものを受け継いだことはないぞ。
頭を抱える私を見かねてか、
「何をそんなに考えることがある。失敗がそんなに恐ろしいか」
「当たり前だ。爆発するんだぞ」
「心配するな。源流がどれほど巨大であろうと、そこから引き出せる力は術者の技量によって決まる。魔術を覚えたてのお前が、爆発するほどのエネルギーを引き出せるはずがない」
ふむ。
要するに、巨大な貯水池につながっていたとしても、蛇口が小さければ流れる水の量も限られるということか。
なるほど。それなら納得できる。
……いや、待てよ。聞きたいのはそういうことではない。
「じゃなくて。そもそも魔術が使えないだろ。『源流の根』とやらを受け継いだこともないし」
ふと思い出したかのようにリンデットは「あ」とつぶやく。
どうやら、何か重要なことを伝え忘れていた様子だ。
「なるほど。その点は心配いらん。お前は既に私の『源流の根』を受け継いでいる」
「は?」
「『源流の根』というのは、命名によって継承される。お前に名付けたその日から、お前には魔術を扱える基盤は備わっている」
そういうことはもっと早く言えないか。心配して損したわ。
だがそうなると、私が誰かに命名すると、その者に源流が引き継がれるのだろうか。いやそもそも、私以外の誰かにリンデットが命名すると、その人物も同じ源流の根が使えるようになるのだろうか。謎は深まるばかりだ。
まあともかく、これで基盤の面は問題ないようだ。
「とまあ、これで理屈は分かっただろう。試しに私がさっき使った炎刃を詠唱してみろ」
「はいはい……」
なんと雑な指示なんだろうか。
第一、一度聞きかじった程度の詠唱をそのまま暗記なんかできるわけないだろう。しかも、失敗すると爆発するとか言っていたぞ。そんなものをやれそれ使ってみろと、雑頭にもほどがある。前々から気になってはいたが、そもそもリンデットには常識というものがないのか
しかし、実際に使ってみたいというのも本音ではある。言うなればあれか、実践あるのみというやつだ。
さて困った。何て言っていたか。
ここは慎重に行きたいが、まあ、物は試しだ。
幸いにして、呪文みたいな文言は中学生くらいの頃に何度か唱えたことはある。あの時を思い出すのは若干恥ずかしいが、中二病も異世界に来れば使い道がある。
それっぽくポーズをとって掌を前に突き出す。
そして、目標を定める。
とりあえず、今絶賛燃えカスになった木の隣に生えた木を狙ってみる。
「ガルウィンの名において命ずる――地表を熱し、その業火を以てかの敵を焼き焦がせ! ――炎刃!!」
……何も出ない。
というか、何か起こる気配すらない。
爆発こそしなかったものの、なんだよおい。めちゃくちゃ恥ずかしいではないか。くそ。
消沈する私をよそに、リンデットは私を肴に馬鹿笑いをしている。
「ハハハハハ、……すまんすまん。そういえばきちんと詠唱も教えてなかったな。まあだが、どこで聞きかじったか知らんがその詠唱。聞こえは立派じゃないか。フ、フハハハ」
初めて見たかと思うくらいに腹を抱えている。
なんだか前世の記憶がよみがえったようだ。そういえば、親の前で自慢の魔剣を披露した時も、こんな風に笑われた記憶がある。思い出しただけでムズムズする。
とにかくそんなことよりも、今は何倍も恥ずかしい。
「笑うな! しっかり教えて貰ってないんだから仕方ないだろ!」
憤慨して地団駄を踏む。
久しぶりに年相応の態度をとった気がする。
「そうだな。炎刃は少し難しかったか。もっと簡単なものから教えてやろう」
簡単なもの……。なんと、随分舐められたものだ。
私を見かねて、難易度をぐっと下げてくれるようだ。
そもそも教え方が雑なのが原因だがな!
木の枝で肩をトントンと叩き、ちょっと考えてリンデットは地面に文字を書き出す。
詠唱は『大地に眠る命よ、芽吹き育て。』と、魔術名は『成長』なるほど。さっきの炎刃とは違うようだ。詠唱をみる限り、どちらかと言えば、実用的な魔術だな。
「初歩の初歩だが、最初に使う魔術ならこっちの方がいい。効果は植物の成長を促すというものになる。詠唱は『大地に眠る命よ、芽吹き育て。』だ。イメージとしては、こう、植物を愛でる感じで……」
と、身振り手振りで何かをこねくり回す。
どうやら、魔術のイメージを教えてくれようとしているようだが、うん。全く分からんではないか畜生。まあ、何となく想像はこっちでつけることにしよう。
「ともかく、魔術の根幹はイメージとそれを具体化させる詠唱だ。本来は、イメージから詠唱を組み立てて行くんだが。お前には逆の方が早い」
なんだその卵が先か鶏が先かみたいな話は。
「この枝に使ってみろ」
と、リンデットはひょいっと枝を投げ渡す。
枝を育てる? 魔術っていうのは結局なんでもアリなのか。火はつくし、植物を成長させるし。まあそもそも、異世界転生の時点でなんでもアリか。
何はともあれ、イメージだな。よし。
イメージ、イメージ……。
植物を愛でる…? 今まで植物どころか小学校の頃の朝顔すら三日で枯らせた実績がある私だ。植物を愛でるなんて抽象表現、掴めるわけがないだろう。
ダメだ。そんな言い訳並べても埒が明かない。
とにかく考えろ。
植物が育つには何が必要だ。
まず水だな。植物は根から水を吸って育つ。だけど、水が多すぎてもいけない。これだと、根が腐ってしまう。程よい水分量。程よい水分、程よい水分。
それと、栄養だ。確か、リンとか窒素が重要だったはずだ。具体的に何かは思い出せないが、そんなことが重要だったと理科の授業で聞いた覚えがある。この世界にリンやら窒素があるかは不明だが。とにかく、想像する。
あと、欠かせないものと言えば日光か。日当たりが大切だ。
よしイメージは出来た。
後は実践。今度こそ、実践あるのみだ。
大丈夫。いける。今度はしっかりイメージできている。
「ガルウィンの名において命ずる――大地に眠る命よ、芽吹き育て! 『成長』!!」
体の内側で、何かがこじ開けられている感覚がする。
じわじわと、それでいて着実に。足、頭、内臓。体の末端から中心に向けて何かを無理やり開こうとする感覚だ。そして開かれ、解き放たれようとする得体のしれない何かが、掌へ向けて進む感覚もある。なんかちょっとぞわぞわする。
淡い光が掌から発生する。
その光が木の枝を照らすと、木の枝が震えだしゆっくりと枝分かれする。その小さな枝からぴょこっと新芽が芽吹く。
そこまで見届けると、今度はどっと疲れが押し寄せる。二徹した夜みたいな、肩にいくつもの重りを載せているかのような、何とも言えない疲労感だ。
もう我慢できん。これ以上は限界だ。
集中を切らしてしまったようで、掌から発生していた光はパッと止んだ。その拍子に枝を落として、ついでに私は尻もちをついた。
「ふむ。及第点だな」
及第点。
結構いい線いってると思っていたけど、確かに結果は地味なものだ。それは地面に転がった二股の枝が示している。
ぜえぜえと息を切らす。
魔術とは、こんなに疲れるものなのか。リンデットはもっと軽快に出していたぞ。同じ源流とか言っていたが、練度によってここまで差が出るものなんだろうか。
「まあ、これで何となく感覚は掴んだはずだ。後はこれを応用していくのみだ。以上、今日は終わりだ」
そう言うと、リンデットは地面でへたれている私を気にかけることなく、そそくさと家に向かって歩みだす。薄情なやつだ。それでも親か。
そんなリンデットを見送りながら、息を整える。
地面に転がった二股の枝。これが今の成果だ。確かに地味だ。地味だが、着実に魔術の成果だ。とにかく私は、魔術が使えたのだ。そのことだけは称賛に値する。
これは偉大な一歩なのだ。そう考えると意外に悪くない。
せっかくだし、この枝は記念に持ち帰ることにしよう。
ひょいっと持ち上げようとしたそれは、ビクともしなかった。
「……ん?」
その枝は、まるで最初からそこに生えていたかのように、根を這わせていた。




