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第2部 君の為に

僕は病気だった。

珍しい病気らしい。

名前は長くて覚えていない。

覚える気もなかった。

ただ一つだけ。

分かっていることがある。

長くは生きられない。

それだけだった。

最初に聞いた時。

特に何も思わなかった。

どうせ。

帰る家も嫌いだったから。

母は診断を聞いたその場では泣いた。

けれど病室を出るとすぐに「これからお金どうするの」と愚痴をこぼした。

父は黙った。

僕の顔も見ずにスマホをいじっていた。

医者は説明した。

僕は天井を見ていた。

他人事みたいだった。

でも。

君に会ってから。

少しだけ変わった。

もっと生きたい。

初めて思った。

放課後。

誰もいない教室。

君と話す。

それだけでよかった。

笑う。

君も笑う。

それだけで。

今日が少しだけ良い日になる。

だから言わなかった。

病気のこと。

死ぬかもしれないこと。

全部。

言ったら。

終わってしまいそうだったから。

ある日。

君が言った。

「羨ましい」

僕は少し驚いた。

「何が?」

「君」

君は笑った。

「強そうだから」

僕は思わず吹き出した。

強いわけがない。

痛いのは嫌いだ。

死ぬのも怖い。

毎日怖い。

でも。

言わなかった。

君の前では。

少しくらい格好つけたかった。

時間が過ぎる。

病気は少しずつ進んでいった。

階段が辛くなる。

息が苦しくなる。

それでも学校へ行った。

君に会うためだった。

ある日。

病院で言われた。

「入院を考えましょう」

僕は笑った。

冗談みたいだった。

でも。

医者は笑わなかった。

帰り道。

空を見る。

青かった。

綺麗だった。

少しだけ。

悔しかった。

まだ見たいものがあった。

まだ話したい人がいた。

君だった。

次の日。

放課後。

君は泣いていた。

理由は聞かなかった。

聞かなくても分かった。

家だ。

いつもそうだから。

君の父親は下げみ。

母親は笑い。

兄は馬鹿にする。

助けるどころか「そう言われて当たり前」が口癖だった。

僕は隣に座る。

しばらく沈黙。

夕日だけが差している。

その時。

僕は思った。

このままじゃ駄目だ。

私は。

もう長くない。

でも。

君は違う。

君には未来がある。

だから。

僕は言った。

「逃げよう」

君が固まる。

僕は続ける。

「ここじゃないどこかへ」

「遠くへ」

「誰も知らない場所へ」

君は何も言わなかった。

でも。

その目は少しだけ。

生きていた。

僕は笑う。

本当は怖かった。

逃げた先でどうなるか。

分からない。

でも。

病気より。

死ぬことより。

君があの家で壊れていく方が。

ずっと怖かった。

だから。

「逃げよう」

もう一度だけ言った。

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