第一章第四節 「嘘八百」
『暗き日輪と明るる陰月が大地を照らす時、聖なる祭具を用いて祝詞と舞を捧げ、新たなる星を迎えよ』
1000年前に各教開祖と教皇の師であり剣聖と呼ばれた
預言者バーラ・バーアの預言。
気高く貴き剣で穢れを捌くその様は人の聖というにはあまりにも美しく、神の聖が宿ると言われ、剣聖の名で呼ばれるようになった。
そして、浄化戦争が勃発した原因を明確に知る一人の老女である。
彼女曰く、預言とは■■■からの追憶である。
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褪せた光で満たされてから半年後。
火の大聖堂、聖火の祭壇に招集された火教徒十万人は
聖火を信じる。
聖祭を進行する炎司祭五名は高尚な教徒であり、
火教の上から四番目の階級に位置する。
聖火の祭壇に捧げられる焔贄は穢れを浄化するにあたり、失敗し、爛れ続ける元教徒である。
聖火の祭壇に集められた三種類の教徒たちは
開祖を待ち続けた。
聖火の手前、その祭壇には暴れる焔贄が括り付けられ、
その両脇には炎司祭二名が、
祭壇前の広場には炎司祭三名が火教徒を二つの集団に分けていた。
分別の条件は「貞操の有無」である。
そうして整列された火教徒を先導する炎司祭のうち一名が外に向かう。
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祭壇の上部、広場から正面の二階に位置する耐熱性の色鮮やかなステンドグラスが溶け出し、生き炎の開祖が表れ、祭壇の前に飛び降りる。
咳払いをし、神妙な眼差しで彼は演説を始める。
「火教徒の皆様、炎司祭の諸君。急な召集に応じてくれて感謝の意をお伝えします。
我らを遍く照らす太陽。
穢れから我らを天上より見守る月華。
日月が失われ半年が経過しました。
この褪せた光で包まれた地上では様々な異変が現れました。」
火教祖はここで間を起き、覚悟を決めたかのように話を続ける。
「まず、貞操を抱え、色恋を知らぬ健全な肉体をもつ幼児、
褪せた光を生身で一時間ほど浴びると人格が変わったかのように、親に「精通、初潮が訪れているか」を聞き、
続いて「童貞、もしくは処女か」と聞き出し、
最後には左睾丸、もしくは胎盤が下腹部より這い出て天に昇る。
これは「逆魂」と呼ばれる世界に逆らう者の仕業です。」
ざわつき始める教徒たち、
彼らが落ち着くのを待ち、また話を続ける。
「他には特定の人物が「大地から巨大な蚯蚓のようなものが生えている」「巨大な赤い樹のようなものが生えている」と訴えています。
その正体は大地から栄養を摂る巨大な管です。
臍の緒と言い換えてもいい。
心して聴いてください。
私たちは決してアレを産んではいけない。
千年前の浄化戦争は、世界がアレを生むための準備、
つまり世界の月経です。」
突拍子もないことを続々と言い出す開祖はさらに
「千年前、逆魂を退けましたが、討伐までには至らず行方が分からなかった。
つい最近わかったことですが、逆魂はとある少年の身体を借りていました。
その少年の名前はホープ。
我々が半年前に浄化した少年です。
彼が人々から、世界から忌み嫌われていた理由は逆魂の依代だったから。
穢れというのは逆魂の残り汁のようなものです。
当時、穢れだと思っていた私は聖火の一部を用いて浄化をしました。
結果、ホープという肉体に留まり続け力を蓄えた逆魂が放出され、世界は褪せた光という羊水に包まれました。」
演説を聞く疑うことを知らぬ教徒の半数が呆然とし、
半数が祈りを捧げるように聞いていた。
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「ここで本題に入ります。」
一言話したあと、移動を始め祭壇に縛られた焔贄の頭部に子供のものと思われる頭蓋骨を無理やり嵌め込む開祖。
暴れていた焔贄が落ち着き出し、口を開く。
「皆様、太陽になってください。」
直後、十万の火教徒の下腹部が燃え始め、
大聖堂の壁が橙色に染まる。
燃えて居ない者は炎司祭5名と開祖のみ。
「ハッハッハッ!!騙してすまないがアレを産ませてはいけないのと各国の被害以外は全て嘘だよ!!」
高らかに嘘をついていた老獪。
嘘と聞かされていなかった炎司祭五名は怒り狂い開祖に矛を向ける。
「どうせ滅び行く世界だ!アレが産まれ、地獄になる前に死したほうが良い。
狂わなきゃ開祖も務まらないんでね!」
「あなたは穢れている。お赦し下さい。火芽神さま。」
炎司祭の一人が赦しを請い、老獪に火球を投げる。
引火した老獪は笑い続け、
「ハッハッハッ!!火で私は死なんよ!!私はグーアの器だからね!!
だが、身に纏っていたものが燃えて私に聳え立つ本質が丸見えだ!!」
身に纏うものが全て燃え、全身を露わにする老獪。
年甲斐もなく衰えることのない憤った肉棒。
剣を取り出した炎司祭の一人。
ソレを両断せんとしたが
「そういう刺激的なものも嫌いでは無いが、
萎えかけたよ!!!」
老獪は剣ごと受け止め、切裂かれた右腕で炎司祭の顔を掴み、
「君たち五人も太陽に必要なんだ。」
手に掴む一名と背後から襲う四名を自分ごと燃やし、
「そうそう、焔贄、もちろん君もだよ」
ソレを遥か上空まで投げ飛ばす。
直後、ソレを追いかけるように大聖堂に遺る炎達も上へ落下する。
「綺麗な太陽だ。」
焦げ臭い大聖堂の中、たった一人で詩を詠む用に告げた。
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同時刻、雷轟公国。
風教の国、星見の大聖堂。
そこには火教と同じように風教徒十万人、嵐司祭五名、
星隷1匹が集められていた。
「、と言うことで全部ウソです…私たちは死ぬしかないのです。
本当にごめんなさい生きてきてごめんなさいお赦しを
風芽神(ハターナ)さま本当にごめんなさいお赦しをお赦しを〜〜」
老獪と大体同じような演説をし、嘘であることを打ち明けた紫神の女、風教開祖、ラクシュ
自分勝手に嘘をつき、一見、自責の念に駆られているように見えるがどこまでいっても、自分第一に言っているだけである。
嘘に時間を取られ憤った教徒たちの声が響く前に、爆音が轟く。
嵐司祭の一人の頭部が爆ぜ、そこからは親指大の蛆虫ののような奇蟲が数百匹飛び出す。
奇蟲たちは近くにいる教徒に這い寄り、目を喰らい、
鼻腔に入り、口を塞ぎ、耳を蝕む。
そうしてさらに奇蟲たちは指数関数的に増加していき
大聖堂が奇蟲で埋め尽くされた。
奇蟲で圧迫された大聖堂は崩壊を始め、
瓦解する。
奇蟲は瓦礫を食い、ものの数分で食い尽くし、
しまいには共食いを始めた。
「あああ!!!これこれこれこれこれ!!星の神秘!生命の神秘!弱肉強食なのです!!
人間は所詮脊椎と言う奇蟲が皮を被っただけ、
本能という奇蟲が他を喰らい、同種を喰らい、自己すら喰う!これが、これがこれがこれが!!
弱肉強食!!人は競い合い成長することこそが美学!」
美学を語るソレは獲物を見つけた毒蛇のような目つきで
興奮気味に大きな独り言を吐く。
共食いを終えた最後の一匹の巨大な奇蟲は女に牙を向ける。
「ソレは違うんじゃない?如何に本能が美しくとも、競い合うのが美しくとも仮にも私はアナタの上のものでアナタが敬うべきですアナタが信じる芽神の器なんだけど?なんでそんな牙を向けるようなことするのかな?
頭沸いてるんじゃない?まあ頭から湧いてるんだけど、
つまり私が言いたいことはどんなことがあろうと上下関係を履き違えるなってこと。」
早口でその場で考えたような薄い言葉で怒りを表す開祖は、
祭壇に置いてある遺骨の左腕部を掴み、
「と言うことで…死んで下さい、お願いします死にたくないんで死んで下さい許して下さい許して許してこんな私を赦してください風芽神さま………」
人が変わったように許しを請いながらその左腕で奇蟲を斃す。
縮み始めた奇蟲の死骸は左腕を吸収しだし、
天靡く鏡となった。
その靡鏡を見つめる狂女の瞳には、蛇が映っていた。
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地教の国である神樹の国、
地芽神のルタルクが眠る神樹。
神樹教会とも呼ばれる地教は大聖堂が二つある。
本教に繋がる大聖堂と神樹の地中、根本の大聖堂。
太陽、もとい火を信仰する火教と対を成す
月、届かぬ大地へ想いを寄せる地教。
神樹とは届かぬ大地へ届きうる生命の神秘なのだ。
そんな神樹の根本、その大聖堂にて、
今宵、月が産まれる。
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水教の国、源の国。
この国の主。その代行者であり器である者。
今日、器は、14591回目の死を経験する。




