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ヴォイニッチ紀行  作者: 志尾 結尾
第一巻第壱章 褪せた時代
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第一章第七節 「砂煙の男」


 二十三年と言う月日を生きるリュエルには親友がいた。

 その親友はリュエルが幼き頃から共にし、彼が行くところにはその親友も居た。



 彼らの出会いは遡ること十年。

 水教が支配する国、源の国。

 その大都市である賢者の街、イスガルドに住まう彼は街一番の魔術学院、イスザリアスにて勉学を励んでいた。


 本来、リュエルは親に言われてなければ料理人を志していた。

 自分の料理で人々が笑う、その姿が心地よかった。

 だが、親はリュエルに魔術の才を見出し、学院へ推薦書を届けたのだ。


 以降、リュエルは親に従い、学院に入る。


 リュエルは授業が始まる30分前には教室に着き、余った時間も勉学に励み、規律正しく真面目であり、学級委員長を務めていた。


 本来、リュエルは親に言われてなければ料理人を志していた。

 自分の料理で人々が笑う、その姿が心地よかった。

 だが、親はリュエルに魔術の才を見出し、学院へ推薦書を届けたのだ。


 そんな彼の平穏な日常を壊したのは後の親友、ジンドである。


 ジンドは平民向けの学院から、リュエルが在籍する学級に転入してきたのだが、彼の遅刻癖は酷かった。

 勿論、リュエルは学級委員長としての責務を果たそうと何度も注意を施す。


「ジンド。確かにこのイスザリアスに来て浮かれるのは分かるが君の遅刻癖は目を引く。

これで何回目だ?」


 と言うが、ジンドは軽薄で明るい性格であり、


「硬いんだよリュエルはさぁ。もっと楽しく生きようぜ!」


 と軽くあしらう。

 リュエルはこの転入生をどうしようかと悩んでいた。


 だが、平民の出でありながらこの学院に転入したのは彼が優秀であるとも理解していた。

 遅刻さえしなければ、その軽率な言葉さえなければどれだけ良かったのか。

 そう悩んでいた。


 ある日、リュエルが奉仕活動をしている砂煙に悩まされる僻地の村にてジンドの姿があった。

 耳を立てると、


「砂煙に含まれる瘴気だが、かつての英雄が施した浄化を実行すれば治せるんだって。」


 リュエルは嘲笑に近い声を誰にも聞こえない範囲で出す。

 かの英雄が施した浄化は最高位の水系統魔術であり、如何に優秀であろうが無理だと嘲っていた。


 しかし、ジンドは


「この禁術さえあれば、この村の皆が悪夢に悩まされたり、食料の腐敗もどうにかなるんだって」


 と言い、その掌には色鮮やかに、浴びるものが幸福に包まれる光を出して喋っていた。


 その魔術はリュエルがかつて見た、歴史書で見たあの英雄が施したものと一致していた。


「浄化戦争から続く砂煙、その因果を俺は断ちたいだけなんだ。

この忌まわしい煙を一刻も早くよぉ。」


 軽薄で軽率な性格ではあるが、確かにその言葉には覚悟があった、強い使命があった。

 リュエルは勝手に彼を評価していたことを恥じた。


 彼の秘術が執り行われ、リュエルはジンドの前に出る。


「すまない。私は君を勝手に評価をしていた。

君の実力を知らすに。」


 と言うが、ジンドは笑う。


「なんだそんなことかよ。また叱られると思ったぜ。

これは俺がやりてぇからやってるだけだ。」


 毎日遅刻をしているのはまさか、この施しのためかと聞くがジンドは正直に答える。


「それは普通に寝過ごしてるだけだよ!アハハッ」


 開き直ってもいないように答えるジンドにリュエルは笑い、「私は君が好きだ」と答える


「そんな趣味ねぇぞ俺は」と言うジンドだが、リュエルは「違う違う」と答える。



〇



 帰り道、リュエルは問う。


「あの秘術は何処で習ったんだ?

それとあの奉仕活動も何か意味があるのか?」


 ジンドは普段と変わらない様子で返す。


「別になんでもねぇわけじゃねぇが、まあ復讐みたいなもんだな。

家族があの忌まわしい煙で死んだんだ。

俺は一人でも多く、一つでも多く救えるものを救いたいだけだ。」


 そうか、君も被害者だったんだな。

 この国に蔓延る病の、被害者だったのか。


「ハハ、やはり私は君のことが好きみたいだ。」


「やめろよ!俺にそんな趣味は無いって言ってんだろ!!」


 と言い、二人は笑い合う。



〇



 二年が経ち、やがて中等部の三年となり、リュエルは生徒会長、ジンドは副生徒会長となり、二人は犬猿の仲のように扱われる。


 生徒会執行役に抜擢された二人はリュエルは鉄人と称され、ジンドは自由人と評される。


 放課後、リュエルはジンドに付き添い秘められた魔術を学ぼうとしていた。


 しかし、答えは唐突に聞かされる。


 忌まわしい砂煙により光が奪われた土地にて、いつものように施しを行なっていた二人。


「そういや、まだ言っていなかったな」


 とジンドは話を切り出す。


「遂に話す気になったのか?」と言うリュエルに「この秘術はさ」と返すジンド。


「俺、たまたま英雄の子孫だったから使えるみたいなんだ。」


 意外ではあるが、確かに英雄の血族ならと納得をするリュエルに「驚かねぇんだな」と言う。


「みんなに知られていないが、先祖の英雄さんはこの国の芽神、ルトルクの代行者たるアナトに抗うために戦っていたみたいなんだ。」


 だが、その返答は予測していなかったリュエルは驚いてしまう。


「ハハ!流石にこれは驚くか。

教科書にはアナトと共に邪に抗ったとされているからな!

だが本当は違うみたいだな!」


 と言うジンドに「お前はそのままで大丈夫なのか?」と聞くが、


「指導者さまには子孫がいるって伝わってないみたいだ。

俺はあの砂煙を広めた指導者さまを許せねぇ。

だから復讐すんだ。」


 ジンドのその言葉に宿る覚悟に、リュエルは悲しくなる。

 指導者が何故千年もの間この国を統治出来ているのかは圧倒的暴力による支配ということに勘づいていたのだ。


 学院でも禁術の探求者たちは「再教育」を施されていたのだ。


 彼らのその後は知らない。知りたくもない。


「まあそんな悲しい顔すんなよ。

今すぐするわけでもねぇし。」


 以前のリュエルなら止めていたであろう。

 以前ならこの時点で関わりを絶っていた。


 だが、リュエルにもジンドのようにくだらなく、淡い理想が芽生え始めていた。


 あの砂煙を止めるために。


「手伝うよ。私も、君のその夢についていきたい。

かの英雄、アスロックの意志を共に継ごう。」


 英雄が民を救ってきたように、

 彼は選んだ。


 この国に希望を灯すため。



────────────────────────



 【霊峰イスザリアス 三合目】


 新世界に住まう人々はこの草原をイスガルド、

 大陸最高峰の山をイスザリアスと、

 そしてこの大陸をアスロックと呼称している。


 リュエルはこれをただの偶然だとは思っていなかった。

 

 そして、噂によると古き英雄が霊峰を守護しているとのことだ。


 あの日果たせなかった約束を果たす為に、リュエルは向かっていた。


 本来の目的と自身の目的のために、リュエルは木々が生い茂る神秘的な樹海を進む。


「そろそろ昼時か、休憩するぞ」


 言いながら、備蓄していた食料を調理するリュエル。

 彼にとっての調理は人を笑顔にする手段である。

 あの日以来、追われるまでは料理人として生き、培われた技術は水教(ルトリクタ)の大聖堂、その主にも伝わった。


 調理中、ターラーが口を開く。


「先日から気になっていたのですが、この大陸の地名はどうも、水教との繋がりを感じざるを得ません。

あなたには、何か別の…」


 と言いかけた瞬間、リュエルは正直に答える。


「あぁ、あるよ。別の目的が。

この山に居るとされる英雄から禁忌の術を奪うために。

禁術さえあれば、あの野郎の鼻っ柱を叩き潰せる。」


 流骸である彼の瞳には、復讐の意志が強く反映されていた。


「勿論、あの忌まわしい光も治めたい。

あの光は故郷の砂煙と酷似しているからな。」


 親友を奪ったあの砂煙。

 世界を奪いかねないあの光。

 どちらも放ってはおけない。

 

「よし、出来たぞ。喰らえ喰らえ。」


 素早く丁寧に作られ、更には彩られた食膳は純白に光っていた。


 昨日から分かっていたが、リュエルの料理は美味はもちろん、それ以外にも心を癒せる効果があるのではないか、そう思えるほどの技術がある。

 こちらに不足している栄養源や求めている味を提供してくれる。


 ホープはもちろん、ターラーすらも感動を覚えていた。


「本当に美味しいです。

火教の専属料理人もここまでのものは作れない…

どこで習ったんですか?」


 思わず饒舌になるターラーに


「習った、というよりは盗んだな。

俺はもともと学院イスザリアスの人間だったんだが、入る前は料理人を目指してたんだ。

魔術も調理も、大まかな部分が似てるからな。」


 嬉しそうに答えるリュエル。


「どうだ、坊や。

お前も魔術を学んでみねぇか?」


 話を振られたホープは「僕には…」と答えるが、


「いいや、お前にゃまだ何も無いはずだ。

その分いくらでも脳に技術を詰め込める。

基本は安全だろうが、いざという時に護身術がありゃあ何とかなる場面もある。

俺も何年生き残れるかも分からねぇから、どうだ?」


 強く推されてしまい、しぶしぶ許諾する。



〇



 霊峰イスザリアス。

 この山は中腹あたりまで緩やかな傾斜が続く。


 彼らがいるのは三合目の樹海である。


「正直に言うが、板を置くだけなら一人で出来る。

だがな、あの光によって産まれた化け物が邪魔するんだ。

おまけに敵か味方かもわからねぇ英雄もいるとの噂もある。」


 緩い傾斜が続く麓でリュエルは語る。



「そこで坊やに板を設置してもらう。

俺と火教さんで外敵はなんとかするからよ。

置くのは簡単だ。大人三人分の大きさがある板の四隅に釘を打って、それを五回繰り返すだけだ。

五分もかからねぇはずだ。」


 役割を与えられたホープは困惑をしているが、


「いざという時、今のうちに魔術を教えておく。

詠唱やら発動は坊やの中にいる崇高な助言者にでも聞いておきな。」


 と言い放ち、姉も「私からも火を教えるわ」と告げ、

二人から水系統と火の魔術を教授される。



────────────────────────


 

 五合目


 先程までの緩やかな山道とは異なり、一気に険しくなり、褪せた光すらも届かぬ鬱蒼とした森が広がる。

 風が靡き、陰鬱とした空間には身の毛がよだつ奇怪な音が鳴り響く。


「悪寒が響く場所だわ。」


 ターラーは思わず喋り「いっそ燃やしたいくらい」と言いのける。


「ハハ!冗談だろうが、火教さんなら可能だろうなぁ!」


 笑いながら言うが、「だがソレは辞めたほうがいい。」とこぼす。


「ええそうね。だって居るもの。」


「あぁ、居ると言うよりは生えているな。」


 二人が何を言っているか分からないホープ。

 だが、視界を広げると明らかに不自然な、いや、自然ではあるが、混じり合わせたような異様に太く、瘤が密集した幹を持つ樹木が一帯の森に根を張っていた。


 大小異なる球状の瘤は通常の樹木のように薄橙色だが、その中心部はどれも深紅の色をしており、夥しい量の瘤を見てホープは鳥肌が立つ。


「昨日に引き続いて気色が悪い物だなぁ。」


 二人は勘付いているような表情を浮かべ、ホープが口を開く。


「もしかしてこれ、あの化け物…?」


 あまり植物に詳しくないホープでもコレが色々な樹木や植物の特徴が出ていることがわかる。

 例えば樹皮、魚鱗のようなものもあれば白樺のようなもの、さらには刺が付いている部分もある。

 そして葉は混沌を極めている。

 針のように鋭いもの、楕円状のもの、球状なものも生えている。


 このように、色々な生物を混ぜ合わせた混合種は以前遭遇している。


「えぇ、そのようね。

前回はおそらく洞窟の動物を、

今回は霊峰、その一帯の森林の植物…と言うにはあまりにも植生がバラバラね。」


 褪せた光が及ぼす被害の多くはまだ知られていない。

 世界に詳しいアキナすらも、褪せた光については何も知らないとのことで、慎重に動かざるを得ない。


 洞窟にてターラーが動けたのは危険が迫っていたからだ。

 だが、今回に関しては森林の化身とも言える巨木は今のところ危害を加えようとしていない。

 そして、この奇怪な樹木はどこか既視感がある。

 それも、本教、もしくは派教の関係のような雰囲気がある。


 同じく、リュエルも似たように既視感を覚えていた。

 彼が抱いたその感情は同族に抱くような、哀れみに近かった。

 

「直感だが、この木は俺と同じ生贄だな。

もしくはその魂が入ってる。

こいつは今、叫んでる。」


 本教と派教における生贄が混合種だと推測され、辻褄が合っていく姉


「洞窟の混合種とおそらくこの木も、人間と同等の性質があるでしょうね。

生贄の魂に適応した、人間以外の生物が混じり合った器。」


 新たに推測をする姉にリュエルは重ねる。


「魔力の流れを見る限り、こいつは風教の星隷だ。

謎多き風教だが、捩れ者の中にも星隷はいねぇ、

だから謎なんだ。」


 推測に推測を重ねる両者。

 しかしそれはどれだけ重ねても推測でしかない。

 数少ない情報の中、辿り着くのは謎ばかりだった。



〇



「っと、長話しても埒が開かねぇ。」


 と言いながら一歩踏み出すと、様子見をしていた樹木に異変が起きる。


 松や杉、檜などの針葉樹。

 樫や欅、桜などの広葉樹。

 更には世界独自の岩葉樹。

 ありとあらゆる樹が混ざったソレが遂に動く。


 呻きのように樹が折れ、嘆きのように葉は乱れ、

 叫びのような音が鳴り響く。


 風が靡くたびに耳を貫く低い轟音が鼓膜を振動する。

 その樹木が風を受けるたびに音は耳を往復する。


 霊峰中腹部から麓、更には周辺の樹海に根を伸ばしているその木は、侵入者が一歩動いた際に生じた微細な風に反応し、かつての記憶を刺激され叫ぶ。


 風の発生源を仕留めんとするために根を伸ばす。

 あまりにも巨大なその根は動くたび、地が響く。


 根は一行の四方を囲い、鋭い根先を向ける。


「おいおいおいおい。木に殺されるなんて初めてだぜ?

何とかしてくれよ火教さん。」


 弱音のように吐くが、焦っている様子はない。


「期待しているようだけど、効くかどうかは怪しいわ。

見たところ、火に耐性のある樹木も含まれてるようだし。」


 しかし、頼った相手も使える手段が効くかどうか分からない様子だ。

 それでも、リュエルは焦らない。


「だろうな。

昔いたんだよ、あんな木みたいなものが。

だから対策はできる。」


 自身があるようで、彼は調味料バックからレモンと塩を取り出す。


「まあ詳しいことはわからねぇが、あの時の偶然を婆さんが解説してくれた。

なんでも、酸性と塩基性ってやつをいい感じにしていい感じに混ぜたらヤベェ瘴気が出来るみたいだ。

二人とも離れてろよ。」


 と言い、彼は容器を手に取り、木に投げつける。


 その際に四方八方、教会程の大きさの壁を水で生成していた。


"この際に彼が投げた液体は次亜塩素酸ナトリウム。

一般的な塩基性洗剤である。

彼が壁を作ったのは密室を再現するため。"


 更に彼は木にまた別の容器を投げつけると黄緑色の瘴気が水の密室を覆う


"彼が投げた液体はクエン酸を含む酸性洗剤であり、

密室内には塩基性と酸性の洗剤が混じり合い、生物にきわめて有害な気体である塩素ガスが発生していた。"



 リュエルは2つ目の容器を投げつけた途端、すぐさま密室から出て、樹木の様子を伺う。


「いくら色んな木を混ぜ合わせて造られたとは言え、生物だ。

その理を抜け出していなければこれで何とかなるだろ。

アイツが枯れたのを確認したら水の密室を開ける。

しばらくの間絶対あそこに近付くなよ。」


 姉弟はリュエルが行った見たこともない儀式めいた超常の現象に理解が追いつかないが密室では樹が暴れていた。


 見る見る内に木は落ち着き、地表に現れていた根は朽ちていく。


 黄緑色の瘴気が徐々に晴れだした頃。


「アレは魔法じゃねぇよ、火教さん。さっきのは婆さんに教えてもらいな。

俺にはわからねぇからよ。」


 言いながら、水の密室を解放しようとした時、密室は黒い砂埃に塗れる、ソレは姿を表す。


「やれ、久しぶりの地だと言うのに。

やれやれ。」


 野太く、低い声が三人の耳に届く。

 密室の、樹の残骸にいたのはリュエルよりも一回り大きく、屈強な大男であり、長く純白な髪を後ろに結いていた。

 上裸であり、下は膝ほどまでの野蛮人のような衣類を身に着けている。

 一目見て分かるのは強者であることだ。


「歓迎的な雰囲気ではなさそうだし……つかクセぇなこれ。

なんだよなんだよこりゃあ。

うげぇ!!クッセェ!!!」


 男は咽び泣き、嗚咽が止まらない様子だ。



〇



「あー、わりぃなわりぃな。水までくれてよ。」


 巨漢は先ほどの瘴気の残り香により苦しんでいたが、持ち前の生命力により回復する。

 水を上げたつもりは無い。

 この男が勝手にあの密室の水を飲んだだけなのだ。


「っっと、まだ警戒は解かれねぇか、まあ当然だわな。

仲良くしようぜ、ねぇちゃん。」


 前々からあの混合種、その奥底は人間と同じ物だと結論付けていたターラーだが、まさかそこから人間が出てくるとは思っていなかった。

 この目の前の大男が多数の人を組み合わせて造った人間の可能性だってある。

 もしくは魂の集合、悪意や恨みなどの感情の混合種かもしれない。

 などなど思考を巡らせるが。


「まあ自己紹介でもしようじゃねぇか!俺はアスロック。イスガルドの戦士だ。

そこのお前もイスガルド人だろ?」


 とアスロックを名乗る人物がリュエルに対して話題を振るが、当の本人は驚きを隠せない。


 アイツの、ジンドの古い先祖、自分が憧れた英雄。

 それが今、目の前にいる。


「俺は………」


 尊き人物が目の前にいる。

 別れた親友の意志を継ぐため、偽ってきた。

 深く眠っていた本当の自分。本当のリュエルで話さなければ、失礼に値する。


「私は………イスザリアスのリュエル。

かの英雄、アスロック殿、永い眠りによりわからないこともあるでしょう。なので……」


 「私が教えます」と言おうとした瞬間。


「まてまてまてまてまてまてまて。まってくれ、まてよ、まちな。まってください。黙れ黙れ黙れ黙れ。

俺を否定したなお前?俺が悪かったからそれ以上攻めないでくれ、それ以上踏み込まないでくれ。俺が悪いんだ全部。あの野郎を止め…殺せなかったから、砂煙が蔓延っちまった。俺がヘマをしなければ、俺にもっと力があれば………お前いつまで俺を馬鹿にするんだ?殺されてぇのか?殺しちまうぞお前。いや殺してくれ。

助けてくれ。俺が言うのも何だが、助けてくれ。俺はそこまで偉い人間なんかじゃない。ちょっとだけ抗っただけなんだ期待するのはやめろ期待しておいて失望するなその目をやめろ希望を見せるな絶望すんな泣くな喚くな死ぬな死ぬな。

だからさ、限界なんだよ。

俺を許しておくれ。

頼むよ。


殺してくれ。」


              


 アスロックはもう、既に壊れていたのだ。


 いつ壊れたのかは分からない。

 魂を入れる時なのか、生前なのか。はたまたずっと生きてきたのか。


 だが、彼は壊れていた。壊れ続けていた。


 英雄という呪いに一人抗いながら

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