4章-9節 第二キャンプにて
「つっかれたわねー」
適当な岩に腰掛け、脚を投げ出して呑気な声を出す。一度目の休憩から余裕の表情しか浮かべていなかった気がするが、シアもそれなりに疲れてはいたらしい。
地上では、夕方頃だろうか。昼時の休憩からここまで休みなしで歩んできた。良いタイミングでキャンプに辿り着けたと思う。
――岩肌に囲まれたキャンプは、入り口こそ狭いものの、中はそれなりの広さがある。五人までなら何とか横になれそうだ。焚き火の跡があり、シアが魔法で火を点けた。燃えるのは、炎に込められた魔力だ。ちらちらと、青みがかった炎が揺れる。
壁には備え付けの魔導灯が掛かっており、こっちには俺が魔力を流した。ぼうっとした青白い光が灯る。星明かりよりはマシな程度の光量だが、与えられた魔力を溜め込む仕組みがあるらしく、明かりはしばらくは持続するようだった。
「今日はここで一泊だな。シア、身体の調子はどうだ?」
唯一の出入り口は俺の氷結魔法で塞いだ。絶対安全とは言わないが、多少はマシだろう。
「極めて良好よ。ネーヴからの魔力供給も問題なし、ほんとに助かってるわ。ネーヴこそ、加護が解けた影響とかないの?」
施されていた封印が解けたことにより、俺の魔力生成能力と貯蔵能力は飛躍的に上昇した。半分以上をシアに回しているが、それでも俺自身で使える量はかなり増えた。
「悪いところはないな。強いていうなら、シアに魔力を渡しているから身体が魔力の生成を止めないってところだが」
シアの魔力貯蔵量は底なしだ。重力制御の重い魔力消費もあり、全く満たせていないといっていい。谷の底に水でも注いでいるかのようだ。
「それ、身体に全く影響がないってわけではないけれど、今はまだ気にするほどのこともないわよ。眠りが少し浅くなるかしら」
「まぁその程度なら……」
「でも、長期間はさすがに要相談ね。それに、常にわたしに魔力を回していなくてもいいのよ。あれば助かることは確かだけれどね」
そうは言うが、俺としてはできれば万全の状態に戻してやりたい。それが高望みというのは分かっているので、せめてシアが困らない程度に魔力を用意しておきたいのだ。
「ありがとう、ネーヴ」
「いや……」
礼を言われることではない。俺の責任なのだから。
ウーベルに撃たれたシアの姿が脳裏に浮かぶ。
「…………ところで話は変わるけれど、ネーヴの冷たい魔力はやっぱり氷雪系に特化しているのね。わたしの炎、威力が下がっていたわ」
「あれで威力が下がってたのか?」
「派手な見た目だけれど、熱が足りないのよ」
長い髪を肩の後ろに払う。
蛇との最初の交戦時、本当なら一撃で消し炭にする予定だったと、怖いことを言う。結果は表面を黒焦げにしただけで、確かに大きなダメージは与えられていなかったように思う。
「いつも使っている雷撃の方には影響はないのか?」
「ええ。炎と氷が致命的相性が悪いみたい。わたしは氷雪魔法があまり得意じゃないから使わないけれど、今使ったなら凄いことになりそうね」
けらけら笑う。シアの実力で氷雪魔法を放たれたら、俺の立つ瀬など、もうどこにもない。このパーティーにおける俺の存在意義が疑われる。
「ネーヴほど器用に操れないわよ。あなたほど、氷や雪に接して生きてないもの。――魔導の基本は訓練と想像の力。経験こそがものを言うのよ」
「そういうものか。それならまだ、俺にもできることがありそうだな」
シアは力強い笑みで頷いた。
「それじゃあシアは雷に打たれて育ったのか?」
シアの雷撃魔法には目を見張るものがある。強力にして正確。外したのを見たのは……あのライラーとの戦いだけだ。
「そんなわけないでしょ。どんな人生よ、それ」
肩を竦めるシアに、それじゃあ、と俺はまた口を開く。
「どんな風に育ったんだ? この星とは、違うところなんだろう」
「……そんなこと、知りたいの? あまり面白い話じゃないわよ」
「話したくないなら、いい。俺も深い意味はないんだ。……ただなんとなく、知りたいと思っただけだから」
なぜ、と言われると俺にも分からない。
単純な興味だろうか。
如何にしてここまでの強大な力を身につけたのか。その訳を知りたい……のだと思う。
「そう……。でも、わたしも、ネーヴには話してもいいかしら」
シアは投げ出していた脚を抱え込む。
その表情には憂いが見えた。面白くない話というのは本当のようだ。
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