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最弱と呼ばれた〈氷雪士〉――その力は誰も知らない  作者: 鐘守偉俱
1章 最弱、冒険者になる

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4章-8節 白蛇②

「……くそっ!」


 間一髪、跳躍で更に浮島を移り、何とか回避する。光球が着弾した島は抉られ、黒焦げになっていた。俺が止まっていれば、消し炭になっていたことだろう。

 光球は浮島群を避ける軌道を描いて飛んできた。見てから回避が可能な速度だったのが唯一の救いだが、数が多い上に威力も高い。――そして、蛇本体の姿は見えないのだ。

 嫌な汗が頬を伝う。蛙の樹がない浮島はいつ崩れるとも知れない。そんな状況で、姿の見えない相手とやり合わなければならないなんて無謀にも程がある。

 魔導領域を全開で発動。俺を中心に十歩分の距離までが知覚範囲となり、あたりにはたちまち霜が降りていく。


「ぐっ……!」


 思わず声が漏れた。

 広がった魔導領域による情報が多すぎるのだ。意図して取捨選択。今は動体だけ分かればいい。後のものは不要と断じ、認識から外していく。

 ――急げ。自分に言い聞かせる。

 領域には十歩の距離がある。だが、魔導時代の戦闘では、もはや至近といっていい。この範囲では大蛇を感知することはできないのだ。


「来るか……!」


 ぎりぎりのタイミングで最適化が完了。

 俺の元へ更なる雷弾が次々に殺到する。魔導領域による知覚で周囲を認識しながらなんとか回避。だが雷弾は回避後も更に軌道を曲げてきた。驚きに、避ける間もない。咄嗟に太刀で斬りつけるとあえなく霧散した。ガウフの刀を信じて振り抜いて良かったが、追尾性能まであるのは厄介だ。

 更に膨れ上がる魔力を感じる。上方、離れた位置。一瞬で詰められるような距離ではない。

 シアが炎噛断鎌(アミリス・ファルクス)の斬撃で予想座標を薙ぎ払う。

 いくつかの浮島ごと溶断しながら飛んだ灼熱の一閃。が、仕留めた様子はない。敵の魔力は未だ健在。溶岩化した浮島からの熱波が俺の魔導領域に触れてぬるい風となる。

 直後、放たれた魔力を感知。一瞬後には密集した浮島を抜け、光球が姿を現す。先程よりも数が多い……!

 激しい光を放ちながら、こちらに向かって来る雷弾――直前まで引きつけてから避ける……つもりだったが、それらは眼前の浮島に直撃した。哀れな蛙の樹ごと、島は殺到する熱量に粉砕される。なぜか俺に向かってくる攻撃はなかった。

 違和感。

 大蛇自身の死角から放つ雷弾は、俺の手前で目標を見失ったように見えた。あるいは、俺の座標を掴めていないようだった。先程は正確に狙ってきたというのに。

 頬を撫でた冷たい風に、閃きが走る。


「シア!」


 大蛇は既に次弾の装填を始めている。

 俺はシアへの魔力供給を強化し、攻撃の意思を伝えた。それを、シアは頷きと力強い笑みで返す。


「炎噛断鎌(アミリス・ファルクス)!」


 詠唱による紅蓮の大鎌の召喚。込められた魔力はこれまでよりも大きく、強い。

 鎌から吹き上がる熱によって大気が掻き乱される。そんな中で、シアは藤色の髪を靡かせて笑っていた。まるで嵐の王だ。

 シアが両手に構えた鎌を幾度も振り抜く。その度に紅蓮の剣閃が飛翔する。……その斬撃の射程は計り知れない。粒子の濃霧を吹き散らしながら、遥か彼方まで飛び去っていくのだ。中途の島など問題にならない。射線上にある全ては、溶断され、溶解していく。


「これは、凄まじいな……」


 周囲の浮島は地獄の溶岩地帯に成り代わっていた。宙に浮く煮えたぎる大地というものは、酷く恐ろしいものに映る。

 その灼熱の先、まだ比較的無事な浮島群の影に、大蛇は身を隠していた。突然の大攻勢に怯んだ様子だ。

 シアが更なる追撃で蛇を狙う。蛇は身体をくねらせながら更に奥へ上へと逃げていく。

 全力の遁走と同時に放たれた雷撃の精度は非常に悪く、明後日の方向へ飛び去っていった。行方を見るまでもなかった。

 ――蛇種には、熱感知の能力があると本で読んだことがある。異星の環境における蛇もまた同様かは不明だったが、どうやら変わらないらしい。

 ヤツは外すはずのない雷撃を外した。あのときも周囲は焼き払われていた。

 ならばヤツの特殊な感知能力は熱源頼りという仮説が立つ。それは今、明後日に飛び去った雷弾を見て確信に変わった。シアが作り出したこの灼熱地獄の中では敵の正確な位置など掴めないだろう。

 魔導領域を解除。せっかくの目眩しを冷やして鈍らせる必要はない。

 シアへの魔力供給を元に戻すと、大鎌を携えたままこちらに戻ってきた。


「あれ、追わなくていいの?」


 右手に持った鎌が蛇の飛び去った方向を差す。


「元々追い払うか、こっちが逃げるのが目的だったからな。出会った魔物全てと殺し合いまで付き合っていたら身がもたない」

「それもそうね。それじゃあ、進みましょう」


 それでも蛇が去った方に向けて、大鎌が投げ放たれる。粒子の向こう側で大爆発。熱風が押し寄せる。

 しかし肩を竦めるあたり、手ごたえはないようだった。


「キャンプまでもう少しだ」


 その後は結局、シアの重力制御魔法で進むことにした。他の魔物に見つからないうちにこの場を去るべきだろうという判断だった。



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