4章-4節 再戦、翼竜②
シアの死角を突いた二匹の翼竜が、俺の方へと真っ直ぐ向かってくる。弱者から片付けるつもりか、あるいは俺とシアの間にある魔力供給ラインが見えているのか。いずれにせよ、俺はシアの生命線だ。簡単にやられてなどやれない。
点在する浮島の間を縫いながら飛行する翼竜は、なるほど俺からの遠距離攻撃を警戒しているのだろう。シアのような強力な魔法を放てると思われているのかもしれないが、それは買い被りだ。
「氷縛壁柩」
複数の氷の壁を展開する。シアを氷漬けにした魔法だが、いま俺が使える氷雪魔法の中で、一番の耐久性を持つものでもある。
高速接近する翼竜の口腔に魔力が集中しているのが視て取れる。既にブレスの発射態勢。射程に入り次第焼き払うつもりだろう。そうはいかない。
俺の周囲に展開した二つの氷の蒼壁は、翼竜の正面に動く。注視の魔眼による補佐によって、二匹の翼竜を自動追尾。常にブレスの射線を通さない。
ならば――と、二匹は同時にブレスを発射。氷の蒼壁に強烈な熱線が直撃する。
氷越しに圧を感じる。が、この蒼き氷の壁は内外からの魔力を遮断し、熱にも溶けない。熱線は水の一雫さえ作ることも出来ず、周囲に散らされた。熱線の余波が浮島の樹を点々と穿つが、俺には届かない。
「氷刻厖双」
そして、ブレスを放つために足を止めた翼竜に、氷壁から伸びた氷の複腕が襲い掛かる。
一方では、巨大な手が翼竜の首を鷲掴みにし、凍結させながらへし折る。
もう一方は、掴みかかる氷腕に素早く反応して見せた。戦鎚の如き拳の一撃を掠らせ、体勢を崩しながら後方に回避。――が、後ろの浮島から現れた三本目の氷腕が、翼竜の背を殴り付ける。骨を砕く感触。拳に乗って飛ばされる翼竜を正面の氷腕が拳を硬めて迎撃。二つの拳に潰された翼竜は、あえなく魔石に変化した。
魔法に魔法を重ねる試みは以前フォール邸ダンジョンでも上手くいった。あの時、骸骨を相手にした技が今活きていると思うと、シアの特訓は決して無駄ではなかった。
俺が展開した氷縛壁柩は四つ。俺の周囲――翼竜の正面と、その後背に展開していた。氷壁は盾であり、重ねる魔法の土台だった。
離れたところで、シアの戦いは続いている。気を失っている間に渡しておいた魔力が功を奏し、今も俺から供給されていることもあって、不足はないようだ。無数の雷光鞭を振るう姿は雷神の如き美しさがある。その顔に強気の笑みが浮いてるのだから、神話にある女神のようだ。
「どっちかというと戦神か」
戦果の度、稲光が瞬く度に魔石が次々に穴の底へ落下していくのが勿体ないが、それは諦めよう。
翼竜は、その数を既に半分以上減らしている。休憩前の大魔法でも大きく数を減らしているのだ、このまま全滅しては生態系にすら響きそうな損失だと思うが。
考えていると、群れは明らかに狼狽え始めた。人間一人をあれだけの数で囲って、擦り傷一つ付けられないのだから、その絶望感だけで戦意を喪失してもおかしくない。これが対人間だったならばシアは地獄の顕現そのものだろう。
翼竜は攻撃をやめた。力無く翼で宙を打つ姿は、白旗を挙げたようにも見える。いい加減、数を減らすだけと気付いた様子だ。背を向けて逃げないあたりは、理性を感じる。
シアが俺の隣に降り立った。満面の笑みだ。あれだけの生物を殺戮してこの顔をしているのだから、翼竜の気持ちも分からなくはない。
「わたしのスキルがやっと効いたわ」
「スキル? シアが恐ろし過ぎて生を諦めたのかと思ったが」
「ううん。スキル【動物調教】よ。魔物にも使えるけれど、かなり入念に屈服させないといけないのよ」
「…………あぁ、ドルフの野犬を奪ったのはそれを使ったのか」
初めてシアと会ったとき、〈従魔士〉のドルフからどうやってかその従魔たる野犬を奪って戯れていた。その時は気になっていたが、今になって理解が及んだ。
「じゃあシアは〈従魔士〉だったのか」
「いいえ違うわ。これはただのスキルよ」
「……〈従魔士〉のスキルを持っているのか」
「そうなるわね。他にもあるけれど、前に一度見せたでしょう」
ガロ洞穴で互いのステータスを確認したことを言っているのだろう。
確かに膨大な量のスキルを持っていた。多すぎて魔法系のスキルにしか目が行かなかったが、神託ジョブで得られるような強力なスキルも所持していたとは。魔族というのはここまで規格外なのか。どうなってんだこいつの種族は。
「とりあえず、あいつらはもう襲ってこないわ。身をもって分かったでしょうしね。ただ、世話できるわけでもないから、基本わたしたちを狙わない、という意識統一するくらいに留めているわ。その効果も恐怖が薄れれば無くなるとは思うけれど」
「十分だ。これで逆さ天空の脅威度がぐんと下がった。あとは――」
それを口にする前に膨大な魔力が足下――遥か天空の彼方で膨れ上がるのを感じた。距離も分からないほどに遠く離れているのに、知覚できるほどの魔力が集まっている。
「ネーヴ――」
「ああ。『雨』というやつだろう」
不定期に下層から発射され、あらゆる物を貫くという液体の弾丸。身体が残ればマシな方とリースは言っていた。キャンプまで戻れれば、安全なのだろうが、『雨』の魔力は既に臨界に達しているようだ。間もなく発射されると考えると、そこまでの時間はないだろう。
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