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最弱と呼ばれた〈氷雪士〉――その力は誰も知らない  作者: 鐘守偉俱
1章 最弱、冒険者になる

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4章-4節 再戦、翼竜①

「とりあえず、お互いある程度回復したがどうする? 先を目指すか、今日はここで一泊するか、あるいは死なないうちに引き返すか」

「ネーヴは先に行きたいのね」


 表情から読んでいるのか、シアは時々、俺の内心を的確に言い当てる。


「いいわ。行きましょう。わたしも……自分の身体のこと、ネーヴの魔力のこと、もっと知らないといけないから。たくさん、貰っているしね」


 俺が生成した魔力はシアと俺に流れている。

 シアの方に多めに流すことにしたのは、俺がこれまでの魔力量でさほどの不足を感じていなかったからだ。それにいざとなればランスの魔力回復薬もある。

 荷物を整えて出発することにした。改めて外の様子を窺うが、翼竜の姿は見えない。とはいえ、浮き島を構成する粒子が舞っているせいであまり遠くまでを見通せない。油断はできないな。


「魔力も貰えてるし、一気に行きましょうか」

「そうだな。歩いていたんじゃ、またすぐに追い付かれる」


 じゃあと、シアを抱える。


「………………そうだったわ、そうなるわよね……」

「……? 何を一人で納得してるんだ?」

「何でもないわよ」


 声を震わせているが、顔の様子までは窺えないので、何を思っているやら。

 放っておいて氷の滑走路を作ろうとすると、止められた。


「もっといい方法があるわ。飛び降りるのよ」

「………………死ねと?」

「違うわよ。だいたい、死ぬような提案したらわたしも危ないじゃないの」


 じゃあどうするんだ。

 微妙に保身を交えたシアの反論はとりあえず聞き流す。


「重力制御で、落下を軽減するわ。重力制御は消費が重いから控えてたんだけど、ネーヴと繋がった今なら大丈夫よ」

「俺の魔力を容赦なく奪うってことじゃないのか」

「そういうことになるわね。でも、ネーヴも魔力生成力が上がってるからきっと平気よ」


 きっと、か。試してみて、割りに合わなければやめておけばいいか。


「じゃあ、頼む」

「任せて。――重星翼昇(ヘカティエル・シェロ)」


 身体が急に軽くなる。

 これは、ライラーから逃亡するときにシアがかけてくれた魔法だ。消費の激しい魔法をあのときに使わせていたのか……。シアの魔力が空になる決定打だったかもしれない。

 今、シアの残存魔力が三分の一ほど減った。元々全く全然これっぽっちも満タンではなかったが、それでもかなりの消費だ。すかさず俺が生成した魔力がシアへと流れ込んでいく。

 大穴の縁からシアを抱えて飛び降りた。普通なら真っ逆さまに落下して死ぬところだが、浮島を蹴りながらの加減速が可能だ。


「ネーヴって平衡感覚が優れているのね。何か特別な訓練でもしたの?」

「そうだな……吹雪の中を歩くと、左右どころか上も下も分からなくなるからな。足はついてるけど浮いてるような感覚は鍛えられた。今は逆に、浮いてるけど足がついてると考えてみて、何とかなったな」

「なんだかデタラメなこと言ってない……?」


 そうは言われても、やってみたらできたんだからいいだろう。

 下向きに加速することは難しいが、浮島を蹴ることで速度を調整しながら下ることができ、自分で滑走路を作るよりも集中を要さないのはいいことだ。一瞬後に死ぬような速度で下るのは流石に疲れる。


「――ネーヴ、来たわよ」

「ああ、魔眼で視えてる」


 再度出現する翼竜の大群。俺たちが近くに潜んでいると確信があったのだろう、解散せずに待機していたようだ。たった二人の人間相手にご執心か。


「広場から距離を空けて浮島の陰や壁の穴に隠れていたみたいね。執念深いやつら」

「もう少し隠れていた方が良かったかもな」


 重力制御である程度は自由に動けるが、音速に近い速度で飛行する生物に対抗できるような動きはできない。俺たち自身の重さが失われている為、近接戦闘は不可能。魔法による迎撃しかできない。


「隠れてる必要なんてないわよ。やるわ!」


 言うとシアは、するりと、俺の腕から離れる。

 そのまま魔力を推進力にどんどん離れていってしまうが、手を繋がずとも魔力の繋がりが感じられた。


「あの様子なら平気か……」


 俺には魔力を推進力に前に進む術がない。かっ飛んで行くシアの背中を見送るのみだ。ただその姿は、呪いなどないかのように、自信に満ちたものだった。


「こっちはね、もうほんと、鬱憤が溜まって、いたのよっ!!」


 大音声が届いた。


「雷紫鞭弩《フルフェルデ・ハルベルト》!」


 シアの背に帯電した翼が広がる。

 ――否、と魔眼が告げた。

 あれは紫電の光線だ。何条もの光線が寄り集まり、翼の形を形成しているのだ。

 光線は、シアの背でまるで羽ばたきのように大きく波打った。かと思うと、曲線を描いて発射される。

 無数の雷光の鞭が、翼竜の群れに殺到する。空間を飽和する雷撃の鞭打と連弩が、群れを切り裂き、刺し貫いていく。それは完璧に制御された、神業とさえ言える魔法。うねる光線は巧みに操作され、数十の翼竜の群れを撃滅していく。

 ――俺のように魔眼の補助機能があるわけではない。シアは自身の才覚、知覚、制御で、無数の光線を一条から手繰り、翼竜を圧倒している。

 あれでは、メイジだろうが通常個体だろうが関係ない。逃げないのであれば、やがてバラバラにされるのが彼らの運命だ。

 縦横無尽に空を駆け光線を放つシアと、その背景で解体され墜落していく翼竜の群れを眺めながら、俺は動かずに魔力の供給役に徹することにした。下手に手を出すよりもシアに任せた方が余程良い。

 距離を取った三体のメイジが、一斉にブレスを発射する。うねりながら一つになった熱線を、雷光鞭もまた束となって迎撃。

 魔力による押し合い。しかし均衡は一瞬で崩れる。雷の光線が灼熱の熱線を押し返し、翼竜どもをまとめて焼き払う。炭となって落ちていく翼竜たち。

 群れの動揺が言葉を超えて伝わる。シアの力は規格外に過ぎる。これで万全ではないのだから底が知れない。


「ネーヴ、そっちにいくわよ!」


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