4章-2節 運命共同体③
魔力が変?
詳しく聞きたいが、シアは言いながら意識を失ってしまった。
そのまま穏やかな寝息を立てているあたり、命に別状はないと知る。
おそらく消耗し過ぎて意識が落ちたのだろう。表には出さなかったが、ライラーとの戦闘から今まで、随分と無理をしていたに違いない。
「お疲れ様、シア」
今も生成された魔力が俺とシアに半分ずつ流れていくのが分かる。今まで全く意識したことはなかったが、体内を巡る魔力量や流速なども知覚できた。これはシアと魔力が繋がったことによる恩恵だろう。魔力が自分の外へと流れて他者の知覚と交わった、その副産物。
俺の魔力は今、シアの中へと流れて行っている。
だが、その深淵のような深みと夜空を思わせる広がりに、いくら俺の魔力を注いだところで、満たせるとはとても思えない。それほどまでに、シアの魔力貯蔵能力はずば抜けている。おそらく、それに見合うだけの魔力生成能力もあった筈だ。
ランス謹製の魔力回復薬を口に含む。あの医者――いや、〈薬士〉は魔力の生成は体内に魔力が満たされれば止まると言っていた。
今、俺とシアは繋がっている。俺の体内は徐々に魔力が満ちていっているが、シアはほぼ空。この状態で魔力回復薬を飲むとどうなるか。
砂漠に水を注ぐようなものだと、頭の冷静な部分は告げている。流しても流しても、永遠に満たされることがないかもしれない。それでも、薬を飲み下す。
シアは眠っている。汗ばんだ額に張り付いた髪を軽く整えてやると、くすぐったそうに身を捩る。
そして俺の身体はシアの魔力タンクを満たすために全開の魔力生成を開始する。俺自身の魔力貯蔵能力では一瞬で打ち止めになるのだが、シアへの供給では全く違った。壊れた水栓のごとく、凄まじい勢いで俺から魔力が注がれる。そしてそれでも、シアの魔力タンクには全く満ちる気配がない。
「大喰らいだな、全く」
笑ってしまう。
身体に不調はない。魔力の生成は身体への負担がかからないのか、それともランスの薬が優秀なのか。ただひたすらにシアへと魔力が注ぎ込まれている。ただ薬の効果時間は意外に短いので、勢いが衰える度に一口ずつ飲み込んでいく。用法用量の説明が無かったのだから、きっとこれも正解だろう、と誰かに言い訳。
大穴の底から吹き上がる冷たい風が、時折このキャンプにも流れ込んでくる。俺にとっては心地良いが、寒がりのシアが肌着一枚で浴びていいものではないだろう。密着状態をどうしたらいいのかは分からないが、とりあえず上着は被せておいた。
押し当てられた胸からシアの鼓動を感じる。脈が早いのは消耗したからだろうか。先は長いが、食料は十分にある。今日はここで回復に充てるのも悪くはないか。
シアの寝息を聞きながら、逆さ天空攻略の思いを巡らせ、しばらく経った。
深かった寝息が浅くなり、間もなくシアが瞼を上げる。寝ぼけ眼に収まった蒼玉の瞳に俺が映った。
「おはよう、シア」
「え、え……? あ、おはよう、ネーヴ?」
状況が理解出来ていないのか。
至近距離の俺に戸惑っている様子だが、別に俺が寝込みを襲ったわけではない。ひっついたまま寝たのはシアだ。
「もう離れてもいいのか?」
「えっ? あ、そ、そうね……そうね……」
白い頬が赤く染まって行く。調子が狂うな。
「魔力、注いでおいたがどうだ?」
改めて、適当な岩に腰掛けて問う。
「えっ……うっわっ、ネーヴどんな無茶したのよ……。わたしにこんな……」
人の好意に引いてるんじゃねえよ。
「ランスから貰った薬で回復しながら回したんだ。そんなに無茶はしてない」
なんとなく、腹が余計に減った気がするくらいだ。ちょうど腹の虫が盛大に鳴いた。
「そう……じゃあいいけれど。――と、とりあえず、お昼にしましょうか」
努めて元通りに振る舞おうとするシアの努力には気づかないふり。俺もそれに乗っかろう。
グレイブに持たされた飯は四日分。俺が凍結させて各自で持ったわけだが、今それぞれ取り出した弁当の容量は倍ほども違う。――当然、シアのが俺の倍だ。
「ささ、ネーヴ先生、お得意のやつをお願いしますわ」
「お前、キャラが迷走してきてるぞ」
「そんなことないなりよー。早くするなりー」
内心ではまだ混乱が収まっていないのだろう。と、指摘するのは無粋か。どこの方言かも分からない言葉を使い始めたので、聞き流しながら凍結を払う。
グレイブが徹夜で作り上げてくれたものだ。朝になって温め直してくれたおかげで、今も湯気を上げている。
気のいい宿の主人に感謝しながら箸をつける。少量でも腹にたまるものを用意してくれていた。本当に気が利く店主だ。酒場はともかく、宿が流行らないのが謎でしかない。
「ところで、状態を凍結したものに衝撃を加えたら、どうなるのかしら」
「そういえばやったことないな」
昼食時の何気ない提案に応じる。
適当に落ちていた枝に状態の凍結を施すと、小枝が鈍い金属の質感を宿した。普通に凍らせただけならばこうはなるまい。ただ、指で弾いても金属のような音はしなかった。
「中身が詰まっている感じね」
「壁とか地面に近いな」
大質量と同じだ。
「それ、折れるの?」
「いけるんじゃないか」
見た目は細い枝だ。両端を持って押し曲げれば――――
「ぐっ……!」
「うわ、折れないわね……。曲がりもしない……」
いくら力を込めてもびくともしない。単純な腕力では無理そうだ。決して、俺が非力なわけではない……と思う。
「くっ……シアも、やるか?」
「遠慮するわ。ネーヴの素の筋力で折れないなら、わたしにもできないわよ」
身体強化ありなら話は違うかもしれないが、下らないことに魔力は使えないと、シアは肩をすくめた。
なんとなく悔しいので、ガウフの刀を抜き放つ。
「ネーヴって、負けず嫌いなのね」
にやにやしているシアは無視。地面に投げた枝に刀を振り下ろす。――意外なほど呆気なく、枝は両断された。
「一定量の衝撃が加わると耐えきれなくなるのかしら。それとも、その刀が特別か。両方あり得そうね」
「ああ。抵抗が全く無かった。魔法ごと切れる刀なのかもしれない」
「ほんと、デタラメな技術ね……」
見れば、枝の状態の凍結が解除されている。切れたから解除されたのか、解除されたから切れたのか。ま、今検証する必要はないだろう。
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