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最弱と呼ばれた〈氷雪士〉――その力は誰も知らない  作者: 鐘守偉俱
1章 最弱、冒険者になる

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4章-2節 運命共同体①

 隠蔽魔法の内側は、人ひとりがやっと通れるほどの隙間となっており、その奥に洞窟状のキャンプ地が設けられていた。周囲を囲まれているが、ある程度広さを確保できているため、手狭な感じはしない。


「はぁっ……。死ぬかと思った」


 座り込んで息を吐いた。まだ心臓が動悸を上げてる。


「ネーヴひとりじゃ、危なかったんじゃない?」


 したり顔のシアだが、言う通りだった。

 俺には長射程や広範囲の攻撃魔法がない。翼竜は警戒していたが、まさかいきなり群れに襲われるとは思っていなかった。シアがいなければ、消し炭にされていたかもしれない。

 リースには必ず生きて帰るなんて約束したが、大口だっただろうか。……いや、例え大口であろうと、それがリースとの約束だ。生きて帰ることを優先に考え、行動しなければならない。

 ただ、今の状況では帰るのも困難だろう。ここまでは落下で距離と時間を稼いだが、登る方はそうもいかない。シアの重力魔法は最終手段として、壁際の足場をひたすら歩いていくしかない。


「今のわたしは、ネーヴがいないと無力よ。ネーヴもわたしがいないと危なっかしいから、一蓮托生、運命共同体ね。だから、勝手に死んではダメよ」

「分かってる。だがシアも、今度は俺を庇って瀕死になってくれるなよ」

「どうかしら、ネーヴのことなら何度でも助けると思うけど」


 悪戯な笑みだが、本気だと思った。俺自身がシアに庇われるような失態を起こさないようにしなければなるまい。


「でも、今の状態は正直言って大変ね。魔力なんて当たり前にあったから、無いと本当に困るわ」


 そっと漏れた嘆息。神託によって魔力を獲得した俺とは違い、シアは魔力を生まれながらに持っていたのだろう。その喪失は心に寒風を呼んだ。その風の冷たさは計り知れない。早く何とかしてやらなければならないが、手立てがないのが現状だ。


「今を嘆いても始まらないわね。ネーヴは、わたしとの連携で何か不満とか不安とか、あるかしら?」

「――そうだな、手を繋がないと魔力を供給できないのは、仕方ないとはいえかなりの枷だな。遠隔で魔力を受け渡せたらシアの身体強化魔法も活きる場面があると思うが」

「遠隔……ね」


 沈黙が降りた。

 キャンプの外からは俺たちを捜索する声だろうか、翼竜たちの喧騒が届く。影も形も掴めなかったのだろう、大騒ぎになっているようだが、その声も時間と共に小さくなってきた。そしてそのうち気配も消えた。


「一つ、方法があるわ」


 シアが顔を上げる。蒼玉の瞳には決意。


「ネーヴとわたしの間に魔力のラインを通すの。これで、どんなに離れていても魔力の受け渡しはできるわ」

「なんだ、そんなことができるなら早速やろう」


 大方、俺への負担を考えてくれて言い出せなかったのだろうが、今のシアの状態が続く方が俺は嫌だ。俺の魔力は失っても回復できる。くれてやれるものならいくらでも持っていけばいい。


「ネーヴ……」


 そう伝えると、困ったような呆れたような怒ったような、あるいは嬉しそうな――感情が様々な彩りを持ってシアの顔に現れる。


「シアのためならなんだってやる。運命共同体、だろ」

「もう……。考えなしの人ね、あなたは」

「これでもちゃんと考えて出した答えだ」


 考えの基準は、シアの力になることと、互いに死ななければ良い、という雑なものだが、それは言わない。


「分かったわ。ただ、ラインは一度通すと簡単には切断できないから、覚悟して。ネーヴはいつでもどこでもわたしに、好きなように、魔力を奪われることになるんだから」

「望むところだ。さ、やってくれ」


 言われるまでもない。シアが元の力を取り戻すまで、どんなことだってやってやる。


「……そんなにサクッとできるものじゃないわ。少し待ってて」


 そう言って、シアは自分の謎容量鞄を漁り出す。目を向けていると、見るなということだろう、軽く睨まれた。女性には色々あるらしい。

 視線を外して壁を見ていると何やら擦り合わせるような音が聞こえて来たが、先ほどのこともあるのでなるべく意識の外に追い出すことにした。

 視線は魔眼に乗せ、そのままキャンプの外へと投げた。隠蔽魔法によって、外側から内側の様子は窺い知れないが、逆に内側からなら外の様子も見てとれる。

 翼竜はやはり俺たちの捜索を打ち切ったようで、見える範囲に姿はない。俯瞰視を駆使しても見当たらないあたり、とりあえず諦めてくれたのだろう。閃光手榴弾は悪くない買い物だった。使える魔導具として覚えておこう。

 早朝に街を出て、ここに至るまでに半日ほど掛かった。行程を考えると今日のうちに第二キャンプまで行きたいところだが、次にまた翼竜の群れに遭遇したらと思うと、急いてはならないだろう。逃げてばかりでは、状況も好転しない。逃げた先に困難が待ち受けていないとも限らない。それに諦めて帰るにしても、翼竜とはぶつかることになるだろう。だがシアに万が一、億が一があれば、俺一人でシアを守りながら切り抜けなければならない。逆もまた然り。運命共同体とはよく言ったものだ。

 魔力ラインが通れば、少しはマシになるだろうか。少なくとも、二人が自由に動けるというのは大きい。シアはもとより、俺もガウフの刀を振るって戦うことができる。

 ただ注意しなければならないのは、シアの魔法発動による魔力喪失だ。急激な脱力感は身構えていれば何とか耐えられるが、意識の外から来るとなると厄介だ。手を繋いでいたとき以上に、呼吸を合わせる必要があるというのは皮肉のようだが、しかし連携の訓練には打ってつけだろう。


「……ネーヴ、いいわよ」

「ああ――って、な、なんだ、なんで脱いでるんだっ!?」


 振り返れば肌着姿のシアがいた。


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