3章-8節 突入準備③
夕餉の席は和やかに進む。
意外だったのは、俺たちが逆さ天空に挑むことを、グレイブが止めなかったことだ。
「あんたたちなら大丈夫だろう」
と。
フォール邸ダンジョンからの、悪魔討伐やライラー撃退により、グレイブの中での評価が上がった様子だ。――人の信用も、こうした日々の積み重ねの中で得られていくものなのだろう。
「保存食の用意もあるが、ネーヴェさんがいるなら不要だろうな。四日分、携帯しやすいように準備しよう」
「確かに俺の移動式冷凍庫っぷりは伊達ではないが……いいのか?」
昼食用の弁当を頼むつもりではいたが、さすがに四日分も準備してもらえるとは思っていなかった。グレイブは「代金のうちだ」と言ってわずかに頬を緩める。気のいい男だ。
「さて――そんなわけで私は今日は徹夜だが、あんたたちは早めに休むといい」
「そうだな。持ち物の確認を終えたら休むとしよう」
◇
部屋の床に並べられた物資の数々。
相変わらず、シアが細工した鞄の容量はおかしく、中を覗き込むと空間の歪みに違和感を覚えて混乱しそうになる。魔力の最大値を削った細工と言っていたが、魔力が回復しない今もその細工は解かれないらしい。
「――なにか、足りないものはあるか?」
タオルを被って髪を拭いているシアに問う。
「ネーヴはよく準備できてると思うわ。食料も問題ないでしょうし」
「最短でも四日の行程だ。余裕を見て六日分の物資は用意したが、それ以上の滞在は命を削ることになるかもしれん」
食料と水だけは実はこれ以外に更に二日分を用意できている。グレイブから望外の支援を受けることができたからだ。だが、こうした非常食の存在はとりあえず黙っておこう。余ったらどこかで食べればいい。
「見慣れないものもあるけれど、使えるの?」
「それを試してみる。ま、土壇場で頼るようなことはしないさ」
シアの言う見慣れないもの――使い捨ての魔導具は市場で買ったものだ。品質は不明だが、何人かの冒険者らしき客が買っていたので、全く使えないものではないだろう。
投げつけると魔導具内に封じられた魔法が発動する、といったものだ。
「じゃあ、明日は朝一番で起つから、夜更かしはほどほどにしておけよ」
「はいはい。おやすみ、ネーヴ」
「ああ。おやすみ、シア」
少し短いですが、3章はここまでとなります。
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