↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
最弱と呼ばれた〈氷雪士〉――その力は誰も知らない  作者: 鐘守偉俱
1章 最弱、冒険者になる

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

PR
79/102

3章-8節 突入準備①

 リースと別れ、街に出た。

 必要なものは多いが、二人で持てる程度には圧縮しなければならない。水や食料は言わずもがな、使い捨ての炸薬や携帯性に優れた武具の整備道具なども視野に入れておくべきか。ランスから薬を購入する必要もあるだろう。今はそれなりに準備資金があるのが救いだ。

 思案しながら、昼下がりの街を歩く。 


「あら、ネーヴェじゃないか」


 市場で物資を物色していると、後ろから声を掛けられた。この女の第一声はいつも遠くから聞こえてくる。振り向けば、深海色の髪をした、けれど鎧姿ではない女。


「サフィールか。それと……」

「アーク・フォールよ。って、ネーヴェは知っているか。命の恩人だもの」


 赤い髪の小柄な女が、サフィールの隣に立っていた。確かに、一度命を救った相手だった。まぁ共倒れかけていたのを救ったのがサフィールだから、結局命の恩人はサフィールということになりそうだが。


「アーク・フォールです。貴方様のことはフィルちゃんから聞きました。その節は本当にありがとうございました」

「――いや、身体が勝手に動いたんだ。後先考えない行動だった」


 嘘だ。

 本当はあの魔力火災を無視して道を急ごうかとも考えたのだ。だが、近隣の村に住む知人達の身の安全のためにアークの救助を決めた。火災の原因たる本人に炎を制御させようと考えを改めたわけだ。

 しかしアークは煙に巻かれて気絶してしまい、俺が迫り来る死に必死に耐えている間にサフィールが力尽くで鎮火したという結果になったわけだ。


「ネーヴェ様にはずっとお礼をしたいと思っていたのです。こうして会えましたこと、嬉しく思います」


 偽りの見えない真摯な言葉に、やや鼻白む。親は如何にも計略謀略が好きそうに見えたため警戒していたのだが、娘は違うのだろうか。


「――ネーヴェの考えていることはわかる。この子のお母様に会ったことがあるようだけどアークは割と一直線にこんな感じね。そこは、あまり似てない」


 くすり笑うサフィールも、当然アルクスとは面識がある。どうやら俺の抱いた印象はサフィールからしても同様のようだ。


「ただ、興味を持った対象に一途なところがあるのはそっくり」


 ……そんなサフィールの言葉など聞こえていないように、お礼は何がよろしいでしょうか? などとこちらに身を寄せながら蕩けた目で訊いてくるアーク。何なら自分を差し出すなどと言いかねない雰囲気だ。正直に言って普通に怖い。


「……………………武具を揃えるための金がいるが、なんとかなりそうだ。他には別にないから、俺が本気で困ったときに助けてくれ」


 なので、迷ったが、頼るのはやめておいた。つい先ほど――昼前までは、金蔓としてアテにしていたのだが、実際会ってみた印象が変わった。あまり深く関わらない方が良い人間のような気がする。

 ……物腰は柔らかいが、目が穏やかでなく猟奇的なのだ。親も輝きが強い目をしていたが、こっちは獣のようだ。いや、奴等よりも感情が読みづらい。安易に近づけばいずれ取って食われるかもしれない。


「欲のない御方ですね……」

「アークの激しい妄想癖に気付いたね。賢明な判断だ、大体は身を焦がすことになるから。――しかし、大業物を持っているのにまだ不足なの?」

「……これは期間限定の借り物だ」


 サフィールの方から聞き捨てならない台詞があったが、敢えて流した。とりあえずフォール家関係者はやはり全員変態の類であると心に強く留めておく。


「随分と気前よく貸してくれたものね」

「使用感を確かめろということだと思っている」


 ガウフが俺たちに武具を貸し出すメリットなど無いはずだ。あの男なりの好意なのかもしれない。


「いい職人に出会ったようだね。出会いは大切。大事にするといい」

「わかってる。俺のような田舎者が都会でやっていくには、なによりも人の縁だと思ってる」

「この街の冒険者界隈の中じゃ、重鎮とも言える人たちと既に知り合っているし、出だしは順調そうだね」

「どうだか。そもそもあんたの縁で、大商人に高難易度ダンジョンへ仕向けられたからな」

「私?」

「ランスが呼んでいたぞ。アルクスの薬を忘れた件じゃないか」


 半ばまで言うと、サフィールの顔がさっと青ざめた。


「うわまずっ、忘れてたぁ……。アーク、ちょっと一緒に組合まで来て。言い訳を一緒に考えましょう」

「うーん、フィルちゃんが素直に謝るしかないんじゃない?」

「それで足りないから知恵を借りるわけ」


 どうやら、ランスもあの柔和な出で立ちの割に、締めるべきところは締めているようだ。探索系九階梯の冒険者が畏怖を覚えるのは、親だから、というわけでもないだろう。


「アルクスさんのお薬は、ネーヴェが届けてくれたのよね?」

「ああ」

「助かったよ。じゃあ、私たちは行くから。……気が重いけど……」

「ネーヴェ様、いつでもうちに遊びに来て下さいね」


 たぶん滅多なことでは近づかないが、とりあえず頷きは返しておいた。なんというか、アークはこわい女だ。


「さて……」


 かしましい二人を見送って、市場の物色を再開する。既に目星は付けていたので、後は買い揃えていくだけだ。露店で面白そうな魔導具を見つけたので、試験的に運用してみようとも思う。

 追加の装備品や物資を買い足し、かなり荷物がかさんでしまったが、万全の態勢にできたと思う。後はランスから幾つか薬を購入するのと、リースからの地図と情報、そして今晩シアと話して足りないものがあったら最終調整といったところだろう。


もし面白いと思っていただけたら、評価・感想・ブックマークをお願いいたします。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。