3章-5節 不調 ――悪魔の呪い②
「ネアルさんの魔法抵抗力は非常に強い。だから呪いの維持コストは本来バカにできないはずだ。だけど、ネアルさんは魔力生成量も人並みを遥かに超えている。この呪いの正体は、ネアルさんの魔力生成量の多さを逆手に取って、生成された魔力を原動力にして呪いを維持し、それ以上の余分な魔力は生成できないようコントロールされている、ということだと僕は考える」
一度効果を発揮してしまえば、あとは半永久的に持続するよう仕組まれた呪いということか。ウーベルの奴め、とんだ嫌がらせだ。
「そしておそらく、この呪いそのものが、かなり強力な魔力を持って放たれた筈だ。それ故に、解呪にも同じだけの――あるいはそれ以上の力が必要になる。……僕の薬でもすぐに対応できないのはこのせいだね」
すまないと、ランスは頭を下げたが、シアはすぐに顔を上げるよう促した。そう、ランスは悪くない。悪いのは、ウーベルとライラーだ。あるいは俺――そう考えたところで、リースとシアがこちらを見ていることに気づく。敵わないな、全く。
「――それでは当面の話をしようか。ネアルさんの魔力の生成器官は阻害されているけど、魔法の発動には支障はない、ということで良いかな?」
「ええ。二種の魔法を使えたから大丈夫なはずよ」
「だったら、ネーヴェさんにこれを渡しておこう」
ランスがさっきから手に持っていた、青い液体入りの瓶が手渡される。魔力を回復させる効果のある薬だ。
「一口飲むだけで、魔力の生成が爆発的に早まる薬だよ。飲み過ぎは胃に負担があるから注意して」
「爆発的……大丈夫なのか、それ」
魔力の貯蔵量を超えたら俺の身体が弾け飛んだりしないだろうか。
「そう不安そうな顔をしないで。さっきも言ったけど、人間の身体は優秀なんだよ。魔力の貯蔵限界を迎えたら、魔力生成は一旦止まる。それに魔力はネーヴェさんも使うが、ネアルさんも使うんだ」
「わたしも?」
シアが自分を指さす。ランスの言っていることの意味が、俺たちには分からない。
「うん。ネーヴェさんは、ネアルさんに魔力を分け与えてあげればいいんだ。基本的に、魔導士同士ならこれは難しいことじゃないし、方法もいくつかある。……勿論、一時的な措置だよ。ネアルさんが魔力生成機能を取り戻したら、そんなことをする必要はない」
「……つまり、俺は魔力生成と貯蔵を担当して、シアはそれを使って魔法を行使する、と」
頷くランス。この男、柔和な顔立ちな癖にとんでもないことを言うな。
「わ、わたしは、いいけど……」
何故か顔を赤らめながら、シアがこちらを上目遣いに伺う。そんなに恐縮しなくてもいいと思うが。
「どうせ俺は製氷機だ。魔力タンクの役割が付いたらむしろ箔が付く」
「それは、箔、ですか……?」
リースが一人で困惑しているが、とりあえずランスの案に反論はない。
「なんだってやるさ、シアのためなら」
「いい返事だ。それじゃあ、魔力の接続だけど、どうする?」
医者にやってもらった方がいいのだろうか。
答えを求めてシアに目線を向ける。
「じ、自分たちでやるわっ!」
「……? シアがよければそれでいいが」
俺には魔力の接続方法は分からないからシアを頼みにするしかない。目線で問うても、何度も頷かれるので、それでいいらしい。
「ネアルさんがそう言うなら僕からは何も」
ランスもシアの態度の意味を図りかねているようだが、納得はした。しかし本当に謎だ。
「さて、話は以上だ。でも、今日だけは入院だよ。治ったとはいえ、お腹に穴があいていたからね」
「……えー。お腹すいたわ」
すかさず不満を訴えるシア。腹は空いているらしい。
「本当は食事も制限したいところだけど……若いから大丈夫かな。食堂までなら移動を許可するよ。ただし、腹八分目にすること」
「やったわ。リースちゃん、一緒にディナーはどう?」
「はい、是非!」
女子二人は盛り上がっている。もう暗いのだ、リースを遅くまで引き止めないように釘は刺す。
「そう言わないで、ネーヴも一緒にどう?」
「いや、俺は宿に戻る。遅くなったから、たぶんグレイブも心配してるだろう」
「それもそうね、わかったわ」
シア……空元気を振り絞っているようにも見えるが、それでも沈み込むよりはマシ、か。
落ち込んでいれば、目ざといリースが必ず力になってくれる。ランスも今晩は医務室に残ってくれるという。二人がいるなら俺も安心だ。
「明日迎えに来るから、食いすぎて死ぬんじゃないぞ」
「失礼ね、食べ過ぎでは死なないわ」
「……そうだな、少しの空腹の方が死にそうだ」
初めて会った時のことを思い出すと笑えてきた。シアも同じのようだ。
「……夜道に気をつけるのよ。わたしは、ここにいるんだから」
「ああ。リース、シアを頼む。食い過ぎる前に止めてくれ」
「任せてください!」
胸を叩いて請け負ってくれた。リースも大概お人好しだ。
「じゃあな、シア、リース、ランス。また明日」
「ええ。おやすみネーヴ」
手を上げて応え、一足先に帰路についた。
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