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最弱と呼ばれた〈氷雪士〉――その力は誰も知らない  作者: 鐘守偉俱
1章 最弱、冒険者になる

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3章-4節 事後処理②

「おう。その様子じゃ大変だったみたいだな」


 フォール邸ダンジョンでの戦闘、そしてウーベルに暗器を投げつけられたせいだ。全身に裂傷を負って、服はボロボロ。傷は深くなく血は止まっているが、見た目としては相当なものだろう。


「それで、あの洒落た救援要請は何だ。リースの慌てようはマジで見てられなかったぞ。あと、凍結で下水用の管が破裂した」

「それは悪いことしたな……」


 聞けば、トイレから汚物が噴き出し、それをモロに被った男がいたらしい。あとで陳謝と賠償をしよう。


「だが、仕方なかった。俺たちは例の『悪魔』と遭遇した。そいつは何とか倒したが、その後が大変だった」


 身を乗り出したフランベルクに魔族を称する謎の女、ライラー・ナイアルシェイドの出現について話す。

 ライラーが魔族を自称したことについては、敢えて注釈は付けずにそのまま伝えた。世間的にはアレが魔族の姿なのだ。フランベルクが真なる魔族たるシアの正体について気付いているか不明だが、変に掘り起こす必要もないだろう。


「……ライラー、か。名前くらいは聞いたことがあるが」

「ハオライル教の教えでは、姦淫を誘う者、偽りの妖婦、堕天使などと言われていますね。魔侯爵というのは初めて聞きますが」


 リースも魔侯爵については聞いたことがなかったようだ。教えとは別の存在なのだろうか。


「他人から魔力を奪い、自身の完全復活にあてていた、ってところか。そのために他者に【強奪】の派生スキルを与える、ってのは条件が釣り合ってないような気もするがな」

「他者から魔力リソースとして神託スキルを奪って、尚且つ自身のスキルは貸すだけのようだから、最終的にはライラーが得する計算だったと思う」


 俺が角を取り上げて破壊しようとしただけで、ウーベルは老化するほど生命力を奪われた。結局は自分本位の理不尽な契約だ。


「ですが、ネーヴェさんは眷属に誘われたのですよね」

「ああ。破格の条件だったと思う」


 何がお気に召したのか知らないが、熱心に誘われたものだ。挙句にその隙を利用させてもらったわけだが。


「どんな形にしろ、協力者が必要だったんだろうな。自分だけの力で復活できるというなら、あんちゃんや、他の人間に構ったりはせんだろう」


 フランベルクが腕を組んで言い放つ。

 今となってはこうして仮説を立てていくしかない。ライラーは既に首だけになってしまったのだ。


「……それにだ。今回の悪魔の件がライラー単独の行動ならばまだいいが、複数の魔族による作戦だったなら、脅威の桁は跳ね上がることになる」


 フランベルクの言葉に支部長室に重い沈黙が降りる。


「……いずれにせよ、目的が見えませんね。ライラーは何のために自分自身を取り戻そうとしたのでしょう」

「復活というからには、一度死んだんだろ。死してなお意識があったなら、それはもう地獄だろうよ。それなら、ただ肉体を取り戻したかっただけ、という線も一応理解はできる」


 言いながら、フランベルクは納得していないように眉根を寄せている。相対した俺の印象としても、ライラーからは悲愴感や必死さは感じなかった。ヤツにあったのは邪悪な意思だ。


「……教会で魔族について伺ってみましょうか。今のところ、符号が一致するのはその点だけですので」

「そうだな。だが、その辺の信徒に聞いても要領を得ないだろう。近日中に教会の司祭に会えるよう手を回しておく。ネーヴェ、それにリース、悪いが頼まれてくれるか」

「ああ。乗り掛かった船だ、最後まで協力する」

「助かる。リースの時間は大丈夫か?」

「そうですね……あまり長くは空けれませんが、大丈夫です」


 リースも忙しいのだろう。しばらく思案顔だったが、自分の中でなんとか落とし所を見つけたようだ。


「すまんが頼む。ネアなんとかって、あの嬢ちゃんも連れてくか?」

「……いや、シアは重傷を負ったし、あまり大所帯で行っても迷惑だろう。話を聞きに行くだけなら、俺とリースだけで構わない」

「それもそうだな。分かった、近いうちに二人で会えるよう手配する」


 怪我については語った通りだが、真に魔族であるシアを教会へ連れて行くのはなるべく避けたいというのもある。教会組織に魔族の正しい姿を認識している者がいないとは限らない。


「さて。では最後に、今回の件の報酬についてだが」


 フランベルクがニッと笑う。男くさい笑みだが、よく似合っていた。


「まさか一日二日で悪魔を仕留めれるとは思ってなかったから、今は十分に用意できてはいない。だが、金だけならすぐに支払えるな」

「金以外にもあるのか?」

「いやな、元々やるつもりはなかったんだが、仕事の早い冒険者は重宝する。偶然でも、悪魔に出会い、これを仕留めたなら評価に値する。ま、一番の戦功者は元凶の魔族を倒したサフィールだが、悪魔を倒して黒幕を暴いたのはあんちゃんだからな」


 サフィールには別で報酬を用意すると肩を竦める。


「……随分甘く評価してくれるんだな」

「甘い、か。影も形も掴めなかった悪魔を仕留めた功績はあんちゃんが思っている以上にでかいぜ」


 笑うフランベルク。俺たちも偶然出会っただけだが、こうした運の要素も馬鹿にできないのだろう。


「貰えるものは有り難く貰っておこう。金欠の俺たちとしては助かる」

「金欠か。随分立派なもんを提げてるが、奮発したんだな」


 ガウフの試供品のことを言っているのだろう。正確にはこれから奮発するのだ。


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