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最弱と呼ばれた〈氷雪士〉――その力は誰も知らない  作者: 鐘守偉俱
1章 最弱、冒険者になる

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2章-18節 悪魔との遭遇

「――! ネーヴッ!」


 ――そしてその、一瞬後のことだ。

 気づけば、地面に転がっていた。

 身体のあちらこちらが痛くて、どこが痛いのかわからない。道の端にあるどこかの誰かの家の外壁に背中から激突したらしく、息がし辛い。

 胸に重さを感じて見ると、藤色の髪の女が倒れ込んでいた。どうやら、シアに物凄い勢いで体当たりされたらしいと知る。

 理由もなくそんなことをする女でないのは分かっていた。そして、その理由はすぐに判明した。


「やあ。良い仲間を持ったね、キミ。予想外に魔力を持っていかれたよ」


 フードで顔を隠した人影。逆光の中、その顔は暗がりに落ちて見えない。それでも紅く光る目が酷く不気味だ。低く響く男の声には、少ないが驚きが含まれていた。シアの行動が予想外だったらしい。


「キミも、カノジョも、甘いんだよ。無法者は、ちゃんと殺してやらないといけないよ」


 紅い目だけが薄く笑みの形を取る。男は逆光を背負いながら一歩ずつ近づいてくる。

 無法者……一体誰のことだ。こいつの声、どこかで聞いたことがある。

 集中しろと脳に命じる矛盾。思考が惑っている。冷静に対処しなければならないと分かっているのに、ドス黒い感情が胸の裡で渦巻いている。

 シアは動かない――動けない。荒い呼吸で、意識を繋ぎ止めようと必死に唇を噛んでいる。

 身体に触れると、濡れた感触。夕日よりも赤い血が、右手にべったりと付いていた。俺を庇ったせいで、傷を負ったのだろう。

 燃え上がるほどの怒りが目の奥で爆ぜた。シアをどけて立ち上がろうとした俺の腕を、しかしその白い手が強く掴む。


「ネー……ヴ、逃げ、なさい……いまの、あなたじゃ……」


 絞り出すように出した声は、まだ俺を案じている。その声で少しは思考が戻った。

 こんなやつを相手にしている場合ではない。シアの傷の程度が分からない今、一刻も早く医者に診せなければならない。


「あの男にはボクが呪いを与えたんだ」


 紅く光る目の男は続ける。


「自棄になって、どうせ人生が終わったなら好きに女を犯そうとか考えていたゲスだ。――あぁ、いやいやボクは、他人が堕落して破滅に向かう姿が大好きでね。ゲスなりに上手く踊ってくれたよ。だから、ね、キミたちには是非ともあいつを殺してほしかった。もうあいつは飽きたからね。そうすれば、次はキミたちが破滅する番になっただろう?」


 革製の靴が踵を鳴らす。顔の輪郭もはっきりと見える距離。片方だけの短い山羊角がわずかにフードを押し上げている。

 シアには悪いが、俺一人で逃げるわけにはいかない。怪我をした相棒を置いて逃げるつもりなど毛頭ない。何より、仲間を傷つけられて黙っていられるほど、俺は冷酷になれない。


「ネーヴ……」


 留めるシアの手をゆっくりと外し、立ち上がる。腰に差した刀の柄に触れる。

 不吉を纏う男に向き合う。


「さて、また会ったねキミたち」

「お前は……!」


 ウーベル・ホークス。

 フォール邸ダンジョンで警備をしていた細い目の男。その厭らしく歪んだ笑みがこちらを見ていた。


「今度は名前を教えてもらえるかな?」


 右手に持った短銃が、硝煙を上げている。



長い2章でした。

ここまで読んでくださり、ありがとうございます。

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