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最弱と呼ばれた〈氷雪士〉――その力は誰も知らない  作者: 鐘守偉俱
1章 最弱、冒険者になる

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2章-15節 骸骨騎士団④

 これならいける。

 そう思ったところで、骸骨君主の膝を覆った鎧が展開する。中には髑髏の意匠。――脳内警報。暗い眼窩に紅の光が灯る。咄嗟に身体を捻ると、眼に見えるほどの熱線が至近を通過した。俺の立っていた石畳が赤熱し、氷を溶かして蒸気を上げていた。

 鎧に迎撃機能まであるのはもはや反則だ。とはいえ、悪態を吐いても始まらない。光線に追尾されないだけマシと考えるしかないだろう。

 それでも、両膝から赤熱の光線を放ちつつ、巨剣を振るう姿はもはや兵器だ。個人の力で対応する域を逸脱している。


「雷紫穿鎗(フルフェルデ・ハルバ)」


 紫電の槍が骸骨君主の右肩に直撃する。そして雷撃の爆発。シアの魔法だ。

 骸骨は肩を強く押されてわずかによろめく。雷撃や発生した熱によるダメージはない。しかし、効果の全てを消してしまうものではない。強力な攻撃力を秘めているシアは、警戒せざるを得ないだろう。そしてシアに意識が向けば、俺は自由になる。

 元よりこれは俺とシア、そして骸骨君主と騎士長による二対二の戦い。決闘などではない。今更卑怯とは言うまい。

 更に立て続けて雷撃が着弾する。爆発の圧力に押され、骸骨君主には苛立ちが見えた。大股でシアに駆け寄り、呪いの巨剣を振り回す。幾重にも描かれる軌跡の中でも、シアには当たらなかった。余裕を持って回避する姿は舞うようですらある。膝から放たれる赤熱の光線すらも紙一重で避けてみせるのだ。

 今や骸骨君主の注意は完全にシアに向いているが、それでも俺の存在を忘れてはいないようだ。乱射される光線が俺の周囲を掠め飛んでいく。牽制なのだろう。あるいは、次はお前だから大人しくしておけ、か。――シアを前にして俺の存在をまだ認知する余裕があるというのは恐ろしいが、それは油断でもある。


「雷磁錬破砲《フルフェルデ・レガーノ》!」


 骸骨騎士長を葬った必殺の魔法が、骸骨君主の左肩に直撃する。鎧によって魔法や弾体は無効化されたものの、やはり衝撃を完全に殺すことはできない。稲妻を上げる左肩を押さえながら、骸骨君主の目の色が変わった。シアをまだ甘く見ていたと認識できたのだろう。

 シアの魔法の発動は更に速さを増し、威力と精度を落とせば速射も可能なようだ。

 走る電磁砲台。人間相手であれば、肉片が残るかも怪しい。あれでは攻城兵器だ。――そんな砲弾の雨を正面から受けながら、それでも骸骨君主はシアに追い縋る。魔法無効化の防御力で強引に距離を詰め、振るう一刀の速さは更に増す。いよいよシアが壁際に追い詰められてきた。

 その足元は俺が突入時に投げ放った氷棘鋼爆(クロセルス・コンボラ)によって凍りついている。吹き飛ばされた骸骨軍団の成れの果ても一緒に転がっていた。それは魔石や装備していた武具たちだ。シアにとって、足場がいいとは言えない。

 遂に壁際まで追い詰めた――骸骨君主は、思っただろう。氷を踏み砕きながら、一歩一歩シアに近づいていく。


「氷澆弩槍(クロセルス・ファルム)!」


 援護のため、氷の投槍が発射。こめかみに痛み。そして、眉間の奥が揺らぐ初めての感覚。

 本能で分かる。魔力切れが近い……!

 発射された投槍は魔力を推進力とした俺の中では最速の射撃魔法だ。しかし、シアの砲撃魔法とは比べるべくもない。氷の槍は骸骨君主の鎧に着弾したが、無効化効果によって半ばまで削れ、簡単に勢いを失い石畳に落下した。落ちた槍からは青白い冷気が広がり、周囲を一息に凍結させる。

 骸骨君主はこちらに目を向けた。物言わない骸骨は、しかし正確に「待っていろ、次はお前だ」と語っている。先に強敵(シア)を片付けることにしたのだろう。眼窩の鬼火が燃え上がる。


「――悪いが、次はない」


 声が、そこに宿った魔力が、俺と世界を繋げる。


「氷凍地槍(クロセルス・フルム)!」


 眩暈を堪えて、全力で放った。

 直後、骸骨君主の大腿部を覆っていた黒色光の鎧が弾け飛んだ。膝関節の上から冴え冴えとした白銀の穂先が生え伸びている。魔法無効化の鎧も、内側には効力を発揮しない読みだったが、当たっていたようだ。

 ――今やこの大部屋一面に広がった氷は、全て俺のものだ。魔力を宿したこの氷は、奇襲にも使える俺の切り札。魔法を無効化し、魔力で精製された物質を消滅させる鎧ではあったが、骸骨君主が氷を踏んだ時、氷はそこに残っていた。

 それはつまり、鎧の足裏には魔法無効化の効果が及んでいない可能性が高いことを意味している。その一点に賭け、全力の魔法行使。魔力による加速を得た氷柱は、白銀の槍となって骸骨君主を足裏から貫いた。


「氷刻厖掌(クロセルス・イヤッド)っ!」


 ぐらぐらする視界で、更なる魔法。骸骨君主の動きは止めたが、致命傷には至っていない。気炎を上げる骸骨の王は、たとえ刺し貫かれたとしても、足止め程度にしかならないと分かっている。

 だから、止めを刺す。

 氷刻厖掌の詠唱に、骸骨君主は燃え上がる目を向けた。打撃が来る、そう考えたのだろう。巨体は一瞬身構えた。だが違う。氷の拳が殴ったのは俺自身だ。

 俺の足元から高速で生え伸びた氷の剛腕は、その勢いのまま、俺を宙に射出した。投石器に人間を乗せたようなものだ。凄まじい加速を受けながら、骸骨君主の頭に向けて一直線に跳ぶ。

 脚を氷槍に縫いつけられた骸骨君主が上体だけで振り返る。右手に持った呪いの巨剣が飛来する俺に向いた。予想以上に判断が早い……! このままでは迎撃されて骨の仲間入りだ。


「雷磁(フルフェルデ)――」


 そこに、声。不敵な笑みは、見ずとも分かった。

 骸骨君主は振り向きもしない。鎧の魔法無効化によって守られているため、捨て置いても良いとの判断だろう。右腕が断頭台となって掲げ上げられる。一瞬後に、俺は人として死ぬだろう。

 そんな思考の最中で、俯瞰視の魔眼は、浮かび上がった一振りの剣が弾体として装填されたことを確認していた。それは骸骨兵が使っていた粗悪品の武器。斬るというよりは圧し折るくらいしか出来ないものだ。品質としては、シアが錬金魔法で作り出した槍の方がよっぽどマシだろう。

 だが、俺はその意図を既に察している。魔力を帯びていない物質だからこそ、意味があるのだ。


「――錬破砲(レガーノ)っ!」


 シアは手を掲げ上げ、高らかに詠った。

 電磁加速された剣が、赤熱し崩壊しながら飛来。圧倒的な速力という物理の暴力を得た剣は、脇下から骸骨君主の右肩を貫き、そのまま天井へ激突し、燃え尽きた。一拍遅れて、骸骨君主の右腕が肩口から落ちる。呪いの巨剣も石畳に転がった。


「行きなさい、ネーヴ」


 酷く長く感じた滞空だった。表情の無い骸骨の顔に、確かな驚きが見える。


「てええええぇぇい――!!」


 気を放ち、抜き放った刀を骸骨君主の前頭部に叩きつける。跳び上がった勢いと腕の振りだけで放たれたガウフの刀は、骸骨君主の兜を切り裂き、易々と頭蓋に達した。確かな手応え。頭蓋に納められていた核を捉えたようだ。

 加速のままに後方へと抜け、受け身をとって着地。振り返れば、急速に光を亡くす鬼火の瞳がこちらを見ていた。

 骸骨は物を言わない。そこにある感情を理解することは難しい。けれど、この骸骨君主に怨念の類はないように思えた。それは、彼が最後の力で巨剣を拾い上げ、そして愛剣を差し出すように氷の広がる石畳に突き立てたからかもしれない。


「……良い戦いだった」


 故郷の礼に従い手を合わせると、骸骨君主の身体は力を失って崩れ落ちるのだった。


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