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最弱と呼ばれた〈氷雪士〉――その力は誰も知らない  作者: 鐘守偉俱
1章 最弱、冒険者になる

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2章-15節 骸骨騎士団①

「避けろ!」


 叫びながら壁に背を預け、扉の基部に身体を隠す。

 瞬前まで俺の頭があった空間を大量の矢が貫いていった。……シアは反対側の壁に動いている。無傷だ。俺が注意するまでもなかったようだ。

 氷刻厖双(クロセルス・イエルス)の双腕は矢の嵐を受け、既に原型を留めていない。持続させていた魔力を打ち切り、氷が霧散すると突き立っていた矢が石畳に転がった。あたりは一瞬で戦地の様相を呈している。

 

「魔法が来るわ」

「させるか――!」


 魔法攻撃は遮蔽物だけでは防ぎきれない。どんな軌道を描くかは、魔法の種類と相手の力量に依るからだ。

 瞬時に魔法を構築。無詠唱で放った氷透陣(セス・バラフ)により三重の氷壁を作り上げ、扉の開口部を完全に覆う防御壁とする。そして次の一瞬後には炎の魔法が次々に着弾。溶解する氷に魔力を注ぎ込んで再生させ、更に周辺へと根を張っていく。

 同時に、俯瞰視の魔眼で扉の先を感知。骨の軍団が陣を張っている。光の帯は投光魔法によるものだ。こいつらの放つ殺意と魔力が俺たちに回避行動を取らせた。どうやら待ち伏せられていたようだ。

 火炎の弾幕は激しさを増すばかり。矢による攻撃も加わり、物量を前に徐々に氷壁の再生が遅れてくる。――必死にならざるを得ないこの状況で、しかしまだ動きを見せないシアを見るに、俺だけで現状を打破できると確信しているのだろうと、思考の片隅で考える。

 必死になっているつもりでも、シアの判断を考察する余裕があることに、自分で驚いた。ならばと、次の一手を考える。膠着しかけている現状を打破するにはそれしか道がない。

 

 ――想像こそが創造する――

 

自分の裡に意識を没入させ、魔導式を構築。魔法としての形を成すよう魔力の流れを制御。出力を設定。


「氷棘鋼爆(クロセルス・コンボラ)!」


 こめかみが痛む。祝福が降りたということは、また無詠唱ボーナスを得られたようだ。どうやら俺は戦闘中にこそ魔法を生み出すほどの集中力を発揮できるらしい。が、やはり死を前にしたときに同じようにできるとは思えない。普段から戦い方を考えるべきだろう。

 思考とは別に、掌には白いこぶし大の雪玉が完成していた。石のように硬く、放っておけば周囲を凍結させるほどの冷気を放っている。

 同時に外側からの攻撃によって三重の氷壁が砕け散る。その刹那に、再度の氷透陣(セス・バラフ)で一時しのぎの壁を生成。せり上がる氷壁を越えるよう手の内にある雪玉を投擲。火炎弾が再度氷壁に激突する中、その上空を雪玉が放物線を描いて飛んでいく。投擲には自信がある。射程距離内、魔眼で正確に見えている、動かない。そんな目標に当てることなど、何よりも容易い。

 雪玉は骸骨軍団の意識の間隙を突き、その中央に落ちた。その質量自体には、石ころ程度の攻撃力しかない。そんなものは無意味だ。だが、その先がある。

 破裂音。氷棘鋼爆(クロセルス・コンボラ)に込められた凍結の力が暴風を伴って解放される。凍結の爆風が骸骨兵の一団を吹き飛ばし、そして凍結させる。俺が投げ込んだのは氷の手榴弾。手で投げる形にしたのは、魔法を精密操作するよりも、培った投擲術での制御の方が容易いと考えたからだ。その目論見は成功したと言っていい。

 凍結手榴弾の余波を受け、崩れかけていた防壁が一瞬で回復した。だが、始末できたのは先ほど通路にいたような雑魚ばかり。残った骸骨たちは全員、鎧や盾を身に着けて武装している。強力な個体であることは疑いようもない。

 こめかみに刻み込まれた名誉の頭痛は無視し、氷壁を払う。魔力の残滓が舞う中を、警戒しながら進む。辺りには魔石や骸骨兵たちが握っていた剣や槍が散乱している。

 一方で、マントを羽織った指揮官は全くの無傷。そして五体いる骸骨騎士(スケルトン・ナイト)たちは鎧や盾の表層に霜が降りた程度だ。


「派手に爆散させる、良い魔法ね。ちょっと寒いけれど」

「爆風と凍結も、相性は悪くないな」


 シアの高度な複合魔法ほどではないが、意識して風の力を借りた魔法だった。


「あとは、あいつらね」

「見るからに手強そうだがな」


 平静を装ってはいるが、貫くような殺気を受けて、内心は膝が震えそうになっている。それでも逃げないのは、勝てない相手ではない、という判断があるからだ。この辺りは山の狩りで培った経験と、魔眼による情報開示、そして【生存本能】スキルに依るところかもしれない。


「さ、行きましょう。あまり待たせても悪いわ」

「……そうだな」


 シアに続いて駆け出す。骸骨騎士の眼窩の奥に鬼火が灯る。正式に敵と認められたようだ。光栄なことで。

 骸骨騎士団の編成は長剣の騎士が三体、左右に槍と長斧を持った騎士が一体ずつ。全員が盾を携え、鎧を着込んでいる。更に中央の個体は兜も装備していた。やつは騎士長なのだろう。

 骸骨騎士は二体ずつに分かれて駆け出してくる。指揮官と騎士長は様子見か。俺たちを各個撃破しようという魂胆だろうが、数の分配を間違えたな。本来ならば、全員でシアに向かうべきだった。

 長斧の騎士が勢いのまま斧を振り下ろすが、盛大に石畳を叩くのみ。シアは半身をずらして懐に飛び込んでいる。騎士盾を持った左腕が唸りを上げて振われるが、しゃがみ込んで回避。そこへ回り込んだ長剣の騎士が乱入するが、二体まとめて足を払われる。――いや、膝から下がへし折られていた。鎧ごと脚を砕くという、信じられない脚力だった。


「雷擂襲鎚(フルフェルデ・バーイ)」


 詠唱とともに指を鳴らすと、雷の戦鎚が骸骨騎士たちに振り下ろされる。騎士たちは盾を向けてなんとか受け止めたが、一撃の圧力に腕の骨が破砕され、盾は陥没。そして下半身は粉々になった。戦鎚の圧力は更に増し、撒き散らされる電撃が骨や鎧を溶断する。たちまち耐えきれなくなり、やがて押し潰された骸骨騎士は魔石となって転がった。俺にとっての強敵もシアの前では赤子同然だ。


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