2章-14節 骸骨軍団の末路
散らばった魔石を拾い集める。俺が倒した骨の数はたかが知れていたし、その殆どを壁と氷で押し潰したので、それほど苦ではなかった。……問題は、シアの方だ。
「魔石の絨毯だな」
「きらきらして、綺麗でしょ」
そうは言うものの、さすがのシアも苦笑気味だ。
雷磁練破砲による圧倒的な破壊に晒された骸骨兵の一団は、その弾丸や衝撃波によって微塵に砕かれた。よって、出来上がった魔石も通路中に散乱しており、ダンジョンの石畳に敷き詰めたような有様だ。魔導灯の青い光が、無色の魔石に反射して輝いている。見ようによっては美しいが、これから拾う手間を考えると気持ちも身体も重くなる。
「あの骨、こんなに居たのね」
「定期的に駆除しないと際限なく増えるのかもな」
仕方なく、半ば清掃作業のような気持ちで魔石を拾い集めていく。まさかダンジョンに箒が必要とは考えつかなかった。メイドから借りてきたら良かったかもしれないなどと、益体のない考えがよぎっていく。
多面体の魔石は路傍の石ころよりも重く、しかしガラスよりもマシな程度な固さで意外に脆い。魔法でかき集めることも出来たが、売却時の品質を考えると拾えるなら拾った方がいいだろう。
「こういうところ、地味よね」
「回収や補給を生業にしてる後方支援専門の冒険者もいるらしいからな。だが今の俺たちはそこまで大規模な探索は行わないから、自分たちで地味にやるしかない」
シアが重力魔法で改造した謎容量の背嚢にどんどん詰めていく。握り拳を一回り小さくしたような大きさだが、いくら詰めても余裕がある。この背嚢を売り出したら一瞬で富を築けるだろう。
「やーよ。これ、恒常発動する魔法で、わたしの魔力の上限値を削ってるのよ。ネーヴとリースちゃんとわたしの分くらいはなんて事ないけれど、数が増えればその分負担も増すわ」
「そんなトレードオフだったのか……。悪かった……いや、ありがとうな」
「いいのよ。仲間でしょう」
にっと笑うシアはどこか誇らしげだ。
俺も何か返せればいいのだが。
「それにネーヴには、お弁当の鮮度を保つっていう、たいっっせつな、それはもう大切な役目があるわ。少なくともわたしは、状態を保ったままの凍結なんてできないし、仮に氷漬けの状態でも冷気だけ払って常温に戻すなんてこともできない。だから、お互い様よ」
食事の時の満面の笑みを浮かべたシアを思い出す。俺が状態の凍結を解除すると、目を輝かせていた。あの嬉しそうな顔は、確かに価値あるものを用意できたという実感に繋がっていた。
「あまり辛気臭いことを考えないで、これからやれることを増やしていけばいいのよ。ネーヴはいつか、この星で最強の魔導士になるわ。わたしがついているからね」
「シアは最強じゃないのか?」
まさか、俺がシアを抜く日が来るのか。想像もできない。そして意外な謙虚さに驚く。
「わたしは宇宙最強の人間よ」
……この女、謙虚さのかけらもなかった!
どうやらこの星も、そして魔導士の枠も超えているらしい。大層なことだ。――せいぜい、仲間として恥じない立ち位置にはいるよう努力しよう。
「あ、今笑ったわね」
「どうだかな、辛気臭い顔をやめたら反動で笑えてきたんじゃないか?」
魔石の回収作業に戻る。
粗方回収し終えたが、運悪く壁や床の穴に挟まっていることも多い。いちいち探し当てるのは手間だが、俺自身貧乏性のため、勿体無いと感じてしまう心は消しきれない。
魔眼に探知機能がないものかと少し意識してみるとすぐにスキルが発現した。……我が事ながら、この【魔眼】は本当に便利な神託スキルだ。
発現した探知の魔眼により、魔眼視点で魔石の位置がハイライトされるようになった。この視点を通常の視点と重ね合わせることで、どの地形にどの程度魔石が隠されているのかが一目で分かる。魔眼の視界の及ぶ範囲をカバーしているため、ある程度なら壁の中までも見渡せる。
「ネーヴ……なにもそこまでして、拾い集めなくても……」
壁と床の間にあいた拳大の穴に手を突っ込んで、魔石を探っている姿を見られてしまった。確信があってやっているわけだが、シアには必死で魔石を探している守銭奴にしか見えないだろう。
「違う、これは魔眼で見えていてだな――」
魔石に指先が触れる。同時に、何かを押し込む感触。――瞬間、背筋に嫌な予感が走る。穴から腕を引き抜き、刀に手を掛ける。
地鳴り。周囲が小刻みに震える。そして正面の壁からは土煙が上がり始めた。
「ネーヴ、何したのよ……」
「俺にも分からん」
二人で、ついにはせり上がり始めた壁を注視する。石壁同士が擦れ、ゴリゴリとまるで石臼のような音を立てている。
「隠し扉……? こんなに都合よく見つかるの?」
「外側からは間違っても開けられないよう、偽装した穴にスイッチを用意したのかも知れないが……」
出来すぎた話だが、実際にあったのだから現実を受け止めるしかない。
扉は上昇を続け、そのまま天井に呑み込まれていった。後には、巨大な開口部が広がっている。……中に魔物の姿はないが、奥には俺の背丈の倍ほどもある金属扉が設えられていた。
「あの扉、どこに通じてるのかしら」
「リースから貰った地図にはなかったな。悪い予感しかしないが、折角の発見を放っておくのもな……」
冒険者としては、見逃せない発見だろう。未踏エリアの探索は、情報を売るだけでも得られるものがある筈だ。シアを見ると頷きを返された。
「……行ってみよう」
刀に掛けた手は離せていない。いつ扉を突き破って魔物が出てくるかも分からない。
シアも無警戒のように振る舞っているが、しっかりと杖を握っている。
扉の前に立つ。両開きの扉は鈍い光沢を放つ暗色の金属製。鑑定の魔眼をもってしても材質は不明。ただ、やたらと頑丈そうに見える。
手をかけようとして、しかし気付く。こんな見るからに怪しい扉を行儀良く押し開けてやる必要などないのだ。
――作り出した氷刻厖双の双腕が扉を押す。……もう頭痛は感じない。
かなりの魔力を込めているつもりだったが、氷の腕越しにも伝わるほど重い。それも扉の両方に均等に力をかけなければ開かない仕組みが組み込まれているようで、力が分散する。
それでも氷の双腕は、中心から徐々に隙間を広げていった。内部からは光が差し込んでいる。どうやら、通路よりは明るい空間のようだ。隠し部屋にでも通じているのなら、財宝の類も期待できるかもしれない。この光が、得難い宝の輝きであればどれだけ良いか。
淡い期待を想い描く。扉の先から届いていた光は、一条どころか帯となって横向きに照射されている。光の太さを可視化できるほどに強い。一体何が……?
双腕が扉を開け切った。――その一瞬後、俺の知覚は最大級の警告を放つ。
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