2章-9節 加わる仲間
「ネーヴ、食べないの?」
シアの声が耳に入り、瞬間、結界が解除されたことを知る。
シアのニコニコした顔。その蒼玉の瞳の奥には野生の光が湛えられ、どうやら、あまり手をつけられていない俺の飯を狙っているらしい。
「今日はやらんぞ」
「なによー。いらないわよー。残したら悪いと思っただけよ」
嘘つけ。自分の皿がモノの見事に空だろうが。付け合わせのパンでソースやドレッシングも綺麗に拭われている。足りないなら俺の隣の男におかわりでも頼め。
……という想いを込めて視線だけ投げておき、俺はジリアンの作った飯に改めて手をつける。うん。グレイブの飯に負けず、劣らず、大変な美味だ。
「むぅ。ジル、おかわり」
「はいはい。突然の予約で三人分の食材しか用意してなかったから、まかないくらいしか出せないけど、いい?」
いつも通り、シアのいきなりあだ名呼びであったが、呼ばれたジリアンは別段驚くこともなく普通に対応する。
「いいわ。あなたのご飯、おいしいもの」
「紹介してよかったです。午前中、おやつの時間に走った甲斐がありました」
リースが微笑んでいる。どうやら小休憩の時間を潰して予約しに来てくれたようだ。なんだか申し訳ない。いや……それだけリースも楽しみにしていてくれたということか。
「光栄よ。じゃあ少し待ってなさい」
ジリアンは再び厨房へと消えていく。
「ところでネーヴ、さっきは男同士で何を話してたの? 全然聞こえなかったわ」
「――別に、大したことじゃない。冒険者なら仲間を大切にしろとか、そんな感じだ」
今は亡き友を偲ぶ、大人からの助言だった。
「はい。ネーヴェさんも、シアさんもお互いを大事にしないと。せっかく縁あってパーティを組んだんですから」
「そうだな。縁は大事だ。だからリース、俺の言う仲間にはあんたも含めてる」
「……え?」
「確かにそうよね。友達だもの。大切にしない理由はないわ」
「まぁ……概ねそういうことだな」
「なに照れてるのよ」
追求するなよ恥ずかしい。
「そんな、私なんかがそんな……」
リースはなぜか狼狽えている。ぶつぶつと呟きながら顔を赤くさせ、目をぐるぐるさせている。
仕舞いには、恐れ多い、などと呟く妙な謙虚さを発揮するあたり、あまり仲間や友達という関係に縁がなかったのかもしれない。さっきシアから友達と言われた時も顔が真っ赤になっていたし。
職業柄、そして勤続年数から、知り合いはかなり多いのだろうに、これまで対等な関係を築いたことがなかったということだろうか。……流石に、意外でしかないが。
「……組合の受付や、まして私のような基本裏方の技術者で管理職なんて、冒険者の皆さんからしたら、脇役ですから。彼等は自分自身の伝説の主人公で、私は路傍の石にも等しいくらい、実は存在感がないんです。得意なことは自分の仕事と魔導具作りくらい。私には、他には何もありません」
……酷い自虐を聞いた気がする。
リースほどの美人を放っておくような者が果たして冒険者と言えるのだろうか。いや、冒険者の本質は別に色恋沙汰に熱心な者ではないが。ただ、そういう手合いも多くいるであろうことは想像に難くない。
……とは思うのだが、リース本人の自己評価が著しく低いせいで、逆にまともなアプローチでは難しかったのかもしれない。全てを世辞と受け取ってしまえば、相手は逆にあしらわれていると感じるだろう。
というか、リースは何故こんなにも自分に自信がないのか、もはや意味が分からない。この姿で、この有能さで、どんな人生を送ればこうなるのか。シアさえも圧倒されている。
未だ自身の価値の無さを語り続けるリースを手で制し、その翠色の瞳をしっかり見据えた。
「それでも、俺たちにとっては大事な仲間だ。まずは、それだけ覚えておいてくれ、リース」
「いいんですか、私なんかで」
「ここでネーヴがやっぱりよくないなんて言うなら、わたしがこの手で消し炭にするわ」
言わねーよ。指先をバチバチさせながら本気で怖いことを言うな。
「リースは、俺たちにとって大事な人だ。だから、仲間扱いさせてくれ」
言った瞬間から気恥ずかしさが溢れてきたが胸の裡で凍らせておく。
「友達で、仲間。これでわたしたちは三人のパーティよ」
いいでしょ、と見てくるシアに頷きを返す。
「それじゃあ……よろしくお願いします」
ペコリと下げられた頭が戻ってくると、やや上気した、晴れやかな笑顔があった。
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