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最弱と呼ばれた〈氷雪士〉――その力は誰も知らない  作者: 鐘守偉俱
1章 最弱、冒険者になる

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2章-5節 戦利品の正体②

「規格外といえば、ネーヴさんも十分に規格外です。ジョブを託されてから数十日でここまで順応して、厄種を討伐できる人も珍しい。元々自分のものではなかった力、自分になかった感覚を操るのには、相応の才覚が必要なんですよ」

「そうなのか?」


 シアに水を向け、


「わたしは参考にならないわよ」

「そうだな」


 すぐに諦めた。


「……即座に納得されると何だか腹が立つわね」

「ネーヴェさんに関しては血流紋登録をしてくださいましたし、ステータスでも把握できない何かがわかるかもしれませんね」


 ……そういえば、血流紋登録の結果をまだ聞いていない。この分だと、まだ時間がかかるのだろう。リースも忙しいだろうし、俺は便宜を図って貰えれば特に結果は気にしない。実際、ここ数日リースにはよくしてもらっている。


「ともかく、話はわかりました。討伐隊は無駄足になっちゃいましたけど、お二人のおかげで近隣と初心者冒険者の安全が守られたので助かりました」


 ペコリと、お辞儀をする。うなじで結われた金糸の髪がふわりと流れた。


「少しは階梯も上げられるか?」

「今より割りの良い儲け話はあるか、と聞こえるわね」


 その意図しかないからな。

 階梯に付随する名誉名声には今のところは興味がない。生活の足しにならないことは不要だ。必要なのは評価と金だ。


「この首が、お二人合わせて高階梯の実力があることを証明しましたが、組合の規則で一度に二階梯以上を上げることは原則禁止されています。ですので、今日から討伐系は二階梯になりますね。……正直なところ、あまり急激に階梯を上げても、他の冒険者から嫉妬を招きますし」


 過去にそんなトラブルがあったのだろう。冒険者の本質は、所詮世のはみ出し者。俺やシアもそうだが、安定した生活を望めない者たちの受け皿となってくれるからこそ、ここにいるのだ。……冒険者組合がなければ犯罪者に身をやつす者も多くいるだろう。

 無論、綺麗な身の上の者もいるだろうが、それ以上に脛に傷を持つ者が多い。不満が噴出しやすいのは、組合ではなく、冒険者という人種の精神性の問題だ――とは、いつか読んだ本の受け売りだが。


「組合職員としては本当にお恥ずかしい限りです。ただ、レゾンは王国でもかなり良い方です。やはり、フランベルク支部長の存在が大きいですね」


 うねる炎髪の男を思い出す。豪気にして苛烈な男だったが、ドルフに対する怒り――冒険者の恥晒しとまで叫んだあの態度は、依頼者たる市民を思っての事だった。紛れもなく傑物だろう。


「ま、フランベルクはともかく、俺たちはリースの期待には応えるつもりだ。そのために、冒険者同士の無用な争いは避けるし、別に階梯が飛び級にならなくても構わない。その方が身の丈にも合ってる」


 同意を求めてシアに視線を送ると、もちろんとばかりに頷いた。

 リースは出会ったばかりの俺たちの身を本気で案じ、そして行動できる善良な人だ。その期待に応えたいというのは、極めて自然なことだろう。

 俺は、何度も迎えの馬車を手配してくれたという昨日の話を忘れていない。善意には善意で答えるのが山の人間なのだ。

 リースはそんな俺たちの態度に目を白黒させた後、何を言われてるのか理解して頬を真っ赤に染めた。


「まずは一階梯でも上がったことを喜ぶべきだな」

「そうね。リースちゃん、冒険者の階梯の上下は組合内で周知されるの?」

「え、あ……えほんっ……! 周知はされません。でも、噂はすぐに広がりますよ。私も、特段隠したりはしませんので」


 照れを払うための変な咳は無視してやることにする。シアはニヤニヤしていたが。


「それから、階梯が上昇する度に入場制限のあるダンジョンが開放されたり、受注可能な依頼が増えたりもします。下がれば逆ですね」

「階梯が下がることもあるのか?」

「あります。依頼の失敗が続いたり、迷惑行為、犯罪行為に手を染めたりすると、階梯が下がったり酷ければ冒険者登録を停止されたり、失効されたりしますね。階梯には、常にそれに応じた実力が伴っていなければなりません」


 それが依頼者と、そして冒険者の為であると、リースは告げた。

 ……かつての自分自身がまるで幻想だったかのように、時は人からあらゆるものを奪う、と爺さんが言っていたことを思い出す。いつまでも全盛期ではいられない。ヒトも魔族も、そしてエルフでさえ、老いとは無縁ではいられないのだから。


「ネーヴ、一階梯に下がらないように気をつけなさい?」


 シアの声が俺を物思いから呼び戻す。未来に目を向け過ぎた。今はまだ早い。


「――別に俺は、食っていければそれでいいからな。選択の幅が広がるのは有り難いが、階梯にこだわるつもりはない」

「なんとも、からかい甲斐がないわね」

「悪かったな」


 肩を竦めるシアに毒づいておく。

 ともあれ、大量にあった素材は全て並べ終えた。どうやらリースも魔物の素材の鑑定は専門外らしく、別の職員を連れて来て引き継ぐ。

 その男はガロ厄種の素材に驚いてはいたが、仕事は早かった。恐らくなんらかのスキルによるものだろう。結果はすぐに出て、即日でまとまった金を手に入れることができた。


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