2章-5節 戦利品の正体①
「……あれ、わたし魔族って、バレちゃってた?」
「え、隠していたんですか?」
両者が顔を見合わせる。そして俺を向く。
いや俺を見るな、互いに向き合えよ。
「俺は何も言ってないぞ。ただリースのことだ、俺でも知っているようなことは当然知ってるだろうとは考えていた」
「早く言いなさいよ」
「言ってもその角、隠さないだろ」
「それもそうね」
あっさり納得する。その黒く刃のような角だけが唯一の魔族としての証なのだが、シアは隠そうとしない。一応、俺たちの会話を聞いていたドルフにはシアが脅しをかけていたが、おそらく奴本人が信じていないだろうし、仮に信じていたとして、盗賊に身を窶した男の口から出る突拍子もない言葉を安易に信じる者もいまい。――それほどに実在の魔族と宗教上の魔族像はかけ離れている。
「私もわざわざ他の人には言ったりしていませんよ。ただ、古代戦争の直後から教会によってかなり捻じ曲げられた外見で伝わってますので、たぶんエルフであっても、他に気付く方はいないか、かなり稀だと思います。とはいえ、今の社会であってもやはり風当たりは強くなると思いますので、あまり大っぴらにするのはお勧めできませんが」
「そういうことなら、ネーヴが異常よね。ほんと、歴史上の魔族の特徴なんていつの本で読んだのよ」
「軽く数千年前のものだな」
その年代も祖父に聞いただけなので、正確なところは不明だが。不思議と状態が良かったのは、本自体が魔力を帯びていたせいだとか言っていたと思う。魔導は古代から切り離せずに生活の中にあるのだ。
「…………なんでそんな歴史的遺物がネーヴの実家にあるのよ……」
「うちは――サタールンタ家は代々、本の蒐集家なんだ。しかも山は閉ざされてるから、一度手に入った本は二度と下界には流通しない」
「博物館みたいな家ね……。それを解読できるのもすごい、というか、おかしいけれど……」
教えられている内に、いつの間にか読めるようになっていたな、そういえば。だからスキルに【古代語理解】なんてものがあったのか。
――閑話休題。
とにかく、今は買取が先決だ。リースだって役職を持った組合職員だ。決して暇ではないだろう。
粗方並べ終わり、後はガロキングのものだけになった。一番値が付きそうだったから、最後まで取っておいたのだ。
氷漬けの頭を掴んで背嚢から引き出す。
「わ、頭部丸ごとですか。凄い、です、ね……?」
「あ、ガロの王様じゃないの。見ないと思っていたら、もったいぶってたのね」
「やはり大物は最後に出したいだろう?」
「ネーヴにも、人の心があったのね」
酷い言い草だ。リースに加勢要請の視線を送ると、彼女はまた目を丸くしている。元々大きな目から瞳がこぼれ落ちそうだ。
「こ、これはどうしたんですか?」
「ガロの王様――俺たちは勝手にガロキングと呼んでいたが、群れと一緒に出てきたから倒した。初心者向けダンジョンに出てくる魔物にしては、なかなか歯応えのある相手だったな」
「冒険者の素養ってやっぱり必要なのね。一応一人で勝てたネーヴはギリギリ合格かしら」
自分を差し置いて他人の評価をするんじゃない。実力だけならシアは文句なしで冒険者としてもやっていけるだろうが、刹那的な生き方を改めない限り、長期的には向いていないだろう。
言うとシアは食べれる野草の知識なら絶対に負けないから、どんな状況でも生き残れるわたしの方が素養が高いなどと謎の反論。生存戦略でいうならより長期的にかつ戦略的に判断できる俺の方が上だと更に反論。
俺たちがギャーギャー言い合っている間も、リースは驚きの表情を崩さないでいた。
「――リース、どうした?」
流石に気になって声を掛ける。
「……これは、ガロの厄種です。今朝、七階梯の討伐隊が向かいました……」
「こいつが、厄種……? 確かなことなのか?」
「はい。王冠に似た真紅のトサカと、純白の羽毛。そして恐らく、通常のガロよりも巨体だったと思いますが」
「そうね。倍とはいかないまでも、かなり大きかったわ」
水を向けられたシアが応える。確かに、俺の身長を頭三つ分ほど超えていた。
「本当に、お二人が倒したのですか?」
「わたしは集まって来ていた通常種を担当して、ネーヴがこっちのキングを倒したわ」
「……疑うわけではないのですが、状況を教えてもらえますか?」
リースは俺たちが厄種の頭をどうにかして手に入れたものである、という可能性を考慮しているのかもしれない。
今までの話から厄種の討伐には真に実力の認められた者を討伐隊として編成し、狩りに向かわせることは分かっている。ならばこの討伐の証は、彼等討伐隊と同等の実力を持っていることの証明に他ならない。名声や金を得るためにこの首を利用することだって考えられる。
――だが、後ろ暗いところのない俺たちは隠す理由が全くない。
首のことも、元々利用するつもりもなかった。ただ俺個人としては、生活に充てられる資金は多いに越したこともない。首一つで組合内の評価が上がるのであれば、歓迎しよう。
結果、詳細な状況をリースに話すことにした。一応、シアが雷撃系の魔法を使っていたことは本人に確認を取ってから伝えたが、要らぬ心配だったようだ。重力系統の話もしていたし、シアはリースならと、あっさり許可を出す。
「……シアさんがとてつも無く規格外なのはよく分かりました……」
「やはり、リースから見てもそうなるのな」
「そうですよ……。さっきも言ったので信憑性が落ちちゃうかもしれないですけど、もう一度言います。私は、シアさんのようなヒトに、出会ったことは、ありません」
わざわざ言葉を区切りながら、強く言い放った。リースがいったい何歳なのかは知れないが、俺たちよりも確実に多くの時を重ねているのはわかる。
「ふふふー! もっと褒めてもいいのよ!」
「いや、おまえ強すぎて引かれてるぞ」
「なんでよ!?」
心外だとばかりにシアが叫ぶが、どう考えても自業自得だ。魔王がヒト族を滅ぼしに来たと言われても信じる者がいそうなくらいには、常識外に強大な力を持っている。
「あまり過去を詮索するのは好きではありませんから聞きませんが……。ともかく、シアさんはレゾンでも五本の指に入るほどの実力者です。レゾンで五本の指ということは、王国では十本指くらいですね。明日にでも討伐系の十階梯として認められてもおかしくありません」
「凄いやつと話してるんだな、俺たち」
空腹過ぎて行き倒れみたいになってた、ある意味で凄いやつでもあるのだがな。
「ネーヴの言葉にはなんだか真剣味が感じられないわね」
「真剣じゃないからな。それに深刻に受け取って他人行儀にされるのが嬉しいわけでもないだろう」
「……まあね」
あっさり納得する。
シアは他人との距離がやけに近い。俺やグレイブをいきなり渾名で呼んだり、リースに『ちゃん』付けだったり。人が持つ距離感を容易に踏み越えてくる。
――あるいはシアにシアの孤独があり、それを避けたいがための行動なのか。こう見えて、酷く寂しがり屋なのかもしれない。……いや、これは考えすぎだな。俺の魔眼も他人の内面までは見透せないし、詮索すべきでもない。
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