2章-2節 氷雪士のステータス②
「ま、いいよ。お互い、情報交換といこう」
「ええ。――さてネーヴ、まさか口で伝えようなんて、思ってないわよね?」
悪戯っぽい笑み。あるいは、試すような。
「さっきシア先生から講義を受けたばかりだからな。流石に考えるさ」
想像する。俺のスキルをシアに正確に一瞬で伝えるためにどうするべきか。
答えはすぐに出た。
「シア、手を」
互いの魔力を繋ぎ、ステータスの情報を流せば良い。魔法としての「ステータス」はそんなこともできるよう構築されているようだ。誰が編み出した魔法かは知らないが、随分便利なものである。
「はい、上出来ね」
差し出されたしなやかな右手を握り込む。今気づいたが、シアの爪は蒼く塗られていた。まるで夏の夜空のような深い蒼の中、星の瞬きの如く銀の光が輝いている。
「どうしたの?」
「――いや。『繋ぐ』ぞ」
返事を待たずに、シアの魔力に接続。俺のスキル情報をシアに渡した。代わりにシアのスキル目録が流れ込んでくる。
認識はやはり一瞬だった。
「なん、だ、これ……複数系統の魔導士系スキルが高いレベルで……」
そうして、俺は戦慄していた。スキルレベルという概念を認識できた今、その数字の意味も自ずと分かってしまう。
地命系魔法Lv.4
水幻系魔法Lv.7
炎耀系魔法Lv.7
雷嵐系魔法Lv.9
氷雪系魔法Lv.2
重力系魔法Lv.9
――……
魔法系統だけを見ても、殆どが複合魔法系統と呼ばれる魔導の極み。その上スキルレベルが7を超えているものが半数以上であり、シア一人で国家の一軍に匹敵するとさえ思えた。
驚くべきことに、これ以外にも戦闘系のスキルが数え切れないほど存在しているのだ。さすがは黄昏を招く者。目の前にいる魔族がヒト族に仇なす存在でなくて良かったと、心から思う。
そんなシアに対して、俺のスキルはというと――
氷雪系魔法Lv.5
剣術Lv.5
狩術Lv.5
弓術Lv.5
投擲術Lv.5
民族料理(霊峰)Lv.2
氷雪の魔眼Lv.2
鑑定の魔眼Lv.1
望遠視の魔眼
魔力視の魔眼
俯瞰視の魔眼
看破の魔眼
注視の魔眼
古代語理解Lv.3
生存本能
魔導領域Lv.2
これが全てだ。
唯一、氷雪系だけはシアに勝っているものの、俺が〈氷雪士〉であるのと、氷雪系が最弱に分類されるように、シアは全く鍛えていないのだろう。
剣術や弓術、投擲術は子どもの頃から父や祖父からみっちり教わったし、生存本能や料理については山での生活によるものに違いない。マリアーヌに名付けられた【魔導領域】もしっかり記載されていた。実は既知のスキルなのかもしれない。
「ネーヴ、あなた……」
シアの声で、自分の裡に向いていた意識を戻す。どこか驚くような声は、俺の最弱さを哀れんでいるのか。
「別に笑ってくれてもいい。俺はこれで食っていくしかないんだ」
「なに不貞腐れてるのよ。あなたは戦闘系のスキルが高い次元でまとまっているから、笑うなんてことはないわ。このまま伸ばしていけば、戦闘能力に関しては間違いなく達人級になれるわよ」
励ますように言われると、そうなれる気がしてくるから不思議なものだ。調子に乗らないよう、お世辞として受け取っておこう。
「なんだか納得してないような顔ね。……まぁいいわ。それより驚いたのは生存本能よ。何これ、普通発現しないわよ。どんな生き方してきたの」
「どんなと言われても……」
生存本能――意識してみると、『生存に直接関わる行動・能力に上昇補正がかかり、危機回避能力が高まる』という二つの効果が説明される。ステータス魔法の便利さには頭が下がる。
ただ、俺としては効果を実感できない。積極的に使えるスキルというよりはそういう星の下に生まれた――あるいは辿り着いたというだけだ。
「……生き方で、スキルの修得が左右されるのか?」
「何当たり前のことを聞いてるのよ。あなたの剣術や弓術だって、一生懸命鍛えたからスキルとして発現してるんじゃない。それと同じよ。例えば、生命の危機に瀕してそれでも生きようと足掻いたなら、スキルが発現することだってあるわ」
「なるほど、それなら――」
両親が他界してからレゾンに辿り着くまでの数年間、毎日が生存競争だった。山の獣を相手に罠を張り、ジッと耐え、互いに生命を削りあってきた。
時にはこのガロキングを軽く凌駕するような『獅子』から命からがら逃げ切ったこともあった。
「……なにそれ、壮絶ね。どんな人外魔境よ」
「ちょっと険しいだけの普通の山だと思うんだけどな」
「そんなわけないじゃない……。まぁいいわ、だからレベルもやけに高いのね」
レベル136が、レベル61を高いと言っても説得力がない。倍以上違うじゃないか。――俺の表情から疑問を読み取ったのか、シアは続ける。
「正直言って、わたしは特別よ。冒険者組合で、討伐系に限って言えば、最強の十階梯に違いないわね」
「俺たちはまだ一階梯だがな」
「水を差さない! いい? 信じられないけど、あなたはまだ十五歳。これからどんどん伸びていく筈よ。――優秀な師匠さえいればね」
にんまりと、得意満面。腕を組み、これでもかとふんぞり返っている。少々腹の立つ姿だ。
「優秀な師匠に心当たりがあるのか?」
「むっ。あるわよ、ありまくるわ」
「ありまくるってなんだよ……。まさか複数人いるのか?」
「いないわよ! もう、察しが悪いわね! わたしが! 師匠になってあげるって! 言ってるの!」
察してるよ、察しが悪いな。
岩壁に反射して響く大声に顔を顰める。
「……なによ、魔族が師匠じゃ嫌なの?」
「そうじゃない。魔族なんて俺から見たら角の生えた同じ人間だ」
「じゃあそのしかめっ面はなに?」
これは生まれつきか、もしくはおまえの大声のせいだ、などとは言えず。
「俺は、シアとは仲間でいたい。師匠と弟子の関係じゃ、どこかでシアへの甘えが出ると思う。そんな甘えを自分に許したら、それは当たり前になる。それは、嫌だ。俺は、シアとは対等でいたい。だから、仲間として俺を鍛えてくれ」
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