2章-2節 氷雪士のステータス①
しかし、こいつは何なんだろうか。
胴体部分はズタズタにされて凍りつき、頭に氷刃が突き立ったガロの死体を眺めながら考えてみる。
「噂には聞いていたが、魔物というのはこんなにも強いものなのか」
全力を尽くし、新たな魔法行使で意表を突いたところで、ようやく勝てた。正直、疲労でしばらくは動けそうにない。
「……まさか。これは恐らくガロの上位種よ。他は冠状のトサカを持っていなかったし、羽毛も黄味がかっていたわ。対してこいつは、王冠に、純白の羽毛。ただの群れのリーダーかと思ったけれど、それにしては異常な強さだったわけだし、もしかしたら王様かもしれないわね」
「つまり、ガロキングか?」
「そうね。支援魔法もそれっぽくなかった? 臣下と王が相互に支え合い力を増す、なんて見方もできるわ」
「言われてみればそうだな」
強敵だった。絞り出した魔力のせいなのか、未だに頭が軋んでいる。新しい魔法を使った時は、やはり激しい頭痛に襲われる。
「こっちは大したことなかったけれど、ネーヴにとってはかなりの強敵だったから、レベルも上がったんじゃない?」
「……ああ、レベル、か。そういうのがあるって聞いたことはあるな」
そう答えると、シアは顔を顰めた。そして何やら思案する。
「――ねぇ、ネーヴ。あなた、自分のステータスって見たことある?」
「いや、ないな。どうやって見るんだ?」
「うわぁ……本当に知らないのね……。うわー……。このご時世にそんな人がいるなんて、ある種貴重だわ。ここの地図にだって、『推奨レベル15』って書いてあったでしょう?」
「ああ。だが、グレイブが勧めるくらいだから、別にいいだろうと思っていた」
「あなた、なんでそんな肝心なところが抜けてるのよ……」
爺さんのレベルという指標は当てにならないという教えのせいだろうな。
呆れたような、物珍しいような、そんな表情を見ながら俺自身の原因を考察する。実際困ったこともなかったわけだし。
しかし、シアはすぐに教師の顔を作った。
「いい? ステータスは自分自身を省みるための基本の魔法よ。これはヒト族社会では近年になって発見されたというけれど、神託を受けた人なら必ず使えるとも言われているわ。つまり神託とセットの概念なの」
「ああ、もちろんそれは聞いたことがあるが、確認方法が分からなければ、な」
「普通は周りの人か、教会関係者が教えてくれると思うけれど……」
周りに人なんていなかった。村には俺一人だったのだから。ジョブとスキルは授かったときに脳に浮かんだイメージで認識出来たが、それ以外の情報は自分で確認しろということだったのだろう。
シアには可哀想な者を見る目を向けられてしまう。孤独ではあったが、寂しくはなかったのだからやめてくれ。
「この魔法は特別で、別にステータス! とか、唱えなくてもいいのよ。だけど魔導に於いて想像出来ないものは即ち認識出来ないものなの。常に自分と向き合っていたって、これに関しては、『ステータスを確認できる、できたらいいな』って考えないと発現しないわ」
求めるものに実力が足りていれば発現する。これが魔導の基礎よ、と指を立てて講義を締める。
――シアの言葉に、俺自身思うところはあった。それは、俺の【魔眼】だ。この神託スキル、妙に便利だと感じていたのだが、視覚を補助する様々なスキルが発現し、戦闘においては欠かせないものになっている。それは、俺がそうあってほしいと願った機能が派生スキルとして発現しているのだろう。
「改めて、ステータスを確認してみなさい。どんな風に情報が出るかも、あなた次第よ」
「……わかった」
胸中で、ステータスと唱える。
脳裏に浮かんだのは、レベル、神託ジョブ、神託スキル、そして習得したスキルの情報だ。元より脳内で展開しているからか、把握は一瞬で済んだ。
「どう? どーぉ?」
興味があるのか、シアの蒼玉の瞳が覗き込んでくる。
「レベルと、スキル――神託ジョブと神託スキルから派生したスキルとか元々持っていたらしいスキルが把握できた。今自分に何ができるのか、改めて分かったよ。ありがとう、シア」
「そう、大体そんなものよね。もっと細かく意識すれば情報を細分化できるけれど、今はいいわ。ひとまず、良かったわね」
ニコニコと、嬉しそうに頷く。不肖の弟子が成長したことを喜ぶ師匠のように見えてしまうのは、俺の心持ちのせいか、それともシアの表情のせいか。
「まぁ実のところレベルは生まれてからずっと積み重なっているし、生きていれば勝手に上がるから殆ど飾りなのよね。あくまでも指標でしかないからあまり使えるものではないと、わたしは思ってる。レベルアップのボーナスだっておまけみたいなものよ。でもね、スキルレベルは違うわ」
確認できた俺のレベルは61。地図に書かれていた。推奨レベルの四倍以上あるのに、あのガロ相手にはだいぶ苦戦した。なるほど、やはり役に立たない指標だ。
「だから、ネーヴが良かったらスキルを教えてくれない? 秘密は守るし、もちろん、わたしも教えるわ」
パーティメンバーの実力を把握するのは大事でしょうと、シア。
しかし俺にはわかる。この女にあるのは単純な興味からの野次馬根性だ。顔が知りたくて堪らないと語っている。
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