第四話
要の実家は山の手にある。敷地面積が三千坪の豪邸だ。人工の池には錦鯉。自動車の車庫や土蔵もある。それに、何人もの女中や下男や番頭が暮らしており、いわゆる大所帯だった。
大学生を卒業した後、要は実家を出た。以後、下町の小さな一軒家で暮らしている。
女中のキヨは七十歳になろうとしていた。使用人としては、かなりの高齢と言えるだろう。
キヨは父の乳母として雇われた女性だ。伊集院家で勤めあげた後、引退したのだが、日露戦争で一人息子を失い、住む場所がないので、要はキヨをここに住まわせている。
「あらあら、何て美しいお嬢様でしょうか。やっと、坊ちゃまが結婚を決意してくださったのですね」
「キヨさん。オレと桜子さんは、まだ結婚はしてないよ」
要が、そっとたしなめている。
そうなのだ。何しろ、桜子の父親の富三郎はああいう形で亡くなった。慶事は喪が明けてからの事になる。正式に結婚するのは一年後。今の桜子は許嫁という立場でここにいる。
どっちにしても、桜子にとっては同じ事だ。要のことは旦那様と呼べる幸せに胸が一杯だった。
「よろしくお願いします」
「ここが桜子様の寝室でございますよ」
一階の奥の間が与えられている。ちなみに、キヨは玄関や階段からも近い部屋に暮らしている。
それにしても、葛籠一つとは。
キヨは桜子が持参した荷物の少なさに驚きを隠せないようである。
一枚だけ、晴れ着と呼べるものを持っているけれど、それ以外はボロボロなのだ。そのことに、要も気付いていたけれど、要の会社の経営は行き詰っている。父親に言えば、何でも援助してくれる事は分かっているけれど、あんな男に頼るぐらいなら死んだ方がマシというものだ。
要は、少し遠慮がちに申し出た。
「もし良ければ、オレの母親の着物を受け取ってくれないだろうか」
「ありがとうございます。要様」
愛する人からもらえる物は何でも有難い。
桜子は、良き妻になりたい。だから、その日、お夕食を作ろうとしたのだが、キヨに止められてしまった。
「いえいえ、いけません。奥様の手が荒れてしまいます」
「いいんです。わたし、料理は苦手だけど、お米を炊くのだけは得意なんですよ。お手伝いをいたしますわ」
桜子は確かに料理は苦手だ。ジャガイモを短冊切りにしようとして自分の指を切っている。
西園寺家では、掃除と洗濯をやらされていたのである。今思うと、冬場の洗濯は辛かった。
しかし、前世、自衛隊の需品整備工場で洗濯の仕事をしていた事もあり、汚れを落とすのは得意だ。
血の汚れ、泥汚れ。ドンと来い。
「桜子様……。要様のお洋服のアイロンを頼んでもよろしいでしょうか」
「もちろんです。任せて下さいな。アイロンは得意でございます」
丁寧にアイロンをかける横顔には喜びが溢れている。
桜子はキヨが思う以上に気立てのいい娘であった。
「キヨさん。わたし、お豆腐とネギを買いに行ってまいります」
足腰が弱っているキヨにしてみれば、買い物をしてもらえるだけで有難い。
この時代の娘としては身長が高いので、小柄なキヨの手が届かないところの掃除もやってくれる。桜子は薪割りが上手い。しかも、スピーディーなのには驚かされる。
「桜子様……。なぜ、そんなに薪割りがお上手なのですか」
キヨの問いに対して桜子は快活に答えた。
「実家で雑務をこなしておりましたから慣れているのですわ。鶏小屋の掃除やお便所の掃除も得意ですわ。スズメバチの巣の駆除もわたしの担当でございます」
「えっ……」
キヨは何と答えたらいいのか迷った。
名家のお嬢様だが、家族から虐げられている事は要から聞いて知っている。辛い過去もカラッと話す桜子に対してキヨは好感を抱いたのである。
これまで要に近寄ってきた女は星の数ほどいたけれど、みんな、見栄っ張りで高慢で使用人の事を腹の中で見下していたのだが、桜子はそういう厭らしさがない。
それに何より、桜子の瞳には要への純粋な憧れが透明な泉のように溢れている。
キヨは思った。
(桜子様は、一途な犬みたいな瞳で坊ちゃまを見つめていますわね。昔、キヨの兄が肥溜めに落ちて溺れそうになった子犬を救ったことがありましたのよ)
その後、子犬は兄に飼われたのだが、とにかく兄への忠誠心に溢れていた。キヨの兄が熊に襲われた時、熊と闘った。
キャインッ。熊に引っかかれて大怪我をして死んでしまったが、おかげで兄は助かったのだ。あの犬は、確か秋田犬の血の混じった雑種だったように記憶している。
(桜子様も、どこぞの遊廓に売られてもおかしくなかったのに、こうしてお嫁さんになれると分かり、安心されたのですね。坊ちゃまに恩義を感じておいでなのですね)
しかし、それにしても、要の態度は妙なのだ。桜子に礼儀正しく接しているのだが、それでいて、よそよそしい。冷たいというのではない。何というか、腫れ物に触るかのようだ。
「おはようございます」
朝、洗面所で桜子とすれ違った時など、要は、ほとんど目を合わせようとしない。
朝、桜子は要と共にご飯をいただく。
要は不愛想というのとは少し違う。自分自身も、桜子をどう扱うべきなのか悩んでいるところなのだ。それでも、桜子はニコニコしている。
夕餉に関しては要は外で済ませている。仕事が深夜にまで及ぶこともある。桜子は、口数が少ない事に対して特に疑問を感じていないようである。なぜなら、桜子の脳内ではこういう事になっているからだ。
(ラブストーリーにはテンプレートがあるわ。最初は、ダーリンはヒロインを無視するのよ。作ったご飯も食べて下さらないぐらいが、ちょうどいいのよ。おまえなんかと結婚したくないとか、そういうふうにツンツンしていたのに、途中からデレに変わるのが醍醐味だわぁ。ふふ。いつ、甘々のデレに変わるのかしら~)
洗濯板で要の白いふんどしを洗いながらも口元がにやけてしまう。
外出する時は百パーセント洋装の要だったが自宅では和服なのだ。
(今日は天気がいいから、お布団も干しましょう)
腕力のないキヨは縁側に布団を置いて干していたけれど、桜子は違う。おりゃーーと、肩に抱えて階段を上がり、布団を一階の屋根瓦に敷くようにして干した。しかも、自分とキヨと要の三人分だ。
二階に六畳の部屋が二室あり、奥が書庫、手前が要の寝室なのだ。
クンクンッ。
要の枕に鼻先をこすりつけると、何とも素敵な匂いがした。
何て穏やかで満ち足りているのかしら。
そんなふうに桜子が家事に勤しんでいた頃。
☆
パリンッ。
瑠璃色のガラスが砕け散る音が響いた。
ステンドガラスが美しい豪華絢爛な洋館で暮らす令嬢が、江戸切子のグラスをマントルピースに叩きつけたのだ。
二十歳の誕生日を目前に控えている弓削絹代はワナワナと怒りに震えている。
「なんですってーーー。要様が婚約したですってーーー」
実は、二年前、要と絹代の間にお見合いの話が持ち上がったが、要は、仕事が忙しくて結婚など考えられないと仲人に告げて断っている。その後、要は何回かお見合いを勧められたけれども、すべて断っている。
絹代の父は、愛媛の造船業界の元締め的な存在だ。商船、軍艦、漁船、すべての船の製造に父と母の一族が関わってきた。日本だけでなく、他国にも船を貸し出しており、絹代を嫁に欲しいと願う男は星の数ほどいる。
絹代には兄が二人いて、三姉妹の末っ子である。上の二人の姉は財閥に嫁いでいる。そろそろ、おまえも結婚しなさいと父親からは急かされている。
実は、絹代は女学校に通っていた頃、要に一目惚れをしていた。要が学校帰りに通いそうなミルクホールでホットミルクを飲みながら、要を待ち伏せしていた事もある。
要の相手について絹代は知りたい。新聞記者の使い走りをしている男に金を渡して調べさせたところ、こんな答えが返ってきた。
『借金の形として、万次郎様に売られようとしていた女を要様が拾ったようです』
何という事なのだ。優しい要は貧しい女に同情したようである。
後日、財界のパーティーが開かれた。絹代の父のように何百年も前から稼業を繁栄させている者もいれば、日露戦争に便乗して大儲けをして財界に食い込んできた者もいる。
要の父の万次郎は江戸時代から高利貸をしてきたので、各方面にも顔が利く。絹代の父にとっても、要の父は気の合う親友である。
その夜、絹代は親し気に要の父の万次郎に近寄った。
「おじさま、ごきげんよう」
絹代は媚びるように万次郎を見つめていた。この人を味方につけたいと思っているからだ。
一方、万次郎も弓削絹代には一目置いている。
絹代は、何気なく要の婚約者について尋ねる。すると、万次郎はどこか不満そうに漏らしたのだ。
「あの娘はどうも気に入らん」
「あら、どうしてですの?」
「一文無しで、おまけに、どうも、生娘ではないようなのだ。後から、わしも知って愕然としておる。息子に相応しくないのだよ。その事を要に言ったのだか、あいつは、そんな噂など気にしないと言い放ったのだ」
万次郎はしつこいほど息子に言ったのである。
『なぜ、あんな穢れた娘と結婚するのだ』
「彼女を侮辱するのはやめて下さい。どこも穢れておりません』
どうやら、息子は毒婦に騙されているようだ。
「西園寺桜子。あの娘は清楚なフリをするのが上手いようだな。わしも、騙されるところであった」
忌々しそうに万次郎は言う。
「今にも泣き出しそうな顔をして男を惑わすのだよ。そういう女に息子の将来を壊されたくないのだ。ついでに言うと、浮き沈みの激しい貿易など辞めてわしの仕事を継いでもらいたいと思っているのだよ。はぁー。まったく、要ときたら、親の言うことを無視しおって」
絹代は眉を顰めた。絹代としては仕事の事はどうでもいい。そんなことより、西園寺桜子という毒婦に腹が立つ。
誰かに襲われて傷物になった娘と要様が結婚するですってーーーーー。そのようなことがあっていい訳がないわよーー。
一方、要の父の万次郎は心の中で憂いていた。あの娘には何かが憑りついている。あんな娘は息子には相応しくない。
「絹代さん。あなたのような淑女こそが息子に相応しいのだが……。息子の目を覚まさせてやってくれないか。幸い、まだ結婚はしておらんのだ」
許嫁という形で家に住んでいても、まだ、現段階では他人である。破談した後、あの娘をどこかのやもめ男にあてがってしまえばいい。万次郎の思惑と絹代の願望は一致していた。
「おじ様、わたくしに任せて下さいな。きっと、二人の仲を引き裂いてみせますわ」
絹代の中で。メラメラとした闘志が湧き上がっていたのである。
さっそく、絹代は裏社会の人間に命じたのだ。
『買い物に出かけた桜子を、どこぞの路地に引き込んで凌辱して人目につく場所で晒しものにしなさい』
さすがに、そうなれば要も桜子との結婚を辞めるだろう。
☆
午後、牛鍋の材料を買い終えた桜子は背後に張り付く視線を感じ取っていた。
やばいぞ。尾行されている。
前世、金メダリストとして有名だった桜子はマスコミから追われる事に慣れている。
誰だか知らないが家まで来られるとやっかいだ。
桜子は小走りで路地を通り抜けていく。タタッ。タタタタッ。
男は一定の距離を保ったままついてくる。
人目があるので、一応、令嬢の桜子はバタバタと走れない。
もどかしい気持ちで桜子は神社の境内へと飛び込んでいく。そこは無人の神社で社務所などもない。
追う側のやくざな男はニヤリと笑う。ちょうどいい。寂れた神社で桜子を押し倒すつもりだったのだ。
しかし、鎮守の森の奥深くまで来たところで桜子を見失う。
「どこに行きやがった?」
辺りを見渡すようにして目を凝らすが、どこにも見当たらない。クソッと舌打ちすると男は立ち去った。この時、桜子は樹齢千年の御神木の枝の上にいた。
木登りは得意である。
(物盗りかしら……)
今日は、要からいただいた母上の着物を着ている。やはり、少しでもいい身なりをすると狙われてしまうようだ。気を付けなければならないと思いながら、スタッと地面に着地する。
すると、翌日も、桜子は何者かに尾行された。もちろん、桜子は用心深く逃げた。尾行をまいた。
「ちきしょう。どこかに消えた。あのオナゴは忍者なのか……」
今回は、土塀を乗り越えて人様の家の庭に入ったのだ。
まさか、桜子が、猛然と着物の裾をたくりあげて、屋根付きの塀をのぼるなどヤクザも予想していないようだ。
そして、その次の日も、そいつは桜子を狙った。桜子は、怯えたように何度も振り返りながら急ぎ足で逃げようとする。しかし、閑静な住宅街を抜けた先にある空き地の前で、そいつに、羽交い絞めにされてしまうのだ。
「な、何をなさいますの」
恐怖に顔を引き攣らせていると、そこに、おまわりさんが笛を吹きながらやってきた。
「おい、貴様、何をしている」
おまわりさんは一人ではなかった。二人がかりで、桜子を襲ったヤクザを捕獲してくれた。
実は、桜子は巡回しているおまわりさんにストーカーの事を打ち明けていたのである。今回は、こうやって現行犯逮捕してもらう為に、ここまで誘導したのである。
別に、あんな男、投げ飛ばしてやってもいいのだが、それでは、お嬢様としての設定が崩れてしまうので、おまわりさんの手を借りた。
「おそろしゅうございました」
桜子クラスの美人は帝都でも滅多にいない。
「本官は市民の安全を守るのが仕事であります。お役に立てて何よりであります」
ピッと敬礼されたものだから、前世の習性で桜子も挙手による敬礼をしそうになるが、ぐっとこらえた。
自衛官は帽子をかぶっていない時には挙手の敬礼はしちゃいけない。
いや、そういう問題ではないな……。
異世界のオナゴの作法を守らねばなるまい。
「ありがとうございます」
桜子は慎ましく手を膝に添えたまま深々と頭を下げたのだった。
ゴキブリのようにしつこいストーカーを退治できて清々したと思いながら帰宅すると、珍しく、要の元に客人が訪れていた。
キヨの話によると、帝大で共に経済について学んだ学友だという。
弓削鴎外は絹代の従兄だ。要と同じく英語に堪能な鴎外は外務省で働いている。
外交官として欧州を行き来する彼と要が出会うのは、実に、二年ぶりのことである。
「そうか。石川はやはり亡くなったのか」
結核は死の病だという事は、鴎外も分かっていた事である。鴎外は、キヨが淹れてくれた日本茶で喉を潤した後、本題に入った。実は、従妹の絹代から頼まれてここに来ている。
「噂を聞いた。おまえ、婚約をしたらしいな。一体、どんな人なんだ」
「桜の花のように美しい人だよ」
「その女性は借金の形として売られそうになっていたそうじゃないか。なんで興味を持つんだ」
帝大で同じ講義を受けていた頃、要は、どのような女からの誘惑にもなびくことなどなかった。
清廉潔白で友達思いで成績も優秀。どこにも欠点など見当たらない。もし、あるとしたなら、女性に愛想がないことぐらいである。
しかし、そんな要が結婚すると聞いて、鴎外はいてもたってもいられなくなっていた。絹代に頼まれて来たという体裁を保っているが、本当は自分が知りたいのだ。
「その娘さんについて、僕も色々と知っている。どうやら、その娘は傷物のようだね」
要はビクッと眉を揺らす。
鴎外は他の人達とは違う。桜子を貶めたいのではない。
「もしかして、君は、同情と愛情を混濁しているんじゃないかって僕は危惧しているんだよ。君は、幼少期、翼の折れた鳩やしっぽを切られた猫を飼っていたからね。今回も、おそらくそうではないのかい」
鴎外は、そんな優しい要のことが好きだった。実は、ゲイなのだ。要もそれは何となく気付いているが知らないフリをしている。鴎外は、そんな要を思って語っている。
「結婚というものは女性にとっても大切なものだよ。その女性も行くあてがないので、仕方なく、おまえと結婚したのかもしれないよ」
「ああ、そうかもしれないな」
要の心にはザラリとしたものが沈殿している。
鴎外は言った。
「その女性が不幸だから娶る気になったんだな」
「……」
「おまえの悪い癖だぞ。守ってあげなければと思う気持ちは分かるけれど、結婚相手は慎重に選ぶべきだ。将来、会社を大きくするには資金が必要だ。資産家の令嬢と結婚するべきだと思うぞ」
そう言うと、鴎外は要の手に自分の手を添えた。
「桜子さんとやらを守りたいというのなら、僕が、彼女を妻にしてもいい。僕には反対する家族もいないよ」
鴎外の父、つまり、絹代の叔父は他界している。
「僕と結婚した方が桜子さんも楽だと思うぞ。僕が聞いたところによると、おまえの親父さんは絹代とおまえを結婚させるつもりのようだぞ」
そこで鴎外は問い詰めるようにして声を尖らせた。
「要は桜子さんとやらを愛しているのか?」
要は、どこかで困ったように言葉を漏らしていた。
「……自分でも、なぜ、こんな衝動的な行動をとったのか分からない。愛してるかどうかも分からない。ただ、放っておくと、彼女は壊れてしまうように見えた。彼女は傷ついた小鳥のような人だ。だから、ここに呼び寄せた」
その気持ちをなんと呼べばいいのかは要にも分からない。
鴎外は、どこか泣き笑いの表情で言う。
「相変わらず、不器用で頑固な奴だな。いいか、僕は、また明日、シンガポール行きの汽船に乗る。これから半年は帰って来ないだろう。おまえが、今の仕事を続けたいのならば、決して絹代を怒らせるな。いいな。約束だぞ」
「忠告、ありがとう」
親友同士が、そんな会話をしていたのだが……。
桜子は、応接室の扉の前で二人の話を聞いてしまったのだ。
『桜子さんとやらを愛しているのか?』
その問いに答えるところから盗み聞きしていたのである。自分の事が話題になっていたので聞かずにはいられなかった。何やら緊迫した空気である。お昼のメロドラマのワンシーンのようだ。
桜子は、買い物籠を抱きしめながら、要の言葉を反芻していった。
「彼女は壊れてしまうように見えた。彼女は傷ついた小鳥のような人だ。だから、ここに呼び寄せた』
これらの要の言葉をどう受け止めたらいいのだろう。
壊れてしまう……?
(やはり、伊勢海老を盗むような人間だから放置しては危ないと思ったのかしら。不良少女を保護するような気持ちなのかしら。ああ、怖くて確認できないわ)
それにしても、傷ついた小鳥のくだりがよく分からない。
いや、すっかり忘れていたけれど、自分は継母に売られそうになった不幸な少女だ。
やはり、要は、弱々しい娘が好きなのだろうか。
守ってあげたいと思う相手だからこそ、ここに招かれたのだろうか。
(という事は、あたしが実は金メダリストだなんて知られたら……。すっかり興味を無くすってこと?)
小鳥どころか、本来の桜子は猪を投げ飛ばすような猛者である。
ガクガク、ブルブル。
(要様に本当の姿を知られてはいけないんだわ)
愛されたい。絶対に嫌われたくない。
今日、ストーカーを自分で殴り飛ばさなくて正解だった。
桜子は、今後も、小鳥ちゃんのイメージを死守しなければならないと思ったのだった。




