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[不定期更新] 異世界デワ 、中村すずめはレベル999のメイドです  作者: 甘むら ひでアキ
第4章、第1部:EXレベルの暗殺者、アニー
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第38章:アニー、暗殺者。

 

 屋敷に平穏が訪れていた時間は――


 わずか三時間。


 それでも、この館にとっては奇跡的な記録だった。


 広いリビングでは、バッキーがソファに深く腰掛けながら本を読んでいた。

 珍しく静かな時間だった。


 ページをめくる音だけが、やけに心地よく響いている。


 リリスはその少し離れた場所で、大量の毛布に埋もれながら完全に眠りきっていた。


 もはや人類なのか布団なのか分からない。


 ヴェルザリアはキッチンで料理に挑戦していた。


「今日はちゃんと成功する気がするわ!」


 そう宣言した直後、


 ボンッ!!


 小規模な爆発音と共に黒煙が上がった。


「……あっ。」


 失敗だった。


 いつも通りである。


 エリスは窓際に座り、自分の腕を黙々と縫っていた。


 血が少し床に落ちる。


 だが本人はまるで気にしていない。


 完全に日常だった。


 廊下では、スズメが静かに掃除を続けていた。


 無駄のない動き。


 正確すぎる箒さばき。


 その後ろを、ルジアが壁に寄りかかるようにしながら静かについていく。


 護衛というより監視に近い。


 いつもの光景だった。


 屋敷は比較的平和だった。


 少なくとも――その瞬間までは。


 カラン――


 金属音。


 屋根の上から響いた、乾いた音。


 その瞬間。


 スズメの動きが止まる。


 ルジアも目を細めた。


 空気が変わる。


 冷たい。


 鋭い。


 肌を裂くような殺気。


 明確な“死”の気配。


 バッキーが異変に気づいた時には、もう遅かった。


「……あ、やば――」


 次の瞬間。


 シュィィィン!!


 窓ガラスを突き破り、一振りの短剣が飛来した。


 一直線。


 寸分の狂いもない軌道。


 それはスズメとルジアの間を通過し、背後の壁へ深々と突き刺さる。


 静寂。


 誰も動かない。


 短剣の柄には、一枚の紙が結び付けられていた。


 エリスが無言で近づき、それを読む。


「……『怪物メイドに死を』。」


 一拍置いて、


「……綺麗な字。」


「字を評価するな!!」


 バッキーの叫び声が屋敷に響いた。


 その直後。


 天井の上から、少女の声が落ちてくる。


「……あなたが、中村スズメ。」


 静かな声だった。


 だが、その声音には感情がほとんど存在しない。


 次の瞬間。


 黒い影が屋根から舞い降りる。


 音もなく。


 風のように。


 短い黒髪。


 血を思わせる赤い瞳。


 軽装の戦闘服。


 全身の至る場所に隠された無数の刃。


 着地音すら存在しなかった。


 まるで影。


 まるで死神。


 少女はゆっくり顔を上げる。


「私の名はアニー。」


 わずかな間。


 そして静かに続けた。


「EXランク暗殺者。」


 空気が凍りつく。


 キッチンからヴェルザリアがフライパン片手に顔を出した。


「……またスズメ狙いの変な女?」


 バッキーは額を押さえた。


「……もう恒例行事になってない?」


 アニーは他の誰にも目を向けない。


 ただ一直線にスズメだけを見つめていた。


 冷徹な視線。


 獲物を見る目。


「依頼を受けた。」


「大陸で最も危険なメイドを排除する。」


 ルジアが即座に剣へ手をかける。


 ――それが失敗だった。


 ドォン!!


 衝撃。


 視界からアニーが消える。


 次の瞬間には、彼女はルジアの背後に立っていた。


 短剣が首筋へ添えられている。


 速すぎた。


 誰も反応できない。


「邪魔しないで。」


 静かな声。


 だが、その一言だけで殺意が伝わる。


 バッキーの顔色が真っ青になる。


 リリスもようやく目を覚ました。


「……な、なに今の。」


 ヴェルザリアは逆に感心していた。


「へぇ……かなり速いわね。」


 エリスは首を傾げる。


「……血の匂いが濃い。」


 ルジアは首元の刃を気にする様子もなく、むしろ笑った。


 危険な笑みだった。


「……面白い。」


 その一方で。


 スズメだけが変わらず冷静だった。


 彼女の瞳が、静かにアニーを分析する。


 プロの暗殺者。


 高速戦闘型。


 致死攻撃特化。


 そして結論。


「……床が汚れます。」


 沈黙。


 アニーが初めて表情を崩した。


「……は?」


「室内戦闘は清掃効率を著しく低下させます。」


 真顔だった。


 完全に真面目だった。


 バッキーはその場に崩れ落ちる。


「暗殺を掃除の問題に変換するなよ……」


 アニーはゆっくり距離を取った。


 だが、その瞳には明確な困惑が浮かんでいる。


「……あなた、怖くないの?」


 スズメは少しだけ考える。


 脅威度を計測。


 戦闘能力を比較。


 被害予測を算出。


 そして結論。


「問題ありません。」


「……。」


「管理可能です。」


 静寂。


 アニーの眉がぴくりと動く。


 初めて。


 ほんの少しだけ感情が漏れた。


 苛立ち。


「……なら、理解させてあげる。」


 瞬間。


 彼女が消えた。


 無数の刃が空間を埋め尽くす。


 一瞬で数十本。


 死角から。


 天井から。


 床下から。


 全てが致命傷を狙っていた。


 リリスが目を見開く。


「うそでしょ……!」


 常人なら反応すらできない。


 だが。


 スズメは――


 ただ箒を動かした。


 それだけ。


 カカカカカカカッ!!


 火花が散る。


 全ての短剣が床へ叩き落とされた。


 完全防御。


 一切の無駄なし。


 静寂。


 アニーが固まる。


 赤い瞳がわずかに揺れた。


「……ありえない。」


 スズメは床に散らばった短剣を見る。


「金属ゴミが増えました。」


 そして。


 静かに一歩前へ出た。


 爆発的な速度もない。


 威圧感もない。


 なのに。


 気づけば。


 スズメはアニーの目の前に立っていた。


 アニーの反応は間に合わない。


 完全に。


 一瞬で。


 箒の先端が、彼女の額へ軽く触れる。


 それだけだった。


 だが。


 アニーの背筋を冷たい汗が流れる。


 理解してしまった。


 もしこのメイドが本気だったなら。


 自分は今、確実に死んでいた。


 スズメは小さく首を傾げる。


「降伏を推奨します。」


 感情のない声。


 怒りもない。


 優越感もない。


 ただ事実だけを述べている。


 それが逆に恐ろしかった。


 アニーの脚がわずかに震える。


 ルジアはそれを見逃さなかった。


 ヴェルザリアもニヤリと笑う。


 バッキーは頭を抱え始める。


「……あー、終わった。」


 リリスがゆっくり指を差した。


「……また落ちたね。」


 エリスが静かに頷く。


「……スズメ被害者の会、また増える。」


「その呼び方やめろ!!」


 アニーはしばらく無言だった。


 やがて。


 ゆっくりと武器を下ろす。


 それでもなお、視線だけはスズメから外せない。


 そして、小さな声で尋ねた。


「……あなた、本当に人間なの?」


 スズメは即答した。


「はい。」


 短い沈黙。


 そして。


「メイドです。」


 その瞬間。


 バッキーは床に倒れた。


 ヴェルザリアは腹を抱えて笑い始める。


 ルジアは深くため息をつき。


 そして――


 伝説のEXランク暗殺者アニーは、


 人生で初めて。


 本気でどう反応すればいいのか分からなくなっていた。


 つづく。


くそっ…やっと創作意欲が戻ってきたから、書けるぞ…

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