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[不定期更新] 異世界デワ 、中村すずめはレベル999のメイドです  作者: 甘むら ひでアキ
第3章、第1部:神剣の剣女 (戦いに飢えている)
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幕間④:ルジアに聞いてみよう


 その夜、ヴェルザリア邸の食卓は、妙に静まり返っていた。


 戦場帰りのような騒がしさはない。魔物の襲撃もない。爆発音もない。むしろ何も起きていないはずの夜だ。


 それなのに、この場には妙な緊張感が漂っていた。


 理由は単純だった。


 見慣れない人物が、普通に席に座っているからだ。


 ルジア。


 剣を極めたとされる、神域の剣士。


 彼女は礼儀正しく背筋を伸ばし、食器の位置すら乱さない完璧な姿勢で食卓に溶け込んでいた。


 だが、その「完璧さ」が逆に異様だった。


 バッキーは皿を持ったまま、ぼそりと呟く。


「……あいつが大人しいの、以前スズメに結婚申し込んだ時より嫌な予感するんだけど」


 即座にリリスが頷いた。


「うん。静かすぎるのは逆に怖い」


 ヴェルザリアはゆっくりと肉を噛みながら、目だけを細める。


「嵐の前の静けさってやつね。こういうのは大体、何か企んでる」


 レディ・アルシエルは優雅に紅茶を口に運びながらも、視線だけは鋭いままだった。


 スズメは無言で皿の位置を一ミリ単位で揃えている。


 それはもはや習慣というより、儀式に近い動きだった。


「配置、正常」


 誰に向けたわけでもなく、淡々と呟く。


 その場の全員が、同じ結論に至る。


「この空間、妙に整いすぎている」


 そのときだった。


 ルジアが、控えめに手を挙げた。


「一つ、質問をしてもよろしいでしょうか」


 一瞬、空気が止まる。


 バッキーが即答する。


「内容による」


「何によるのですか?」


「危険度」


 ヴェルザリアが無言で札を出す。


 そこには大きくこう書かれていた。


【高リスク】


 ルジアはそれを一瞥しただけで、軽く流した。


「では問題ありませんね」


 問題にしているのはそちらだ、と全員が思ったが口には出さない。


 ルジアの視線はスズメに向けられた。


「あなたは、掃除の優先順位をどのように決めていますか?」


 沈黙。


 スズメは少しだけ思考する。


 彼女の中で処理が始まる。


 優先度。被害範囲。効率。時間消費。


 やがて、結論だけが落ちる。


「最も環境に損害を与えるものから処理」


 ルジアはゆっくりと頷いた。


「なるほど」


 リリスが小声で呟く。


「今、絶対頭の中でメモしてる」


 ルジアは続ける。


「では、すべてが同時に誤っている場合は?」


 スズメは即答した。


「処理順序を最適化」


 再び沈黙。


 今度は長かった。


 バッキーは椅子の背もたれに体を預けたまま、天井を見上げる。


「それ人間の返答じゃないだろ」


 ヴェルザリアが肩をすくめる。


「作業用兵器が社会に適応した結果ね」


 ルジアはスズメを見つめたまま、少し首を傾げた。


「あなたは疲れないのですか?」


 スズメは考える。


 疲労の定義。身体負荷。精神消耗。


 結論だけが返る。


「未登録」


 空気が完全に止まった。


 リリスが頭を抱える。


「もう無理、ずっと寝たい」


 その様子を見て、ルジアはわずかに微笑んだ。


「興味深いですね」


 彼女は静かに水を一口飲む。


 その所作すら無駄がない。


「私の世界では、限界を超えるために訓練します」


 視線がスズメに戻る。


「ですがあなたは、そもそも限界という概念がないように見える」


 バッキーがぼそりと呟く。


「というか、あいつ仕事しかしてない」


 ルジアはその言葉を受けて、問いを投げる。


「それは幸福なのでしょうか?」


 その瞬間、食卓が完全に静止した。


 ヴェルザリアすら、手を止める。


 スズメは変わらず皿を整えている。


 内部処理が走る。


 非機能的質問。目的不明。優先度低。


 結論。


「任意回答」


 長い間の沈黙のあと、スズメは淡々と答えた。


「効率は継続性を可能にする」


 それだけだった。


 だがルジアは目を閉じ、静かに息を吐いた。


「……それが、あなたらしいですね」


 ヴェルザリアが眉をひそめる。


「今のどこに納得要素あったの?」


 ルジアは首を振る。


「納得ではありません。ただ理解です」


 空気は不思議なほど穏やかになっていた。


 先ほどまでの緊張が嘘のように、静かな均衡だけが残る。


 ルジアは肘を机につき、少しだけ遠くを見る。


「分かった気がします」


 バッキーが警戒した声を出す。


「今度は何が分かった」


 ルジアは微笑した。


「彼女は戦うために生きているのではない」


 少し間を置く。


「世界を整理するために戦っている」


 再び沈黙。


 ヴェルザリアの箸が手から落ちた。


「……それ、食卓で出す話じゃない」


 スズメはすでに皿洗いに移っている。


「作業進行中」


 結論。


「環境清掃完了」


 その夜、ルジアはそれ以上質問をしなかった。


 だが視線だけは、ずっとスズメを追っていた。


 まるで、理解不能な何かを見つけてしまった者のように。


 そしてそれは、彼女にとって初めての感覚だった。


 分類不能の存在。


 名付けられない静けさ。


 終わりのない秩序。




私は夜が好きです。これから「蟲師」を読みます。

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