第28章:奇妙なTalk (トーク)
庭はまだ「35秒の決闘」の余韻を引きずっていた。
芝生はところどころ黒く焼け焦げ、まるで雷に打たれたような痕が残っている。
木々には精密すぎるほど整った切断痕が走り、風が吹くたびに葉が不自然な角度で揺れた。
そして屋敷の外壁には、聖剣がまるで当然のように突き刺さったままになっていた。
静寂というより、戦闘の「後片付けが放棄された空間」だった。
バッキーは地面に仰向けで転がったまま動かない。
「……俺の正気、どこ行った」
誰に向けるでもない呟きが、妙に庭へ響いた。
リリスはというと、どこから持ってきたのか分からない水を一心不乱に飲んでいる。それはもはや水分補給ではなく精神の修復儀式に近かった。
ヴェルザリアは時折、思い出したように笑いを漏らしている。先ほどの光景がよほど面白かったらしい。
レディ・アルシエルは、いつも通り優雅に紅茶を口にしていた。
庭がどうなろうと彼女の動作は一切乱れない。
そして中心にいる二人。
ルジアは、まだスズメの手を握ったままだった。
スズメは完全に解析モードに入っている。
「婚姻申請 保留」
「社会的処理 未完了」
しばらく沈黙の後、結論が出る。
「後続判断を待機」
本人の中ではすでに処理が完結していた。
ルジアは深く息を吸い、まだ少し頬を赤くしたまま、それでも覚悟を決めたようにスズメを見た。
「……それじゃあ」
小さく首を傾ける。
「質問をしてもいい?」
スズメは即答した。
「可能」
間を置かず、さらに続ける。
「簡潔に」
バッキーがようやく頭を持ち上げた。
「……それ、絶対やばいやつだろ」
誰に聞かせるでもなく、予言のように呟く。
ルジアはスズメの手を少し強く握り直した。
「まず一つ目」
「あなたはいつも、ああいう行動をするの?」
「する」
即答だった。
「次。全部を綺麗にしているの?」
「する」
また即答。
ルジアは少し間を置く。
「どんなに……普通じゃない状況でも?」
スズメは一瞬考える。
「『普通』の定義が未登録」
短い沈黙の後。
「よって、する」
庭に静けさが落ちる。
バッキーが再び地面に沈んだ。
「……その回答は人間じゃねぇ」
リリスが小声で呟く。
「……怖いくらい一貫してる」
ルジアは小さく頷いた。
「なるほど……」
まるで履歴書を確認する面接官のようだった。
ヴェルザリアが横から囁く。
「今の、完全に採用評価の顔だったわね」
ルジアは続ける。
「二つ目」
「あなたは……負けたことがある?」
スズメは静止した。
今までで最も長い沈黙だった。
記憶を探るように、視線だけがわずかに揺れる。
「記録なし」
それだけ。
完全な静寂。
バッキーがもう一度倒れ込んだ。
「それ答えとして成立してねぇだろ……!」
リリスも目を細める。
「むしろ不安になるタイプの無敗よね……」
ルジアの口元に、わずかな笑みが浮かんだ。
恐れではなく、興味だった。
「三つ目」
彼女は少しだけ距離を詰める。
「あなたはいつも、そんなに言葉が少ないの?」
「そう」
「理由は?」
スズメはわずかに首を傾ける。
「言葉は清掃に不要」
空気が止まった。
ヴェルザリアが即座に言う。
「その哲学、危険物認定でいいと思う」
ルジアは数秒黙り込み、それからふっと息を吐いた。
そして手を離し、一歩下がる。
「……面白い」
小さく、しかし確かな声だった。
「とても面白い」
スズメは瞬きを一度だけする。
「追加質問は?」
「ある」
ルジアは自分の胸元に指を向けた。
「戦っているとき、何かを感じる?」
その瞬間、空気が変わった。
バッキーがゆっくり起き上がる。
リリスも表情を引き締める。
ヴェルザリアさえ、笑うのをやめた。
スズメはしばらく黙る。
長い沈黙の後。
「効率」
それだけだった。
完全な静寂。
ルジアは一度目を閉じ、そして小さく笑った。
「……完璧ね」
ヴェルザリアが呟く。
「今の、どこが気に入ったのよ」
バッキーが答える。
「もう分かんねぇよ……」
ルジアは再びスズメに向き直る。
最後の質問だった。
「もしあなたより強い存在が現れたら」
間を置く。
「それでも戦う?」
スズメは空を一度見上げた、そして戻す。
「清掃が必要なら」
それだけ、完全な沈黙。
ルジアは静かに息を吐き、そして笑った。
「……わかった」
彼女はスズメの手を完全に離した。
「全部、わかったわ」
ヴェルザリアが腕を組む。
「いや、何がわかったのよ」
ルジアは振り返り、皆を見渡した。
そして柔らかく微笑む。
「彼女は、簡単に結婚できる相手じゃない」
一拍置いて続ける。
「でも、一緒にいるべき相手」
バッキーが目を瞬かせる。
「……それって良いのか悪いのかどっちだ?」
リリスはため息をつく。
「もう判断できないわね」
ヴェルザリアは札を掲げた。
【社会的状況:極めて危険】
その頃、スズメは壁に刺さった聖剣を淡々と回収していた。
「対象物、返却完了」
結論はすでに出ている。
「会話終了」
そしてその日、聖剣の巫女は結婚に失敗した。
だが代わりに、もっと厄介なものを得た。
すべてを「清掃」として見る存在という、奇妙なライバルを。
異世界における作者の日記⁶
さて、私とヨハン、リズベス、リリヤ、アミの5人は、例のダンジョンに向けて準備を始めました。買い出しに行ったり、一緒に食事をしたり……(正直、また変な肉が出てこないか生きた心地がしませんでしたよ)。
しかし! ここで朗報です。ついに私の固有能力の一つである「森羅万象の召喚」が覚醒しました!
この力を使い、私は決死の覚悟で「5人分のチーズバーガー」を召喚することに成功したのです。やった、ついに勝ったぞ! ネズミでもカエルでもハトでもない、本物のジャンクフードの味……。異世界に来てから一番の感動でした。リリヤたちも目を丸くして食べていましたよ。
……と、ここまでは最高の展開だったんです。
腹ごしらえも済んで、さあダンジョンへ出発だ! と意気込んでいたはずなのですが。
なぜでしょうか。なぜ、私たち5人は今……『ホテル・ラブホスト』という名前の建物のドアの前に立っているのでしょうか!?!?
ちょっと待て、アミ! なんてことだ、あのサキュバスめ!!
ダンジョンの前に、俺たちをどこの「ダンジョン(隠れ家)」に連れ込もうとしているんだ!? 健全な作者を一体どうしようっていうんだ!!
ヨハン、助けてくれ! リリヤ、そんな顔でこっちを見るな!!
私の貞操と執筆スケジュールが、かつてないほどの未曾有の危機に直面しています。
もし、次のチャプターの更新が遅れたら……私はこの『ラブホスト』から出られなくなったと思ってください。
それでは、理性が残っていたらまた次回!!




