第2章: 7歳児 vs SSSランクの怪物(前編)
最初の異変は――静寂だった。
ただの静けさではない。
夕暮れ時に訪れるような、穏やかで優しい沈黙でもない。
もっと重い。
もっと深い。
まるで 空気そのものが、存在することをやめたかのような。
鳥は鳴かない。
風は吹かない。
いつもならしつこいほどに生命を主張してくる虫たちでさえ、影ひとつ残さず消えていた。
「……今日は、妙だな」
一人の村人が、ぽつりと呟いた。
視線の先には、空。
雲が垂れ込めている。
時間帯に似つかわしくないほど、異様に濃く、重たい色をしていた。
「お前も感じるか?」
「……ああ。なんというか……息がしづらい」
空気が、肺を拒んでいるような感覚。
家の中で
スズメは、ぴたりと動きを止めていた。
手には、まだ掃除用の布が握られている。
しかし、それ以上は一切動かない。
完全な静止。
「……」
ごく浅く、息を吸う。
分析。
空気は――重い。
淀んでいる。
不純。
そして、不快。
結論はすぐに出た。
不適切な環境。
「スズメ?」
台所から母の声が飛んでくる。
「掃除、止まってるけど?」
「はい」
即答だった。
「異常があります」
母は眉をひそめる。
「異常?」
問いを重ねようとした、その瞬間
勢いよく扉が叩き開けられた。
激しい音とともに、一人の男が中へ転がり込んでくる。
全身が土埃にまみれ、衣服は破れ、ところどころから血が滲んでいた。
呼吸は荒く、不規則で、今にも途切れそうだ。
「た、助けてくれ――!」
父がすぐに駆け寄る。
「何があった!?」
「逃げろ……全員……今すぐ……!」
声は震えていた。
恐怖に押し潰されそうな、か細い声。
「来るんだ……」
「何が来るんだ?」
男はゆっくりと顔を上げる。
その目は見開かれ、焦点が合っていない。
「化け物が……」
一瞬、時間が止まったような沈黙。
そして
「……SSSランクだ」
空気が、さらに重く沈む。
「そ、そんな……ありえない……」
「この辺りに出るはずが……」
男は咳き込み、赤黒い血を吐いた。
「もう二つの村が……壊滅した……誰も……止められなかった……」
「ギルドは……?」
誰かが震える声で問う。
「……全滅だ……完全に……」
再び、沈黙。
SSS。
それは軽々しく口にしていい言葉ではない。
それが意味するものは、ただ一つ。
災厄。
破滅。
対峙することすら許されない存在。
「避難だ!」
「今すぐに!」
家の中が一気に慌ただしくなる。
足音が重なり、物を掴む音が響き、焦りが空間を満たしていく。
「スズメ、こっちに来なさい!」
母がその手を掴む。
強く。
しかし、その指先は微かに震えていた。
「今すぐ出るわ」
スズメは母を見る。
それから 外へ視線を向けた。
避難。
高リスクに対する一般的対応。
抵抗はしない。
ただ、静かに歩き出した。
外に出ると、すでに村は混乱の渦中にあった。
人々が走る。
子どもが泣く。
叫び声があちこちから上がる。
「急げ!」
「街道へ!」
「後ろを見るな!」
恐怖が伝播し、秩序は崩壊していた。
スズメはそれらを、ただ観察する。
無言で。
環境は混乱状態。
ストレスレベルは極めて高い。
その視線が、ゆっくりと動く。
そして 地平線へと向けられた。
次の瞬間。
それを、見た。
巨大な何か。
遠くに立つ、歪んだ影。
その存在だけで空間が軋み、空気が捻じ曲がっている。
一歩、踏み出すごとに地面が震えた。
大気が押し潰され、光すら吸い込まれていく。
異常。
ただ危険という言葉では足りない。
存在そのものが 不適切。
空気はさらに重くなる。
呼吸が困難になるほどに。
何人かがその場に崩れ落ちた。
立っていられない者もいる。
声を上げることすらできない者も。
「み、見るな……!」
「走れ!止まるな!」
だが
無視できる存在ではなかった。
その圧力は、すべてを押し潰す。
スズメは、わずかに首を傾ける。
「……」
環境は極度に汚染されている。
結論。
介入が必要。
昨日ようやく『ウマ娘 プリティーダービー』を見終えました。いやぁ、熱かった。でも休む間もなく、今は『ソードアート・オンライン』にどっぷり浸かっています。ペースは自分でも驚くほど速くて、もう第1期の12話まで来ちゃいました。
ところで、ちょっと吐き出したいことがあるんです。
自分ではもっと……こう、冷静で硬派な人間だと思っていたんですよ。でも、ユイのせいで全部台無しです。彼女のせいで、自分の中に眠っていた自覚ゼロの父性本能が目覚めてしまいました。くそ。




