表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
異世界デワ 、中村すずめはレベル999のメイドです  作者: 天村 秀明
第2章、第2部:地獄編 -中間-
26/27

第23章:魂の串焼き

 心臓が脈打っていた。


 それは、まるで地獄そのものの鼓動のようだった。


 黒く炭化し、半ば石化した《火山の巨人》の死骸。その胸部の奥深くで、赤黒い心臓だけが不気味な熱を帯びながら動いている。


 ドクン


 一度。


 周囲に散らばっていた瓦礫が小さく震えた。


 ドクン


 二度。


 空気そのものが揺らぐ。


 焦げ臭い風が止まり、崩壊しかけていた地獄の街ですら静まり返った。


 まるで世界全体が、その“何か”を見守っているかのように。


 最初に後ずさったのはヴェルザリアだった。


「……それ、触るな」


 珍しく、本気で警戒している声だった。


 バッキーも即座に頷く。


「……言われなくても触りたくねぇよ」


 いつもなら軽口を叩く彼ですら、額に冷や汗を浮かべていた。


 レディ•アルシエルは細い目をさらに鋭くする。


「……まだ生きていますの?」


 誰も答えない。


 その代わり


 ドクンッ!!!


 轟音のような鼓動が響いた瞬間、大地全体が激しく揺れた。


 崩れかけていた塔が傾き、遠くで悲鳴が上がる。


 スズメだけは静かに心臓を見つめていた。


「残留物体を確認」


「高濃度霊子反応を検出」


 淡々とした機械的な声。


「結論」


「適切な処理が必要です」


 その直後だった。


 心臓が開いた。


 肉が裂ける音と共に、中央がゆっくりと左右へ割れていく。


 まるで巨大な口。


 次の瞬間。


 黒炎が噴き出した。


 轟ッ!!


 地獄の空へ向かって炎が吹き上がり、その中から大量の“何か”が飛び出してくる。


 数十


 いや。


 数百。


 赤黒い光を纏った小さな魂たちだった。


 人の顔。


 獣の形。


 歪んだ影。


 半透明の身体を燃やしながら、怨嗟の声を撒き散らして空を飛び回る。


「ああああああああああ——!!!」


 耳を裂く絶叫。


 それだけで建物の窓ガラスが砕け散った。


 バッキーが顔を引きつらせる。


「……俺、こういうの本当に嫌いなんだけど」


 レディ•アルシエルも杖を握り直し、真顔になる。


 ヴェルザリアは苦々しく呟いた。


「……火山霊魂か」


「巨人の中に閉じ込められていた魂たちよ」


 解放された魂は完全に暴走していた。


 建物へ激突し、爆発し、炎を撒き散らしていく。


「うわあああ!? また災害かよ!!」


「俺、さっき家に帰ったばっかなんだけど!?」


「店ぇぇぇぇ!!」


 地獄の住人たちが再び逃げ始める。


 遠くで屋台が吹き飛んだ。


 ヴェルザリアはこめかみを押さえた。


「……今日、長すぎない?」


 その時だった。


 一体の魂がバッキーへ突撃する。


「死ねェェェェ!!」


「ぎゃああああ!?」


 衝突寸前。


 スズメが片手で魂を掴んだ。


 空中で。


 まるで虫でも捕まえるかのように、あまりにも自然に。


 沈黙。


 魂は彼女の手の中で暴れ狂った。


 噛みつこうとし、炎を撒き散らし、必死に逃げようともがく。


 しかしスズメは無表情のまま観察している。


「極めて興奮状態」


「結論」


「鎮静化が必要です」


 そして、彼女はゆっくり周囲を見回した。


 視線が止まったのは近くの屋台。


 焼け焦げた悪魔の露店だった。


 そこには大量の串が並んでいる。


 焼き肉用なのか、魔獣用なのかは分からない。


 店主の悪魔が嫌な予感を覚えたように後退る。


「……おい」


「……なんでメイドが俺の串を見てる?」


 スズメは一本手に取った。


「一時的に使用します」


「……は?」


 次の瞬間。


 ブスッ。


 魂が串で貫かれた。


 完全な静寂。


 バッキーの口がゆっくり開く。


 レディ•アルシエルも固まっていた。


 ヴェルザリアは数回瞬きをする。


「……魂を串焼きにした?」


 小さな魂は串に刺さったまま、くるくる回転していた。


 すると不思議なことに


 荒れ狂っていた炎が弱まっていく。


 叫び声も消えた。


 暴走していた魂が、急速に大人しくなっていく。


 スズメは真剣に観察する。


「部分的安定化を確認」


「結論」


「有効な手段です」


 その瞬間。


 他の魂たちが一斉に襲いかかってきた。


 まるで赤黒い嵐。


 数百もの霊魂が空を埋め尽くす。


 普通なら絶望的な光景。


 だが


 スズメは無言で串を追加装備した。


 一本。


 二本。


 十本。


 指先が残像すら見えない速度で動く。


 タタタタタタタタッ!!


 信じられない精度。


 一切の無駄がない。


 魂たちは次々と串に刺さっていった。


 一本ずつ。


 綺麗に。


 均等に。


 まるで祭りの屋台のように。


 地獄に再び静寂が訪れる。


 レディ•アルシエルは額を押さえた。


「……これは除霊ですの? それとも料理ですの?」


 バッキーは遠い目で答える。


「……もう分かんねぇよ……」


 ヴェルザリアも呆然としていた。


「……魂を整列させてる……」


 さっきまで暴れ狂っていた霊魂たちは、串の上でゆっくり揺れていた。


 静かに。


 穏やかに。


 なぜか少し幸せそうに。


 中には、ほわんと柔らかく光り始める魂までいる。


 屋台の悪魔が恐る恐る近づいてきた。


「……これ、売れるか?」


「「「ダメ!!!」」」


 全員が同時に叫んだ。


 スズメは最後の一本を地面へ突き刺した。


 カン


 整然と並ぶ大量の魂串。


 もはや地獄の惨状ではない。


 完全に祭り会場だった。


 暴走なし。


 破壊なし。


 被害も停止。


 スズメは静かに告げる。


「制御完了」


 ヴェルザリアは周囲を見回した。


 まだ所々燃えてはいる。


 だが


 正直、いつもの地獄より被害が少なかった。


 彼女は深くため息を吐く。


「……もう何が常識なのか分からないわ」


 スズメは小さく首を傾げた。


「問題は解決しました」


 その直後。


 一本の串に刺さった魂がぽつりと呟く。


「……おいしい……」


 静寂。


 バッキーがゆっくり顔を向ける。


「……待て」


「味付けしたのか?」


 レディ•アルシエルは即座に耳を塞いだ。


「聞きたくありませんわ!!」


 しかし


 スズメはすでに真剣な表情で串を見つめていた。


「調理応用の可能性を検出」


 その一言が。


 《火山の巨人》よりも。


 暴走した霊魂よりも。


 この場にいた全員を震え上がらせた。


正直言って、串で戦う人って本当に怖いよね。まあ、「アリシゼーション」はかなり良い作品だけど。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ