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異世界デワ 、中村すずめはレベル999のメイドです  作者: 天村 秀明
第2章、第2部:地獄編 -中間-
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幕間(3):食べ物、習慣、その他地獄のようなもの(いつもより長めの幕間)

 「さて」


 ヴェルザリアは芝居がかった動きで両手を打ち鳴らした。


 乾いた音が、騒がしい通りの空気に妙によく響く。


「みんな、まだ生き残ってることだし」


 口元を大きく吊り上げる。


 そして彼女は、まるで最高のイベントを発表する司会者みたいなテンションで叫んだ。


「今日は地獄観光ツアーを開催するわよっ!」


 一瞬。


 空気が止まった。


 バッキーは即座に深いため息を吐く。


「……絶対こうなると思ってた」


 リリスは魂が半分抜けたような顔をしていた。


 レディ•アルシエルは静かに紅茶を飲みながら受け入れている。


 もう諦めの境地だった。


 そしてスズメは小さく頷いた。


「承知しました」


「こいつ本当に何でも受け入れるな!?」


 バッキーのツッコミが炸裂した。


 しかしスズメは真顔のままだ。


 彼女にとっては命令か予定か、その程度の違いしかないのである。


 数十分後。


 一行は地獄の商業区画へと到着していた。


 そこは、想像以上に――賑やかだった。


 悪魔。


 悪魔。


 さらに悪魔。


 角の形も、羽の色も、体格も種族もバラバラな連中が、大通りを好き勝手に歩き回っている。


 露店の呼び込み。


 肉の焼ける臭い。


 どこか硫黄っぽい煙。


 遠くで鳴り続ける爆発音。


 耳が痛くなるほど騒がしいのに、不思議と活気があった。


 スズメは周囲を観察する。


 視線は冷静。


 感情の揺れはほぼゼロ。


 部分的に秩序化された市場環境。


 頭の中で淡々と分析を下す。


 通行ルートは確保済み。

 衛生観念は平均以下。

 火災発生率は高め。


 結論。


 運営は一応成立している。


 ヴェルザリアはそんなスズメをよそに、テンション高く露店を指差していく。


「ここが地獄名物グルメストリートよ!」


 最初の屋台では、タコに似た何かが串焼きにされていた。


 ただし燃えている。


 普通に炎上していた。


 しかもまだ動いている。


 隣では巨大な鍋でスープが煮込まれていたが


「ギャアアアアア!!」


 スープが叫んでいた。


 バッキーがゆっくり指を差す。


「……あれ普通なのか?」


「普通よ?」


 ヴェルザリアは即答した。


「……鍋から逃げようとしてるぞ」


「新鮮さは大事でしょ?」


 沈黙。


 リリスは額を押さえた。


「……もう何も食べたくない……」


 その瞬間。


 どこか見覚えのある悪魔が勢いよく駆け寄ってきた。


 両手には大量の串。


 しかも嫌な既視感がある。


「魂入りスピリット串焼きィィ!!」


「今なら三本で二本分の値段だァァ!!」


 空気が凍る。


 バッキーがゆっくり顔を覆った。


 ヴェルザリアは静かにスズメを見る。


 スズメも静かにヴェルザリアを見返した。


「……流行ったんだな」


 バッキーが遠い目で呟く。


 以前の事件が、まさか地獄グルメ業界に影響を与えていたとは。


 スズメは串焼きを観察する。


 焼き加減。


 香り。


 盛り付け。


 串の均一性。


 ――見た目は悪くありません。


「買っちゃダメだからね!?」


 リリスが即座に釘を刺した。


「承知しました」


「返事が早すぎるんだよ……!」


 さらに奥へ進むと、大きな広場が見えてきた。


 そこでは複数の悪魔が普通に殴り合っていた。


 本当に普通に。


 まるで世間話でもするかのような気軽さで。


「お、火曜決闘ね」


 ヴェルザリアが軽い調子で言う。


 レディ•アルシエルは静かに訂正した。


「今日は日曜日ですが」


 沈黙。


 ヴェルザリアは腕を組み、


「……じゃあ遅延してるのね」


 と真顔で言った。


 その直後。


 一体の悪魔が吹き飛び、壁にめり込む。


 別の悪魔は途中で半分ほど爆発した。


 だが周囲は誰も気にしていない。


 スズメは観察する。


 攻撃性の高い社会交流。


 さらに観察。


 致死率は現時点で低い。


 結論。


 ――文化的には許容範囲。


 バッキーは顔を引きつらせた。


「どこが許容範囲なんだよ!?」


「まだ誰も死んでないもの」


 ヴェルザリアが言う。


 一拍置いてから付け足した。


「まだね」


「地獄でその言葉ほんと嫌いなんだけど」


 その時だった。


 リリスが周囲の視線に気づく。


「……待って」


「なんでみんなスズメ見てるの?」


 確かに。


 通りすがる悪魔たちがちらちら視線を向けている。


 中には露骨に震えている者までいた。


「……あれが」


「絶対清掃メイド……」


「マグマを消したって聞いたぞ……」


「生きてるゴミを粛清したらしい……」


 妙な噂がどんどん飛び交っている。


 すると小さな子供悪魔が、おもちゃのミニ箒を抱えて近づいてきた。


 目がキラキラしていた。


「ぼく、大きくなったらあの人みたいになる!」


 沈黙。


 ヴェルザリアが腹を抱えて笑い始める。


「アハハハハハ!!」


 バッキーは頭を抱えた。


「……都市伝説化してる……」


 スズメは小さな悪魔を見下ろした。


 そしてほんの少しだけ屈み、静かな声で告げる。


「清潔な環境維持を心掛けてください」


「はいっ!!」


 子供悪魔は勢いよく敬礼した。


 周囲の悪魔たちまで妙に感動している。


 リリスは虚空を見つめていた。


「……もう収拾つかなくなってきた……」


 その後。


 一行は地獄式の喫茶店へ入った。


 意外なほど落ち着いた場所だった。


 爆発もない。


 悲鳴も少ない。


 かなり平和寄りである。


 今のところは。


 ヴェルザリアは真っ赤に発光する飲み物を口にした。


 グラスの縁から熱気が立ち上っている。


「火山ジュースよ」


 バッキーが目を見開く。


「……それコップ溶けないのか?」


「安物は溶けるわね」


「基準がおかしいんだよ」


 レディ•アルシエルは相変わらず優雅に紅茶を飲んでいた。


 もはや地獄だろうが何だろうが、この人だけ空気が違う。


 リリスもようやく少し肩の力を抜く。


 スズメは静かに店内を見回していた。


 談笑する悪魔たち。


 料理を運ぶ店員。


 笑い声。


 食事風景。


 見た目こそ恐ろしいが


 その光景はどこか普通だった。


 驚くほどに。


 スズメは考える。


 地獄にも日常が存在する。


 生活基盤。

 経済活動。

 文化。

 社会性。


 そして。


 住民は普通に働き、食事し、会話している。


 ヴェルザリアがそんな彼女の視線に気づいた。


「……意外でしょ?」


「はい」


 スズメは素直に頷く。


 ヴェルザリアは椅子にもたれながら笑った。


「結局、悪魔だって働いて食べて文句言って生きてるのよ」


 少し考えてから、


「……特に文句は多いけど」


 と付け加えた。


 バッキーは即座に頷く。


「それはめちゃくちゃ分かる」


 少しだけ穏やかな沈黙が流れた。


 その時だった。


 ドゴォォォォンッ!!


 三本向こうの通りで巨大な爆発が起きた。


 窓ガラスが軽く震える。


 だがヴェルザリアは一切振り向かない。


「……放っといていいわ」


 リリスが呆れた顔をする。


「なんで重要じゃないって分かるの?」


 ヴェルザリアは火山ジュースをもう一口飲んだ。


「誰も逃げてないから」


 一同は窓の外を見る。


 確かに誰も慌てていない。


 普通に歩いている。


 普通に買い物している。


 遠くの方から誰かの叫び声だけが聞こえた。


「またレストランが爆発したぞォーー!!」


「……あっ」


 ヴェルザリアはそこで初めて少しだけ困った顔をした。


「……それは割と重要かも」


 するとスズメが静かに立ち上がる。


 瞳は真剣そのもの。


 清掃案件発生の可能性。


 ヴェルザリアは即座に頭を抱えた。


「ダメよ」


「仕事モード入った!」


 バッキーも慌てる。


「待て待て待て! お前が行くと被害拡大する可能性あるから!」


「ですが衛生環境の悪化が」


「今はいい! 今はいいから!」


 そんなふうに騒ぎながらも。


 地獄の一日は変わらず続いていく。


 爆発があって。


 悲鳴が響いて。


 誰かが笑って。


 誰かが食事をして。


 そしてスズメは今日も掃除の機会を探していた。


 とても地獄らしい形で。



異世界における作者の日記⁵


えー、まず最初にご報告を。私とアミさんの間に何かあったのではないかと期待(?)していた皆さん、残念ながら特に何もありませんでした! いや、本当に良かった。私の理性、あるいは彼女の気まぐれに感謝です。

しかし、一難去ってまた一難。

どうやら明日、リリヤたちの友達グループ全員でどこかに出かけることになったようです。……嫌な予感しかしないのですが、話を聞く限りどうやら「ダンジョン」に向かうっぽいです。

やばいです。死にます。前回の試合で腕を斬られた程度の私が、魔物の巣窟に行って何ができるというのでしょう。今のうちに遺言を執筆しておくべきでしょうか。

あ、ちなみに今日の朝食なんですが……「カエルのソテーとコーヒー」です。

……え、いかがですか? 意外とコーヒーとの相性が……いや、あるわけないだろ(泣)。

異世界の食文化と冒険の厳しさに、もう心は折れかけています。

もし明日、ダンジョンから戻ってこれなかったら、この物語は「ハトの肉とカエルを食べた作者、ダンジョンに散る」という伝説として語り継いでください。

それでは、生きていたら(そしてカエルでお腹を壊していなければ)次のチャプターでお会いしましょう!

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