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異世界デワ 、中村すずめはレベル999のメイドです  作者: 天村 秀明
第2章、第2部:地獄編 -中間-
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第22章:スズメと溶岩の巨人

 亀裂は、なおも広がり続けていた。


 まるで地獄そのものが悲鳴を上げているかのように、赤黒い大地がゆっくりと裂けていく。


 そして次の瞬間


 クラァァァァック


 耳障りな破砕音が響き渡り、固まっていたはずの溶岩層が目の前で崩れ始めた。


 熱気が噴き上がる。


 硫黄の臭いが鼻を刺す。


 砕け散る岩の奥、その内部から、何かが押し上がってきていた。


 巨大な何かが。


 ヴェルザリアはゆっくりとマグカップを背後へ隠した。


 その表情から、いつもの余裕は消えている。


「……下がって」


 低く、鋭い声。


 バッキーは反射的に数歩後退した。


「……いや、今のは考えるまでもなかった」


 普段なら軽口を叩く彼でさえ、笑う余裕がない。


 リリスは無言のまま周囲に水を展開する。


 防御の準備。


 完全に本能だった。


 レディ•アルシエルですら、静かに亀裂を見つめていた。


 やがて


 裂け目の奥から、一本の腕が現れる。


 それは肉でも骨でもない。


 生きた溶岩そのものだった。


 真紅の熱を帯び、滴り落ちるマグマが地面を焼き焦がしていく。


 続いて、もう一本。


 そして


 それは姿を現した。


 巨大。


 圧倒的な質量。


 山のような巨体を持つ、溶岩の巨人。


 瞳は炉心のように燃え盛り、全身から絶え間なくマグマが流れ落ちている。


 足を踏み出すだけで大地が溶け、赤熱した亀裂が広がっていった。


 咆哮。


 その一声だけで城全体が激しく震動する。


 遠方で悲鳴が上がった。


「火山巨人だぁぁぁぁ!!」


「逃げろぉ!!」


「給料なんか知らねぇぇぇ!!」


 悪魔たちが雪崩のように逃げ惑う。


 完全なるパニックだった。


 そんな光景を見ながら、レディ•アルシエルは妙に冷静な声で呟く。


「……極めて危険な状況ね」


 ヴェルザリアは歯を食いしばった。


「あれは地獄核から生まれた存在よ……」


 声に僅かな緊張が混じる。


「……止まらない」


 短い沈黙。


 そして、静かに続けた。


「……そして、死なない」


 空気が凍りつく。


 バッキーはゆっくりとスズメの方を見た。


「……えっと、これも彼女が何とかする感じか?」


 リリスは感情の抜けた目のまま答える。


「……たぶん」


 その瞬間、火山巨人が動いた。


 一歩。


 それだけで地面が爆発する。


 マグマの川が噴き出し、周囲の温度が異常な速度で上昇していく。


 空気が燃える。


 呼吸するだけで喉が焼けるようだった。


 だが


 スズメだけは静かに巨人を見つめていた。


 無表情。


 揺らぎ一つない視線。


 脳内で淡々と情報が整理されていく。


 過剰な溶解物質を確認。


 環境汚染レベル、極大。


 周辺被害拡大中。


 結論


 完全除去が必要。


 スズメは静かに前へ歩き出した。


 たった一人で。


 ヴェルザリアは即座に気付く。


「……スズメ」


「はい」


「……なるべく地獄を壊さないで」


 わずかな沈黙。


 スズメは少し考えるように首を傾げた。


「善処します」


「その返事、全然安心できないんだけど!?」


 バッキーが叫ぶ。


 直後。


 火山巨人が巨大な腕を振り上げた。


 周囲のマグマが暴風のように収束していく。


 圧縮。


 凝縮。


 熱量が限界まで高まり


 拳が振り下ろされた。


 まるで山そのものが落下してくるような一撃。


 しかし。


 スズメは静かに片手を上げた。


 その瞬間


 溶岩が止まった。


 完全に。


 轟音を上げていたマグマが、空中で静止している。


 時間すら凍結したような異様な光景。


 バッキーの表情から人間らしさが消えた。


「……溶岩、止めたぞ」


 リリスは呆然と呟く。


「……もう水魔法とか比較するの虚しくなってきた……」


 スズメは停止したマグマを観察する。


 超高温。


 不純物多数。


 危険性大。


 結論


 浄化処理を開始。


 スズメはゆっくりと手を握った。


 次の瞬間。


 マグマが消えた。


 蒸発ではない。


 爆発でもない。


 ただ 存在そのものが消滅した。


 静寂。


 火山巨人の腕まで一緒に消えている。


 巨人はゆっくりと自分の肩を見下ろした。


 理解できない。


 そんな風に見えた。


 ヴェルザリアがぽつりと漏らす。


「……溶岩を消した……?」


 バッキーは即答した。


「いやもうこの人、呪いもゴミも魔王も掃除してるし」


「……確かに」


 妙に納得するヴェルザリア。


 だが次の瞬間


 火山巨人が再び咆哮した。


 今度は先ほど以上。


 凶暴に。


 激しく。


 全身から大量のマグマが噴出する。


 地獄全域が揺れ始めた。


 何キロにも渡って巨大な亀裂が走る。


 スズメは小さく息を吐いた。


 汚染拡大を確認。


 広域清掃を推奨。


 結論


 範囲殲滅処理を実行。


 スズメは箒を握る。


 その瞬間。


 空間が凍った。


 悪魔たちは息を呑み、火山巨人ですら動きを止める。


 本能が告げていた。


 危険。


 絶対的危険。


 そして


 スズメは箒を一度だけ振った。


「『破壊魔法アビス』」


 静寂。


 直後。


 黒い線が地獄を横断した。


 細い。


 あまりにも細い。


 だが


 次の瞬間。


 火山巨人が真っ二つに裂けた。


 頭上から足元まで。


 寸分違わず。


 内部のマグマは一瞬で消滅する。


 爆発もない。


 抵抗もない。


 まるで蝋燭の火を吹き消すように。


 巨体はゆっくりと崩れ落ちていく。


 灼熱の溶岩だった肉体は、冷たい石へ変わっていた。


 完全停止。


 完全沈黙。


 死。


 地獄全体が静まり返る。


 遠くで悪魔たちが呆然と立ち尽くしていた。


 誰も声を出せない。


 最初に口を開いたのはヴェルザリアだった。


「……火山巨人を倒した……」


 だが、リリスは静かに首を振る。


「違う」


 短い間。


 そして、ぽつりと言った。


「……掃除したの」


 再び沈黙。


 スズメは石化した残骸を見つめる。


 温度正常化を確認。


 周辺区域、安全。


 結論


 問題解決。


 その時だった。


 石化した巨人の中心部。


 そこから赤い光が漏れ出す。


 小さい。


 だが異様な存在感。


 まるで 溶岩でできた心臓。


 スズメは僅かに首を傾げた。


 未知の物体を確認。


 そして次の瞬間


 ドクン。


 心臓が脈打った。


 一度だけ。


 地獄の静寂の中で、その音だけが不気味に響いた。


くそっ!!!見つけたぞ!学校に遅刻しちゃったよ(笑)、なんてひどい悪夢なんだ!

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