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異世界デワ 、中村すずめはレベル999のメイドです  作者: 天村 秀明
第2章、第1部:地獄編 -はじまり-
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第19章:ドゥーチェとスズメ

 鎖が叫んでいた。


 比喩ではない。


 本当に、叫んでいたのだ。


 巨大な封印扉を覆う漆黒の鎖。

 その一本一本に、苦悶の表情を浮かべた呪われた顔が浮かび上がり、まるで生き物のように蠢いている。


「開けるな」


「開けるな」


「開けるな」


 低く湿った声が、空間そのものを震わせていた。


 その場にいるだけで精神が削られていく。


 バッキーの顔は完全に青ざめていた。


「……帰りたい」


 震える声でそう呟く。


 すると隣のリリスも即座に頷いた。


「……私も」


 普段なら絶対に認めない弱音だった。


 しかし今回は無理もない。


 目の前の“何か”は、本能が危険だと叫んでいる。


 ヴェルザリアは腕を組みながら鎖を睨みつけていた。


 だが、その表情には明らかな緊張が浮かんでいる。


「……これは古いわね」


 静かな声。


「しかも、とんでもなく古い」


 空気が重い。


 まるで世界そのものが沈んでいくようだった。


 その中心に立つのは魔王ドゥーチェ。


 彼は巨大な扉の前で微動だにしない。


 だが、存在感だけで空間を支配していた。


 圧倒的。


 まるで山だ。


 動かずとも、そこに在るだけで全てを押し潰す絶対的質量。


 漆黒の魔力が玉座の間を満たし、床を、壁を、天井を軋ませていく。


 それでも。


 それでもなお


 鎖は震えていた。


 恐れているように。


 怯えているように。


 その理由は一つ。


 スズメだった。


 彼女は静かに封印を観察している。


 無表情。


 箒を片手に持ったまま、淡々と解析を進めていた。


 《封印構造の劣化を確認》


 《残留エネルギーの異常蓄積を検知》


 《結論》


 《早急な介入が必要》


 その瞬間。


 ドゥーチェがゆっくりと振り返った。


 赤い瞳がスズメを捉える。


 空気が張り詰めた。


「……その前に」


 沈黙。


 ヴェルザリアの目が見開かれる。


「……ドゥーチェ」


 嫌な予感しかしなかった。


「……まさか」


「そのまさかだ」


 即答だった。


 バッキーがきょとんとする。


「え、何を」


 次の瞬間。


 ドゥーチェが片手を持ち上げた。


 漆黒の炎が噴き上がる。


 轟音。


 城全体が激しく震えた。


「彼女に、“あれ”へ触れる資格が本当にあるのか……確認する」


 リリスが凍りつく。


「テストする気!?」


 ヴェルザリアは額を押さえた。


「ああもう最悪!!」


 爆発的な魔力が放出された。


 床が砕ける。


 柱が軋む。


 天井に巨大な亀裂が走った。


 ドゥーチェの背後に、巨大な影が現れる。


 漆黒で形成された超巨大な魔神。


 空洞のような赤い目。


 天を突く角。


 山のような腕。


 ただ存在するだけで恐怖を撒き散らす怪物。


 バッキーの唇が震えた。


「……あれ、オーラなのかよ……!?」


 アルシエルは静かに目を細める。


「見事ですね」


 感嘆すら含まれていた。


 対するスズメは。


 ただ静かに観察していた。


 《高圧魔力反応を確認》


 《周囲環境への損害予測:大》


 《対処を推奨》


 そして。


 ドゥーチェが踏み込む。


 たった一歩。


 それだけで城全体が揺れた。


 黒炎が爆ぜる。


 空間が歪む。


「はああああぁぁぁぁぁ!!」


 拳が振り下ろされた。


 まるで隕石。


 逃げ場など存在しない暴力。


 次の瞬間


 コツッ。


 乾いた音が響いた。


 静寂。


 誰も理解できなかった。


 スズメが。


 箒一本で。


 魔王の拳を止めていた。


 完全停止。


 衝撃波だけが周囲を吹き飛ばし、後方の壁を粉砕していく。


 だがスズメ本人は。


 一歩も動いていなかった。


 バッキーの口がゆっくり開く。


 リリスも固まっている。


 ヴェルザリアは瞬きすら忘れていた。


 巨大な魔神の腕。


 それを支える小さな箒。


 あまりにも異様な光景。


 スズメは淡々と分析する。


 《衝撃確認》


 《許容範囲内》


 その瞬間。


 ドゥーチェが初めて目を見開いた。


「……なるほど」


 そして。


 彼は笑った。


 初めて。


 心底楽しそうに。


「……面白い」


 魔力がさらに膨れ上がる。


 床が爆散した。


 そこから先は、もはや戦闘ではない。


 災害だった。


 拳。


 黒炎。


 破壊波。


 一撃ごとに都市を消し飛ばせるほどの威力。


 だがスズメは。


 避ける。


 最小限の動きで。


 無駄なく。


 滑るように。


 まるで 通路の障害物を掃除しているかのように。


「……踊ってるのか?」


 バッキーが呆然と呟く。


 しかしアルシエルは静かに首を振った。


「違います」


「彼女は仕事をしているだけです」


 次の瞬間。


 ドゥーチェが巨大な闇の奔流を放った。


 玉座の間が漆黒に呑まれる。


 視界が消えた。


 ヴェルザリアが即座に結界を展開。


 リリスはバッキーを押し倒した。


「全員伏せなさい!!」


 その中で。


 スズメだけが静かに箒を持ち上げる。


「『剣箒』」


 起動。


 箒が変形する。


 刃へ。


 魔力が柄を走り、純白の光が迸った。


 空気が研ぎ澄まされる。


 そしてスズメは、一閃した。


 ただそれだけ。


 それだけで。


 世界を覆っていた闇が。


 真っ二つに裂けた。


 布を裂くように。


 あまりにも綺麗に。


 静寂。


 漆黒の魔力は完全に消滅していた。


 玉座の間には、一本の斬線だけが残っている。


 ドゥーチェは動かない。


 背後の炎が静かに弱まっていく。


 彼は長い間、スズメを見つめていた。


 そして。


 突然。


 笑い出した。


 最初は低く。


 次第に大きく。


 豪快に。


「ハハハハハハハハ!!」


 ヴェルザリアが呆れたように呟く。


「……気に入ったわね」


 リリスが嫌そうな顔をした。


「それって悪いこと?」


「ものすごく悪い」


 ドゥーチェはゆっくりと手を下ろした。


 暴風のようだった魔力が消える。


 城が静かさを取り戻した。


 彼はスズメを見下ろす。


「……もういい」


 短い沈黙。


「お前は合格だ」


 その瞬間。


 バッキーがその場にへたり込んだ。


「……生きてる……」


 リリスも魂が抜けたような顔をしている。


 ヴェルザリアは深く息を吐いた。


 スズメは小さく首を傾げる。


「評価終了?」


「ああ」


 ドゥーチェは再び巨大な封印扉へ向き直った。


 鎖がさらに激しく震えている。


 まるで恐慌状態だった。


「……では」


 魔王は静かに告げる。


「開けるぞ」


 沈黙。


 その扉の向こう側から


 何かが、呼吸した。


 深く。


 古く。


 飢えた音。


 空気が凍りつく。


 地獄へ来てから初めて。


 初めてスズメが数秒間、無言で扉を見つめていた。


 《……》


 《結論》


 《極めて慎重な清掃作業が必要》


 そして。


 ゆっくりと。


 封印が軋み始めた。




今日は、残りの時間と明日は、重要な用事があるので、これ以上章を投稿することができません!

--

異世界における作者の日記³


リリヤが彼女の友人たちを紹介してくれました。リズベス、ヨハン、そしてアミ。みんなキャラが立っていて良い人たちだったのですが……リズベスだけはちょっと、こう、圧が強すぎましたね。隙あらば猛烈に言い寄ってくるので、正直タジタジでした。リリヤの視線が怖かったです(笑)。

その後、ヨハンと親睦を深めるために剣術の試合をすることになったんですが……。

結果は、言うまでもありません。惨敗。いや、惨敗どころか屈辱的なレベルです、ははは。

あまりのスピードに反応できず、気がついたら私の左手が宙を舞っていました。一瞬「あ、私の作家生命(左利きじゃないけど)終わったな」と悟りましたよ。でも、アミさんが即座に治癒魔法をかけてくれたおかげで、無事にくっつきました。アミさん、マジで聖女。ありがとう。

剣を振るよりペンを握る方が、私にはお似合いのようです。

それでは、腕が繋がっているうちに次のチャプターを書き上げたいと思います。また次回!


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