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異世界デワ 、中村すずめはレベル999のメイドです  作者: 天村 秀明
第2章、第1部:地獄編 -はじまり-
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第18章:闇大魔王ドゥーチェ(ヴェルザリアの夫)

 地獄の魔城。


 それを一言で表すなら、常軌を逸していた。


 巨大。


 漆黒。


 空を覆うほど高く伸びた尖塔。


 城壁には黒炎が絡みつき、生き物のように脈動している。


 空気そのものが重かった。


 まるで世界がこの城を拒絶しているかのように。


 城へ続く橋を歩きながら、バッキーは引きつった顔で見上げた。


「……あいつ、本当にここに住んでるのか?」


「もちろんよ」


 ヴェルザリアは胸を張った。


 どこか誇らしげですらある。


「ここは“闇の大魔王城”なんだから」


 そこでわざとらしく間を置き、


 彼女はさらりと言った。


「――私の旦那の家よ」


 沈黙。


 風が吹いた。


 リリスがぱちぱちと瞬きをする。


「えっ」


「えっ、じゃないわよ」


「いや、情報量が多すぎるんですが……?」


 一方その頃。


 レディ・アルシエルは優雅に紅茶を飲んでいた。


 どういう理屈か知らないが、まだ温かい。


 しかもカップまで高級品だった。


 なぜ地獄まで持ってきているのかは誰も聞かない。


 スズメは城をじっと観察していた。


 壁。


 構造。


 窓の配置。


 照明。


 黒炎の熱効率。


 数秒後。


 彼女の中で結論が出る。


 老朽化。


 採光不足。


 換気効率、劣悪。


 総合評価。


「リフォームが必要ですね」


「そこ!?」


 バッキーが即座に突っ込んだ。


 ヴェルザリアは感心したように頷く。


「わかる? やっぱりちょっと古いのよねぇ」


「共感しないでください!?」


 そんなやり取りをしながら、ヴェルザリアは巨大な門へ歩み寄った。


 黒鉄の門。


 高さだけで十数メートル。


 無数の魔眼が埋め込まれ、侵入者を睨みつけている。


 ヴェルザリアは両手を広げ、


 勢いよく門を押し開けた。


 轟音が響く。


 まるで雷鳴だった。


 完全に演出である。


「ドゥゥゥゥチェェェェェ!!」


 彼女の声が城全体へ反響した。


 沈黙。


 長い沈黙。


 あまりにも長い。


 バッキーが「これ無視されてないか?」と思い始めた頃。


 重い足音が響いた。


 床が揺れる。


 空気が震える。


 闇の奥から、巨大な影が現れた。


 高い。


 二メートル四十近い巨体。


 漆黒の外套。


 血のように赤い瞳。


 その身から放たれる魔力だけで、普通の人間なら気絶するレベルだった。


 圧倒的。


 ただ立っているだけで災害そのもの。


 バッキーの身体が反射的に強張る。


「っ……!」


 リリスも思わず杖を握り締めた。


 レディ・アルシエルですら、わずかに目を細める。


 男は一行の前で止まり、低く息を吐いた。


「……ヴェルザリア」


 声が重い。


 空間に沈み込むような低音だった。


「またゲートを破壊したのか?」


「て、天災みたいな事故よ」


「また人間を攫ったのか?」


「資源の有効活用って言って」


 沈黙。


 ドゥーチェは深くため息をついた。


 絶望的な疲労感が滲み出ている。


 慣れているのだろう。


 確実に。


「……すまない」


 彼は静かに頭を下げた。


「こいつは昔から問題ばかり起こす」


「ちょっと!?」


 ヴェルザリアが抗議する。


「私だって時々は解決してるわよ!」


「別の問題を増やしながらな」


「ぐっ……!」


 言い返せなかった。


 バッキーは察する。


 あ、この夫婦こういう感じなんだな、と。


 そしてドゥーチェの視線が、一行へ向いた。


 止まる。


 スズメで。


 沈黙。


 異様なほど長い沈黙だった。


 ヴェルザリアですら違和感を覚えるほどに。


「……ドゥーチェ?」


 闇の大魔王は目を細めた。


 瞬間。


 空気が変わる。


 黒炎が彼の背後で噴き上がった。


 魔力の圧が一気に増す。


 バッキーは即座に剣へ手を伸ばした。


 リリスも緊張した表情で杖を構える。


 ヴェルザリアは「あっ」と小さく声を漏らした。


 スズメだけが、いつも通りだった。


 小さく首を傾げる。


「こんにちは」


 静寂。


 絶対的な静寂。


 そして。


 ドゥーチェの背後で燃え盛っていた黒炎が。


 ぶるり、と震えた。


 まるで怯えたように。


 彼はスズメを見つめ続ける。


 災害を見る目だった。


 いや。


 もっと正確に言うなら。


 “理解不能なもの”を見る目。


 やがて彼はゆっくり口を開いた。


「……貴様が、“メイド”か」


「はい」


 即答。


 また沈黙。


 ドゥーチェは片手で顔を覆った。


 深く。


 本当に深く。


 疲れ切った声が漏れる。


「……噂は本当だったか……」


「噂?」


 バッキーが首を傾げる。


 するとヴェルザリアが勢いよく手を挙げた。


「はいはいはい! 最近めちゃくちゃ有名なのよ!」


 彼女は指を折りながら数え始める。


「呪い消滅」


「悪霊蒸発」


「生きたゴミ処理」


「魔族職員真っ二つ」


「それは言わない約束だったはずですが」


 スズメが静かに言った。


「ごめん」


 秒で謝った。


 ドゥーチェは再びスズメを見る。


 重い沈黙。


「……お前」


「はい」


「本当に、何でも掃除できるのか?」


 スズメは少し考えた。


 質問が抽象的すぎる。


 汚れの定義が曖昧。


 しかし総合的に判断する。


「おそらく」


 バッキーが遠い目をした。


 リリスは視線を逸らす。


 ヴェルザリアは肩を震わせて笑いを堪えている。


 その後。


 ドゥーチェはゆっくり振り返った。


 大広間の最奥。


 巨大な扉を指差す。


 全員の視線が向く。


 そして、空気が凍った。


 黒い鎖。


 無数の封印。


 脈打つ魔眼。


 扉そのものが生きているようだった。


 周囲の空間まで歪んでいる。


 見るだけで本能が警鐘を鳴らす。


「ならば、あれを掃除してみろ」


 ヴェルザリアの表情が変わった。


 初めてだった。


 彼女が本気で焦った顔をしたのは。


「……ドゥーチェ」


 声が低い。


「冗談でしょう?」


 だが大魔王は答えない。


 ただ扉を見つめていた。


「五百年前に現れた」


「私でも壊せん」


 鎖が、ガチャリと震える。


 向こう側から。


 何かが呼吸していた。


 巨大な何か。


 古い何か。


 存在してはいけない何か。


 バッキーは無意識に後退る。


 リリスの顔色も青い。


 レディ・アルシエルでさえ、黙っていた。


 ドゥーチェは再びスズメを見る。


「……もし本当に、全てを掃除できるというなら」


 短い沈黙。


「証明してみせろ」


 スズメは扉を見た。


 観察。


 分析。


 汚染濃度 極大。


 危険度 測定不能。


 結論。


「即時清掃が必要です」


 彼女は静かに箒を握った。


 その瞬間。


 黒い鎖が激しく震え始める。


 まるで恐怖しているかのように。


 空間が軋む。


 封印が悲鳴を上げる。


 そして。


 その場にいた全員が理解した。


 もしかすると。


 あの扉の向こうにいる怪物よりも。


 今、この場で最も危険な存在は。


 スズメなのではないか、と。





最高だ!!! 「ソードアート・オンライン」シーズン2を見終えたので、次は「アリシゼーション」を始めよう!!

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