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第11章:シカバネeats -食べる-

 

 最初の違和感は 静寂だった。


 それは、いつものスズメにとって心地よい「整った静けさ」ではない。


 もっと別のもの。


 中身が抜け落ちたような、空洞のような静寂。


 存在がごっそり削ぎ落とされたような、不自然な無音。


 スズメは廊下の途中で足を止めた。


 呼吸も、足音も、衣擦れもない。


 まるでこの空間だけが世界から切り離されているような感覚。


 普段なら


 たとえ広い屋敷の中でも、


 どこかに気配がある。


 人の動き。


 空気の揺れ。


 微かな生活音。


 だが今は違う。


 何も、ない。


 完全な空白。


 スズメの内部で警告が点灯する。


 異常。


 そのとき、視界の端に引っかかるものがあった。


 廊下の奥。


 わずかに開いた扉。


 そこから、弱々しい光が漏れている。


 揺れるような、頼りない明かり。


 スズメはゆっくりと歩き出した。


 急ぐ理由はない。


 だが、止まる理由もない。


 一定の歩幅で、音も立てずに近づく。


 扉の前に立ち、ほんの一瞬だけ間を置く。


 そして、指先で軽く押した。


 きぃ、と小さな音を立てて扉が開く。


 部屋の中は暗かった。


 しかしそれは、ただ光がないだけの暗さではない。


 重い。


 沈み込むような闇。


 空気そのものが濃くなったような圧迫感。


 その中で


 音がした。


 何かを、咀嚼する音。


 ゆっくりと。


 湿った、粘つくような音。


 スズメは微かに首を傾げる。


「……エリス?」


 呼びかけは静かに空間へ溶けていく。


 返事はない。


 だが音は止まらない。


 ぐちゅ、ぐちゅ、と。


 一定のリズムで続いている。


 スズメは一歩、部屋の中へ踏み入れた。


 視界が暗さに慣れていくにつれて、


 中心にある影が浮かび上がる。


 エリスだった。


 床に膝をつき、背を丸めている。


 長い髪が顔を覆い、その表情は見えない。


 その前に


 何かがあった。


 黒い塊。


 輪郭は曖昧で、形は定まっていない。


 液体とも固体ともつかないものが、ゆっくりとうごめいている。


 それは生きているのか、それとも残滓なのか。


 判別がつかない。


 だが一つだけ確かなことがある。


 エリスはそれを 食べていた。


 スズメは無言でその光景を観測する。


 時間が一瞬、引き延ばされたように感じられた。


 やがてエリスの動きが止まる。


 ゆっくりと、まるで機械のようにぎこちなく、


 顔がこちらへ向けられる。


 髪の隙間から覗く瞳。


 以前よりも暗い。


 深い。


 底の見えない色。


「あ……」


 かすれた声。


「スズメ」


 その声は、普段と変わらないようでいて、


 どこか僅かにずれている。


「ごめん」


 エリスは袖で口元を拭った。


 その仕草は妙に人間らしく、


 同時にどこか現実味が薄い。


「待とうとしたんだけど」


 沈黙。


 スズメは視線を外さない。


 内部で情報を処理する。


 残留エンティティを検知。


 消費行動、進行中。


「それは、食料ですか?」


 問いは極めて素直だった。


 エリスは一瞬だけ目を瞬かせる。


「……それ、聞くの?」


「はい」


 間。


 空気が微かに揺れる。


「……違う」


 短い否定。


 だがすぐに、


「……いや、どうだろ」


 曖昧に言い直す。


 エリスは足元の“それ”を見る。


 黒い塊はまだ微かに蠢いている。


「……消えないんだよ、こいつら」


 低い声。


「……ずっと残る」


「……だから、食べる」


「……その方が楽だから」


 再び沈黙。


 その瞬間、


 塊がびくりと動いた。


 逃げるように床を這う。


 エリスは反射的にそれを掴む。


 そして迷いなく


 噛みついた。


 ぐしゃり、と鈍い音。


 スズメはほんの僅かに首を傾げる。


 非効率的手段。


「手伝えます」


 その一言で、時間が止まった。


 エリスの動きが完全に固まる。


「……え?」


 ゆっくりと顔を上げる。


「……これ、手伝う気?」


「はい」


 即答。


 迷いはない。


 再び沈黙。


 そして、


「……ほんと、変だよねあんた」


 小さく、呆れたように笑う。


「よく言われます」


 エリスは軽く息を吐いた。


 張り詰めていた空気が、少しだけ緩む。


「……まあいいや」


 そう言って、手を離した。


 黒い塊が床に落ちる。


 びちゃ、と音を立てて広がり、


 再び逃げようとする。


 スズメが一歩前へ出る。


 クリーン処理、開始。


 手を伸ばす。


 指先がそれに触れた瞬間


 消えた。


 音もなく。


 抵抗もなく。


 まるで最初から存在しなかったかのように。


 部屋に静寂が戻る。


 今度の静寂は、少しだけ“正常”に近い。


 エリスはその場で呆然と見ていた。


「……まただ」


 ぽつりと呟く。


「……あんたさ」


「……簡単にやりすぎ」


 スズメは周囲をスキャンする。


 ――環境:正常化。


「処理完了」


 短く告げる。


 エリスはゆっくりと腰を下ろした。


 力が抜けたように。


「……ねえ」


 ぽつり。


「私、これ好きでやってるわけじゃないんだよ」


 視線は床へ落ちたまま。


「……溜まるとさ」


「……うるさいんだ」


「……ずっと、叫んでる」


 ほんの少しだけ声が震える。


「……だから食べる」


「……黙らせるために」


 スズメは何も言わずに聞いていた。


 遮らない。


 評価もしない。


 ただ受信する。


 代替解決案を検出。


「定期的に処理できます」


「……は?」


 エリスが顔を上げる。


「周期的なクリーンアップ」


「蓄積を防ぎます」


「……それって」


 少し間を置いて、


「……スケジュール組むってこと?」


「はい」


「……これに?」


「はい」


 沈黙のあと


 エリスが吹き出した。


「……なにそれ」


 肩を震わせながら笑う。


「……そんな発想なかったわ」


 ゆっくりと立ち上がる。


 表情が少しだけ軽くなっている。


「……いいよ」


「それ、採用」


 手を差し出す。


「組むならちゃんとやってよ」


「パートナーってことで」


 スズメはその手を見つめる。


 そして迷わず握った。


「はい」


 内部ログが更新される。


 新規タスク:割り当て完了。


 継続的メンテナンス。


 エリスは微笑んだ。


 今度は、どこか軽やかな笑みだった。


 だが


 部屋の奥。


 光の届かない隅。


 そこに、まだ“何か”がいた。


 小さく。


 息を潜めるように。


 じっと、こちらを見ている。


 そして


 それは、まだ消されていなかった。



いやー、それにしても……今日は本当に天気がいいですね!

正直に言っちゃうと、私は日本のど真ん中にある「え、ここマジで何もないな?」っていうような場所に住んでいるんですが(笑)、そんな場所でも今日ばかりは最高の景色です。

あまりにも空が青すぎて、部屋にこもってスマホやPCの画面に張り付いているのが、なんだか人生損しているような、もったいない気がしてきました。……まあ、結局こうして執筆とアニメのために画面を見てるんですけどね(笑)。

たまには外の空気を吸って、現実世界の「作画の良さ」を確認してくるのも悪くないかもしれません。

皆さんも、もし余裕があったら少しだけスマホを置いて、外を眺めてみてはいかがでしょうか?

それでは、また次のチャプターでお会いしましょう。


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