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第10章:新しいメイド(エリス)はしかばねなのか?!

 第10話:新たに屋敷へ来たメイド ― 屍姫のメイド、エリス


 帰還は 静かだった。


 屋敷の重厚な扉が軋むこともなく閉じられ、長い廊下にわずかな足音だけが溶けていく。外界の喧騒とは切り離されたその空間は、まるで時間すらもゆっくりと流れているかのようだった。


「……戻ったのね」


 その声は、いつもと変わらない場所から響いた。


 レディ・アーシェルは、定位置の椅子に腰掛けている。背筋は一切崩れず、指先の角度に至るまで計算されたような優雅さ。淡い光を受けた金の髪が、静かに揺れていた。


 スズメは一歩前に出ると、音もなく膝を折り、深く一礼する。


「任務、完了しました」


「……でしょうね」


 わずかに口元が緩む。だがそれは感情というより、結果を確認したという事務的な反応に近い。


「報告はすでに届いているわ」


 一拍の間。


「ダンジョンを丸ごと一つ、掃除したそうね」


「はい」


「……そう」


 短く、しかしどこか呆れたような吐息。


「さすがね」


 沈黙が落ちる。重くも軽くもない、ただ“当然”として流れる空気。


 やがて


「よくやったわ、スズメちゃん」


「まだ改善の余地があります」


「……ええ、いつも通りね」


 だがその空気が、わずかに変わる。


 アーシェルの指先がテーブルを軽く叩いた。


「今日は……別の話があるの」


 スズメはほんのわずかに顔を上げる。


「新しいメイドが来たわ」


「承知しました」


「……少し、変わっているの」


「理解しました」


 それだけで十分だった。


 廊下に出た瞬間、空気が変わる。


 温度ではない。だが確かに“何か”が違う。


 肌に触れる感覚が、ほんのわずかに重い。


 息を吸うたびに、微細な違和感が胸に残る。


 環境、微妙に変質。


 スズメは歩く。


 音のない足取りで、影のように。


 屋敷の奥へ、奥へと進み


 やがて、一つの扉の前で止まる。


 その前には、別のメイドが立っていた。顔色が少し悪い。


「……中にいるわ」


 小声で囁く。


「……気をつけて」


 スズメは軽く頷き、扉に向き直る。


 コン、コン、コン。


 正確な間隔で三回。


 無駄のないノック。


 わずかな沈黙の後


「入って」


 低い声。


 冷たい響き。


 スズメは静かに扉を開けた。


 部屋は暗かった。


 厚いカーテンが光を完全に遮断し、昼であることすら忘れさせる。空気は重く、わずかに淀んでいる。


 その中心に 少女がいた。


 椅子に座り、こちらを見ている。


 長い髪が肩から流れ落ち、透けるように白い肌。だが何よりも印象的なのは、その瞳だった。


 生きているはずなのに、どこか“死んでいる”。


 焦点が合っているのに、深淵を覗いているような感覚。


 沈黙が、二人の間に落ちる。


「……あなたが新入り?」


 先に口を開いたのは、少女の方だった。


「スズメと申します」


「……そう」


 小さく頷く。


「私はエリス」


 ゆっくりと立ち上がる。


 その動きは滑らかだった。あまりにも自然で、逆に違和感があるほどに。


 まるで重力から少しだけ切り離されているような、そんな軽さ。


「……メイドには見えない」


「現在、研修中です」


「……そういう意味じゃない」


 再び沈黙。


 エリスはわずかに首を傾けた。


「……わかる?」


「何がでしょうか」


「匂い」


 その一言で、スズメは意識を周囲に広げる。


 空気の粒子、流れ、残滓。


 微弱な“死”。


 腐敗ではない。だが確かに存在する終焉の気配。


「確認しました」


「……それでも入ってきた」


「問題ありません」


 エリスの瞳がわずかに細くなる。


「……変な子」


「よく言われます」


 ほんのわずかに、エリスの口元が緩んだ。


 だがそれは、温かみのある笑みではない。


 どこか壊れた、歪な形。


「……いいね」


 一歩、近づく。


「じゃあ、教えて」


 距離が縮まる。


 空気がさらに重くなる。


「これ、掃除できる?」


 その瞬間


 部屋が変わった。


 闇が濃くなる。


 空気が歪む。


 壁際から、床から、天井から。


 影が滲み出る。


 形を持たないはずのものが、形を得る。


 手のようなもの。


 顔のようなもの。


 何かの残骸のような、曖昧な存在。


「……消えないの」


 エリスの声は、かすかに震えていた。


「何をしても」


 その声には、疲労が滲んでいる。


 長い時間、抗い続けてきた者の響き。


 スズメはただ観察する。


 恐怖はない。


 迷いもない。


 環境、深刻に汚染。


 結論。


 徹底清掃が必要。


 一歩、前へ。


「介入許可を要請します」


 エリスが目を瞬く。


「……許可取るの?」


「はい」


 一瞬の沈黙。


 やがて


「……いいよ、やって」


 スズメは手を上げる。


 箒はない。


 道具もない。


 ただ、手だけ。


 直接処理。


 軽く、払うように。


 まるで見えない埃を掃うような仕草。


 次の瞬間


 影が消えた。


 音もなく。


 抵抗もなく。


 存在していたことすら疑わしくなるほど、あっさりと。


 空気が澄む。


 重さが消える。


 部屋が、本来あるべき姿へと戻る。


 エリスは固まっていた。


「……え?」


 ゆっくりと周囲を見回す。


 何もない。


「……消えた……」


 手が震える。


 自分の頬に触れる。


「……本当に……」


 その声は、かすかに揺れていた。


 先ほどまでの無機質さが崩れていく。


 初めて、“生きている”ように見えた。


 スズメは小さく首を傾ける。


 清掃完了。


「環境は正常です」


 エリスは、じっとスズメを見る。


 長い時間をかけて、観察するように。


「……あなた」


 一拍。


「……何者?」


 スズメはいつも通り答える。


「メイドです」


 その瞬間


 エリスは、くすっと笑った。


 先ほどとは違う。


 どこか軽い、柔らかな笑い。


「……そっか」


 一歩、近づく。


「じゃあ」


 視線が合う。


「頼りにするね」


 スズメは静かに一礼した。


「承知しました」


 こうして


 新たなメイドが屋敷に加わった。


 だが彼女は、他とは違う。


 死を纏う存在。


 触れれば蝕まれるはずのそれを


 初めて、


 完全に、


 何事もなかったかのように


 “掃除”された。



……やってしまいました。

このチャプター、いくらなんでも投稿するのが早すぎましたね(笑)。というか、今起きたばかりで頭が回っていない状態でポチッとやってしまいました。

というわけで、生活リズムが絶賛崩壊中なのですが、次のチャプターは午前9時頃に投稿する予定です。それまで少し(読するかアニメを観るかして)英気を養ってきます。

朝早くから(あるいは夜更かしして)読んでくださっている皆さん、本当にありがとうございます。次はもう少し人間らしい時間に更新できるよう頑張ります!

それでは、また午前9時に。


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