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第8章:箒を剣のように使う技

 ダンジョンの入口は、拍子抜けするほど簡素だった。


 山の斜面にぽっかりと口を開けた、ただの穴。


 光を拒むような闇が奥へと続き、湿った空気がゆっくりと外へ滲み出している。土と腐葉土が混ざったような、生ぬるい匂いが鼻をついた。


 誰もが一瞬、言葉を失う。


 だが、すぐにアベルが一歩前へ出た。


「よし、いつもの隊形でいくぞ」


 盾を構え、低く重心を落とす。その背中には迷いがない。


「俺が前線を維持する」


 スタークは無言で弓を引き、矢をつがえた。視線はすでに闇の奥を射抜いている。


「後方支援は任せろ」


 ヨハンは小さく呪文を呟き始め、空気がわずかに震えた。


「補助魔法、準備完了」


 ミアは杖を胸元で握りしめる。細い指に少しだけ力がこもる。


「回復は私が担当します」


 一瞬の静寂。


 そして全員の視線が、最後の一人へと向けられた。


「……で、お前は?」


 鈴音はわずかに首を傾げる。その仕草はどこか無機質で、感情の起伏が読み取れない。


「サポートです」


 間髪入れずに返ってきた答えに、スタークが眉をひそめる。


「……どんなサポートだ?」


 ほんのわずかな間。


 鈴音は瞬きを一つだけして、静かに言った。


「清掃です」


 再び沈黙が落ちる。


「……そうか」


 納得したのか、していないのか分からないまま、彼らはダンジョンの中へ足を踏み入れた。


 内部は外よりもさらに暗い。壁面は湿り、足元はぬかるんでいる。水滴がぽたり、ぽたりと落ちる音がやけに響いた。


 鈴音は周囲を見渡し、わずかに眉を寄せる。


(環境汚染、確認)


(濃度……高い)


 その感覚は他の誰にも共有されない。ただ彼女の中だけで、淡々と処理されていく。


 やがて、最初の気配が現れた。


 ガサリ、と闇が揺れる。


「ゴブリンだ!」


 小柄で緑色の皮膚を持つ怪物たちが、粗末な刃物を振りかざしながら飛び出してくる。


「隊形維持!」


 アベルが踏み込み、盾で最初の一撃を受け止めた。鈍い衝撃音が洞窟内に響く。


 その隙を逃さず、スタークの矢が一直線に飛ぶ。


 一体、倒れた。


 ヨハンの放った簡易魔法が次の個体を吹き飛ばし、ミアはすぐに回復の準備に入る。


 基本に忠実な連携。無駄のない動き。


 だが、その戦いを見つめる鈴音の視点は、まったく別の場所にあった。


(汚染過多)


 一歩、前へ出る。


「おい、前に出るな!」


 誰かの声が飛ぶ。


 だが、遅かった。


 鈴音の手には、すでに箒が握られている。


 スキル起動――剣箒。


 それは形を変えるわけではない。


 だが、“扱い方”が変わる。


 掃除道具であるはずのそれは、意思と魔力を通じて、刃へと変換される。


 切断の概念を宿し、軌道に従ってすべてを断つ。


 一振り。


 横薙ぎ。


 空気が静かに裂ける。


 次の瞬間、目の前のゴブリンの身体が、何の抵抗もなく二つに分かれた。


 あまりにも滑らかで、あまりにも自然な断裂。


「……は?」


 誰かが間の抜けた声を漏らす。


 さらに一体、突っ込んでくる。


 鈴音は体をほとんど動かさず、手首だけで箒を回した。


 縦。


 斜め。


 二つ、三つ。


 ゴブリンたちは断片となり、音もなく地面へ落ちる。


「……それ、サポートじゃないだろ!」


「清掃です」


 即答だった。


 迷いも、照れもない。


 ただ事実を述べているだけ。


 さらに増援が押し寄せる。


「囲まれるぞ!」


 鈴音は軽やかに踏み込んだ。


 足音はほとんどしない。


 動きは最小限。


 だが、その一撃一撃は、完璧に急所を捉えている。


 腕が落ちる。


 脚が断たれる。


 胴体が分かれる。


 何一つとして、原型を保つものはなかった。


「……全部、斬ってる……」


 スタークは弓を下ろしたまま呟く。


「俺、撃つ必要あったか……?」


 鈴音は立ち止まり、周囲を見渡す。


(エリア清掃率……不十分)


(残留汚染あり)


 そのときだった。


 地面が、低く唸るように震えた。


「何か来るぞ!」


「全員、下がれ!」


 闇の奥から現れたのは――巨大な影。


 やがてそれは姿を現す。


 巨大なイノシシ。


 異様に膨れ上がった筋肉、赤く濁った眼、鋭く伸びた牙。


「はぁ!?イノシシ!?」


「こんなの聞いてないぞ……!」


「Fランクじゃないだろ、これ……!」


 空気が一気に張り詰める。


 次の瞬間、イノシシは地を蹴った。


 その巨体に似合わぬ速度で、一直線に突進してくる。


「防御!」


 アベルが盾を構える。


 衝突。


 凄まじい衝撃。


「ぐあっ……!」


 足が地面を削りながら、後方へ押し込まれる。


「くそ……止まらない!」


「無理だ、耐えきれない!」


 鈴音はそれを静かに観察していた。


(大型障害物、確認)


(汚染レベル、極めて高い)


 結論は一つ。


(強化対応、必要)


 箒を持つ手がわずかに動く。


 内部で魔力が変質する。


 深く、暗く、静かな力へと。


「……何をする気だ?」


「普通の魔法じゃないぞ、あれ……」


 鈴音は一歩踏み出す。


 ゆっくりと箒を持ち上げた。


「殺魔法 - デルタ」


 振るう。


 ただ、それだけの動作。


 だが、その軌跡の先で 空間が沈んだ。


 闇が口を開ける。


 底の見えない、深淵。


 突進してきたイノシシは、そのままその“裂け目”を通過する。


 一瞬、何も起きない。


 静寂。


 だが次の瞬間。


 その巨体が、ばらばらに分解された。


 血も飛ばない。


 音もない。


 すべてが闇に呑まれ、存在ごと消失する。


 後には、何も残らなかった。


 ダンジョン内は、嘘のように静まり返る。


 誰も動けない。


「……今の……」


「一瞬で……」


「反応すらできなかった……」


 鈴音は何事もなかったかのように箒を下ろす。


(清掃完了)


 再び周囲を見渡す。


 まだ細かな残骸がある。


(作業、継続)


「先へ進みます」


「……本気で言ってるのか?」


「はい」


(任務、未完了)


 その言葉に、誰も反論できなかった。


 そして彼らは進む。


 さらに奥へ。


 気づかないまま。


 このFランクダンジョンが、すでに“常識”から外れていることに。


 続く。



……あ、最後にちょっとしたノロケというか、私信に近い独り言を。

ハハハ、正直に言っちゃいますけど、花見さんとの会話が最高すぎて……。ぶっちゃけ、彼女はドストライク、まさに僕のタイプの女性なんですよ。(ちなみに「花見」というのは、その時私が勝手につけた偽名です。本名は秘密!)

OPメイドだの何だのを書いておきながら、作者本人はこんな感じで浮ついています。

彼女とのやり取りで充電したエネルギーを、しっかり執筆(と、次のアニメ鑑賞)にぶつけたいと思います!

それでは、また次のチャプターでお会いしましょう。

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