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黄昏バキューマーズ ~汲み取り屋の娘が社長になります。“当たり前”を守る大切な仕事です~  作者: トネガワ ワタル


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第6話 会いに行く日

 入社して、一週間。


 土曜日。


 会社は休み。


(……やっと休み)


 正直、体が重い。


 でも。


(行くか)


 病院へ向かう。


 最初の一週間は来なくていい、と言われていた。


 きっと忙しいから、と。


(絶対、気使ってたよね)


 分かってる。


 だから、今日来た。


「久しぶり」


 病室の扉を開ける。


「あら、来たの」


 母はいつも通りだった。


(よかった)


 少しだけ、安心する。


「どう?会社」


 やっぱりそれを聞く。


(来るよね)


「まあ、なんとか」


 少しだけ笑う。


「ほんと?」


「うん」


 本当は。


(全然なんとかじゃない)


 臭いし。


 きついし。


 失敗ばっかだし。


(帰りたいって毎日思ってるし)


 でも。


「みんな優しいし」


 それは本当だ。


「ヒデさんもちゃんと教えてくれるし」


「そう」


 母が少しだけ頷く。


「……現場、入ってるでしょ」


(バレてる)


「まあ……ちょっとは」


「ちょっと、じゃないでしょ」


 即答だった。


「顔見れば分かる」


(そんな分かる?)


「最初、きついでしょ」


「……まあね」


 少しだけ、言葉が漏れる。


「私もやってたからね」


 母が言う。


「和也くんが入るまでは、お父さんと一緒にね」


「一人で出てたこともあるの?」


「あるわよ」


 あっさり言う。


「忙しいときは一人で回ってた」


(マジか)


「だから分かる」


 一拍。


「きついでしょ」


(……)


 言葉に詰まる。


 言いたかったこと。


 全部、そこにあった。


「……まあ」


 結局、それしか言えない。


 母はそれ以上聞かない。


 ただ、少しだけ笑う。


「でもね」


「うん」


「やってるうちに分かってくるの」


「何が?」


「意味」


(意味)


「最初はただの汚い仕事にしか見えない」


「……うん」


 否定できない。


「でも」


「止まったら困るでしょ」


 その一言。


 思い出す。


 “ありがとうございました”って言われた時。


「……うん」


「それを止めない仕事なの」


 静かに言う。


「目立たないけどね」


「地味だね」


「地味よ」


 即答。


「でも」


「なくなったら一番困る」


(……)


 少しだけ、腑に落ちる。


「……ちょっと分かってきたかも」


 ぽつりと出る。


「そう」


 母はそれだけ言った。


 それ以上、何も言わない。


 でも。


 少しだけ、安心した顔をしていた。


 帰り道。


(結局、言えなかったな)


 愚痴も。


 弱音も。


(まあ、いいか)


 全部言わなくても。


(分かってたし)


 空を見る。


 少し傾いた空。


(前より、嫌じゃない)


 あの時間。


 少しだけ、見方が変わっていた。


「……来週もあるのか」


 ため息。


 でも。


 足は止まらない。


 止めちゃいけないものがあると、少しだけ知ったから。


――黄昏バキューマーズ。

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