第7話 緊急出動!
その日は、もう終わりのはずだった。
「おつかれー」
会社に戻る。
体が重い。
(今日は早く帰れる)
そう思った、その時。
ガラッ
「ちょっと待って!」
篠塚さんが飛び出してくる。
(嫌な予感)
「中華料理屋さんから!」
「排水が詰まったって!」
(来た)
「夜の営業前に何とかしたいって!」
全員、止まる。
「ヒデさん」
和也が見る。
「あそこんち、また脂だな」
一瞬。
「……はい?」
「俺が先に行く」
ヒデさんがもう動いてる。
「バキュームで当たりつける」
振り返りもせずに言う。
「彩乃」
「はい!」
「軽トラに高圧積め」
(高圧?)
「和也と来い」
それだけ言って、出ていく。
(高圧って何!?)
「行くぞ」
和也が歩き出す。
ついていく。
倉庫。
「これ」
指差す。
(でかい)
「高圧洗浄機」
(あ、聞いたことあるやつ)
「詰まりブッ飛ばす」
シンプル。
「積むぞ」
「はい!」
重い。
(なんでも重いなこの会社)
機械と水タンク。
よくわからないホースのようなもの。
なんとか積む。
出発。
現場。
中華料理屋。
「お願いします!」
オーナーが焦っている。
「もうすぐ夜の営業始まるんで……!」
「間に合わせる」
ヒデさん。
すでに蓋を開けている。
「やっぱり脂だ」
覗く。
(うわ……)
白っぽく固まってる。
「流入口と手前の配管、詰まってる」
淡々と状況を言う。
「俺が浄化槽のほう引く」
「和也は高圧」
「了解」
動きが早い。
ヒデさんは太いホースを準備する。
(太い……)
「これは無理だ」
ちらっとこっちを見る。
「お前は和也手伝え」
「はい!」
和也の方へ。
「これ持って」
ホースじゃない。
コック。
「俺が声かけるから、開け閉めだけ」
「分かりました」
(それならできる)
桝の蓋を開ける。
ノズルを入れる。
「開けて」
「はい!」
ひねる。
ブシャァッ
「うわっ!?」
水しぶき。
ミスト。
(くさっ!!)
今までと違う臭い。
油。
腐敗。
(これもキツい……!)
「止めて」
「はい!」
閉める。
「もう一回」
「はい!」
また開ける。
ブシャァッ
「うおっ、顔上げろ!」
「はい!」
言われた通り顔を逸らす。
(学習)
「手強いな」
和也が呟く。
ノズルを何度も押し込む。
ぶつける。
(戦ってる……)
「浄化槽の固まり取れたぞ!」
向こうからヒデさんの声。
「じゃあそっち行く!」
移動。
今度は浄化槽側。
流入口にノズルを入れる。
「開けて」
「はい!」
水が走る。
何度も、何度も。
叩くように。
「……お!」
その瞬間。
ドバッ
水が一気に流れ込む。
「抜けたな」
和也が言う。
(おお……!)
ちょっと感動する。
気づけば。
外は暗い。
「はいー照明係さんの到着でーす!」
後ろから声。
ハラちゃんとスミちゃん。
大型のライトを持ってきた。
「おせえよ」
和也。
「もう抜けた」
「マジっすか!?」
「出番なし!?」
「あるよ」
ヒデさん。
「片付け」
「ですよねー」
ハラちゃんが肩を落とす。
その後。
何度も洗浄。
丁寧に。
最後まで仕上げる。
作業完了。
「助かりました!」
オーナーが何度も頭を下げる。
「これで営業できます!」
(間に合ったんだ)
ちょっと嬉しい。
帰り道。
体が重い。
(疲れた……)
でも。
(なんか、いいな)
役に立てたかは分からない。
でも。
(困ってるのは助けられた)
それだけで。
少しだけ、満たされる。
「彩乃」
ヒデさん。
「こういうのが一番困る」
「……はい」
「だから一番助かる」
(……)
短い言葉。
でも。
ちゃんと届いた。
会社に戻る。
「おつかれー」
スミちゃん。
「残業代出るぞ」
「やった!」
ハラちゃん。
「それ目当てかよ」
「いや疲れたんで!」
「正直だな」
笑いが起きる。
その中で。
少しだけ。
自分も笑っていた。
(……悪くないかも)
今日の疲れは重い。
でも。
嫌じゃなかった。
――黄昏バキューマーズ。




