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黄昏バキューマーズ 〜20代の娘がいきなり汲み取り屋の社長になる!。“当たり前”を守る大切な仕事です~  作者: トネガワ ワタル


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第34話 引き継ぐ人

 あの会議のあと。


 少しずつ。


 本当に少しずつだったけど。


 仕事は戻り始めていた。


 電話が鳴る。


「またお願いしたいんだけど」


 その言葉だけで。


 空気が少し軽くなる。


 定岡のところは、かなり大変らしかった。


 従業員が何人も辞めてしまい。


 今は、雅和さんと潤太さんの二人だけ。


 当然、仕事が回らない。


 そこで。


 雅和さんが頭を下げてきた。


「悪ぃが、回れねぇ分フォローしてくれねぇか」


 西本。


 鹿取。


 そして中畑。


 3社で手分けして回ることになった。


 しかも。


「売り上げはそのまま受け取ってくれ」


 雅和さんはそう言った。


「迷惑かけた分だ」


 その言葉に。


 西本社長は。


「律儀だねぇ」


 苦笑いしていた。


 結果。


 会社は逆に忙しくなった。


「ハラァ!ホース持ってこい!」


「持ってますよ!」


「じゃあなんで俺が持ってんだよ!」


「スミさんが勝手に持ったんでしょ!」


 いつもの漫才も戻ってきた。


 事務所に笑い声がある。


 それだけで。


 安心する。


 ヒデさんも。


 和也も。


 あのピリついた空気が消えていた。


 忙しい。


 でも。


 前みたいな“嫌な忙しさ”じゃない。


 ちゃんと前を向いている感じ。


 そんな日々だった。



 ある日の夜。


 家に帰ると。


「聞いたわよ」


 母が笑っていた。


「え?」


「会議で定岡さんに言ったんだってね」


 一気に気まずくなる。


(西本さんだな絶対)


「……まぁ」


「ちょっと感情的になっちゃって」


 恥ずかしい。


 今思い返すと。


 かなり熱くなっていた。


 でも。


 母は優しく笑う。


「いいのよ、それで」


「え?」


「守るものがある人はね」


 一拍。


「言う時は、ちゃんと言わなきゃ」


 静かな声だった。


 でも。


 すごく、温かかった。


 その目を見て。


 少しだけ胸が熱くなる。


 そして。


 母がぽつりと言った。


「そろそろ、いいかもね」


「……え?」


「会社」


 一拍。


「任せるわ」


 意味を理解するまで。


 少し時間がかかった。


「え……」


「彩乃が正式に社長になるの」


 ついに。


 来た。


 この時が。


 ずっと逃げたかった場所。


 絶対継がないと思っていた会社。


 でも。


 今は。


「……はい」


 迷わず答えられた。


 自分でも驚くくらい。


 自然に。


 はっきりと。


「私が、引き継ぐ」


 そう思えた。


 もちろん。


 まだ未熟だ。


 分からないことだらけ。


 失敗もする。


 でも。


 逃げたいとは思わなかった。


 もう。


 この会社は。


 “嫌な場所”じゃなくなっていた。


「でもね、お母さん」


「ん?」


「変えたい事、あるんだけど」


 母が少しだけ目を丸くする。


 少しの沈黙。


 でも。


 すぐに笑った。


「いいわよ」


「もう任せるんだから」


 その言葉。


 重い。


 でも。


 嬉しかった。



 後日。


 正式な引き継ぎ準備が始まった。


 母。


 篠塚さん。


 そして彩乃。


 経理。


 契約。


 許可関係。


 銀行。


 知らなかった仕事が山ほどある。


「社長って大変でしょ~?」


 篠塚さんが笑う。


「今さら分かりました……」


「今さらかい」


 呆れられる。


 でも。


 どこか楽しかった。


 そして。


 彩乃が“変えたい事”。


 その準備も少しずつ始める。



 現場を回りながら。


 みんなにも話は広がっていく。


「お、ついに若社長か!」


 スミちゃんが笑う。


「いやぁ、めでたい!」


「お前なんかやらかすなよ!」


「スミさんの方が心配ですよ!」


 いつものやり取り。


 でも。


 その奥に。


 ちゃんと応援がある。


「頼むな」


 和也も言う。


「はい」


 自然に返せた。


 ヒデさんだけは。


 何も言わない。


 いつも通り。


 黙っている。


 でも。


 ちゃんと分かる。


 支えてくれている。


 言葉じゃなく。


 背中で。


 行動で。


 それが。


 あの人らしかった。


 そして。


 その日が来る。


 空は。


 少し赤く染まり始めていた。


 黄昏。


 境界の時間。


 でも今は。


 不安だけじゃない。


 この景色を。


 この人たちを。


 守りたい。


 そう思える。


 そんな夕暮れだった。


――黄昏バキューマーズ。

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