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黄昏バキューマーズ 〜20代の娘がいきなり汲み取り屋の社長になる!。“当たり前”を守る大切な仕事です~  作者: トネガワ ワタル


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32/35

第32話 戻り始めるもの

 早いもので。


 騒動が始まって1年近くになる。


 まだまだ好転の兆しは見えない。


 と、思っていたが。



 朝。


 電話が鳴る。


「はい、中畑清掃です」


 篠塚さん。


 いつも通りの声。


「……はい」


 少しだけ、間。


「はい、もちろん伺います」


 受話器を置く。


 顔を上げる。


「……戻ってきた」


 一言。


 静かに、落ちる。


「マジか」


 スミちゃん。


「どこ?」


 和也。


「前にうちでやってたとこ」


 ざわっと空気が揺れる。


「理由は?」


「“ちょっと見てほしい”って」


 それだけ。


 でも。


 全員、分かる。


(始まった)


 現場。


 久しぶりの家。


 蓋を開ける。


「……あー」


 和也が息を吐く。


(雑)


 明らかに。


 管理が甘い。


 汚泥の状態。


 機器の状態。


 全部、中途半端。


「やってるにはやってるけど」


「ちゃんと見てねぇな、これ」


 お客さんが不安そうに覗く。


「どうですか……?」


 その声。


 前と同じ。


 でも。


 今は分かる。


 その奥。


(困ってる)


 顔には出てない。


 でも確かにある。


 “あの感じ”。


「大丈夫です」


 和也が言う。


 落ち着いた声。


「ちゃんと戻します」


 作業開始。


 ホースの音。


 水の流れ。


 いつも通り。


 でも。


 一つ一つが、丁寧だ。


 無駄がない。


 誤魔化しもない。


 ただ。


 やるべきことを、やる。


 終わる。


「ありがとうございました」


 お客さんが頭を下げる。


 その顔。


 少しだけ。


 軽くなっている。


(ああ)


 彩乃は思う。


 これだ。


 この顔。


 これが。


「……安心」


 小さく呟く。


 和也がちらっと見る。


「分かってきたか」


「……うん」


 頷く。


 帰り道。


「これから増えるぞ」


「雑なのはバレる」


 一言。


「仕事ってのはな」


「そういうもんだ」


 久しぶりの、明るい声。



 会社に戻る。


 また電話。


「はい、中畑清掃です」


 篠塚さん。


 少しだけ、口元が上がる。


 切る。


「……もう一件」


 空気が、変わる。


 少しだけ。


 本当に少しだけ。


 でも。


 確実に。


 戻り始めている。


 夕方。


 外。


 夕焼け。


 あの日と同じ色。


 でも。


 違って見える。


(終わってない)


(まだやれる)


 拳を握る。


 隣で。


 ヒデさんが空を見ている。


 何も言わない。


 でも。


 その背中が、答えだった。


 守る。


 その意味が。


 少しだけ、分かった気がした。


 夕焼けが沈む。


 でも今回は。


 暗くならない気がした。


――黄昏バキューマーズ。

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