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黄昏バキューマーズ 〜20代の娘がいきなり汲み取り屋の社長になる!。“当たり前”を守る大切な仕事です~  作者: トネガワ ワタル


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第31話 守る

 朝。


 ヒデさんが、いなかった。


 それだけで。


 何かが、ズレる。


「……珍しいな」


 和也が呟く。


 それ以上は言わない。


 誰も聞かない。


 でも。


 全員が思った事。


(ヒデさんが動きだしたか)


 その日。


 仕事は、いつも通りだった。


 いや。


 “いつも通りにしようとしていた”。


 誰も余裕がない。


 笑いもない。


 ただ、回す。


 回すしかない。




 その頃。


 古い事務所。


 くすんだ看板。


 “定岡”


 ドアが開く。


 音が、やけに響く。


「……」


 ヒデさんは、何も言わない。


 中に入る。


 座らない。


 立ったまま。


 奥にいる男を見る。


「……ヒデさん、お元気そうで」


 定岡の先代、雅和。


 

 その声に。


 わずかに、緊張が混じる。


 ヒデさんは答えない。


 一歩。


 踏み込む。


 距離が、近い。


 近すぎる。


 逃げ場がない。


「聞いてんのか」


 低い。


 静か。


 でも。


 重い。


「お前の息子」


 一拍。


「何やってるか」


 沈黙。


 雅和が視線を逸らす。


 それで十分だった。


「……分かってる」


 小さく。


 言う。


 ヒデさんは、動かない。


 ただ、見ている。


「止まらねぇんだ」


「売上がな」


「落ちて――」


「だからって」


 被せる。


 一歩、近づく。


 空気が変わる。


 温度が、下がる。


「やっていいことと」


 一拍。


「悪ぃことがあるだろ」


 視線を逸らさない。


 逃がさない。


 雅和が黙る。


 言い返せない。


 沈黙。


 重い。


 その中で。


 ヒデさんが、口を開く。


「俺はな」


 短い。


「守る」


 それだけ。


 でも。


 その一言に。


 全部、乗っている。


「親父や兄貴が守ってきたように」


 ゆっくり。


「今の社長も」


 そして。


 ほんの少しだけ。


 目線が変わる。


「次の社長もな」


 空気が、止まる。


 完全に。


 音が消える。


 雅和が、息を飲む。


 理解する。


 これは。


 話じゃない。


 “宣言”だと。


「……あいつを」


 雅和が言う。


「止める」


 それしか言えない。


 それでいい。


 ヒデさんは、何も言わない。


 振り返る。


 歩く。


 止める者はいない。


 ドアに手をかける。


 開ける。


 その時。


「……申し訳ない」


 後ろから。


 小さな声。


 ヒデさんは、止まらない。


 外に出る。


 ドアが閉まる。


 音が、やけに大きく響く。


 それで。


 終わりだった。




 夕方。


 会社。


 いつも通りに、戻る。


「おう」


 それだけ。


 何も言わない。


 誰も聞かない。


 でも。


 分かる。


 何かが、変わった。


 ほんの少し。


 でも確実に。


 空気が、戻り始めていた。


 外。


 夕焼け。


 久しぶりに。


 ちゃんと、綺麗に見えた。


――黄昏バキューマーズ。

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